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『野菜大王』と『文具大王』第3章・大王裁判

大王裁判

前章までのあらすじ
ピーマンが嫌いな康太はこっそり捨てて誤魔化していた。ある晩野菜大王の使者と名乗る化け物の隊列に囚われ見知らぬ星の牢屋に入れられてしまった。独りぼっちの康太の牢屋にひとりの少年が囚われて来る。鉛筆を万引きし文具大王の使者に摑まったのである。少年の名はネロ、カンボジアの少年であった。
 康太はネロの故郷の貧困さを知り絶句、寂しさをかばい合う二人は友達になった。そして、大王裁判の時が来る。


大王裁判

遠くからまたあの声が近づいてきた。
「野菜大王!」ガジャ!
「文具大王!」ガジャ! 
「野菜大王がお呼びである。山村康太を受け取りにまいった」
ピーマンの化け物が言った。
「同じく文具大王がお呼びである。サロット・ネロを引き取る」
鉛筆の化け物が続く。
「了解した!」
鍵の束を探りながら鉛筆の化け物が康太たちの牢に近づいてくる。
「ふたりとも出なさい! 裁判の時が来た」
鉛筆の化け物がそう言って鉄格子のかぎを開けた。ふたりは、それぞれの化け物に連れられて、入ってきたトンネルとは反対のトンネルに連れて行かれた。
 トンネルを抜けるとそこは明るく広い部屋になっていて、正面の少し高い位置に二体の化け物が座っていた。一体目は、頭がジャガイモで、人参の角が生えていた。もう一体は、頭が三角定規のように三角で肩からは何本もの色鉛筆が突き出た鎧のようなものを着て、二体とも鋭い目がつり上がり、牙の生えた大きな口を広げているのは他のそれと同じだった。
「まずは私の方からの裁きで良いでしょうか? 野菜大王」
「そうですね。そちらの案件の方が簡単でしょうから文具大王からお裁き下さい」
「ではお先に。サロット・ネロ前に出なさい。お前は鉛筆を折ったそうだな? 一生懸命に鉛筆を作ってくれた人たちに申し訳ないと思わぬか?」文具大王がネロに聞いた。
「僕は、確かに盗んだ鉛筆を折りました。」
鉛筆の化け物二体に押さえつけられながらネロが答える。
「盗んだ? 盗んだ鉛筆を折って無駄にしたというのか?」
「はい認めます。僕は罪を犯しました。ごめんなさい」
「その鉛筆を折ってしまったのなら文房具店に返すことは出来ないな」
「すみません。出来ません」
ネロがうなだれて言った。
「なぜ、そのような行為に至った?」
文具大王は声をあらげた。
「鉛筆は、半分に切って弟と妹にあげてしまいました。ごめんなさい」
「弟たちが使用しているのか?」
「はい、弟たちが勉強に使っています。ごめんなさい」
ネロは何度も謝った。
「ではネロ、君は何を使って勉強をしておる?」
文具大王がネロに問いかけた。
「僕の家は貧乏で両親の手伝いが忙しくて学校にはあまり行けません。農作業の休憩時間に土に書いて文字や算数を復習するくらいです」
ネロは恥ずかしそうに答えた。
「つまりネロは自分の為ではなく、弟たちを学校へ通わせるために働き、彼らの為に盗みを犯し、その鉛筆を彼らに分け与えたと申すのだな?」
その問いにネロは答えず、ただ一言こう言った。
「ごめんなさい」
「利他による行為か。意外に難しい案件になった。審議いたす。しばし待て!」
文具大王は野菜大王に何かをささやくとお付きの化け物三体と別の部屋に移動して行ってしまった。

「この時間に山村康太の審議を行う事にする」
野菜大王が強い言葉で言った。康太はピーマンの化け物に引きずられ野菜大王の前で押し出された。震えている康太に向かって野菜大王の大きく裂けた口が開いた。
「山村康太! お前はピーマンが嫌いか?」
「嫌いです。食べられません」
康太は正直に答えた。
「だからピーマンをゴミ箱に捨てていたのか?」
「だって食べられないのだもの」
「ならば何故、自分はピーマンが食べられないから残しますと堂々と言わないのである?」
「叱られるでしょ」
「誰に?」
「パパやママそれに先生」
「自分が叱られるのが嫌だから、農家の方々が丹精を込めて育てたピーマンをゴミ箱に捨てたと言うのか?」
「……」
「お前の栄養バランスを考えて父上や母上はピーマンを料理しているのに、それをこっそり捨てて知らぬ顔をして平気なのか?」
「……」
「何も言い返す事がないようだな。山村康太! お前は有罪。ファーム行きを命ずる」
「ファーム?」
「そうだ! お前はファームへ行ってピーマンを育てるのだ。農家の方々が、ひとつのピーマンを収穫するまでにどれだけ苦労をしているのかを、身をもって体験してくるのだ」
野菜大王が康太に判決を言い渡している所に文具大王が戻ってきた。
「文具大王、お先に失礼いたしました。こちらの案件の方が簡単でした。この不届き物はファームに送って徹底的に根性を叩き直します」
「分かりました。こちらの案件は意外に苦労しました。議論の末に決定いたしました」
文具大王が席に着きながら言った。
「さて、サロット・ネロ。お前は、無罪とする。直ちに家に帰り弟たちの面倒を見るが良い。ただし、お前のした事は犯罪である。この度は弟たちの為に行ってしまった行為として、無罪とするが二度目は無いと思いなさい」
文具大王の声は言葉の割には優しく聞こえた。
「ねえ! 野菜大王様、僕はファームいやだよ! 助けて下さい。ごめんなさい」
文具大王の判決を聞くか否かの時に康太が叫んだ。
「往生際の悪い奴だ。この自分勝手な不届き物を早くファームに連れて行きなさい!」
野菜大王が叫んだ瞬間!
「野菜大王!」ガジャ! ピーマンの化け物が二体、康太の腕を取っていやがる康太を引きずるように引っ張った。
「嫌だ! 嫌だ! ピーマン食べる。もう絶対捨てない」
泣き叫ぶ康太は必死に訴えたが野菜大王の首は縦には動かなかった。その時、ネロが大声で訴えた。
「文具大王様!」
「何じゃ? サロット・ネロ」
文具大王が聞いた。
「僕は鉛筆を盗み粗末にして折りました。僕は人としてやってはいけない事をしてしまったのです。文具大王様はお許しいただけると言って下さいましたが、僕は自分の罪を償いたいと思います。康太と一緒にファームへ連れて行って下さいませんか? 僕の国は日本の人達に学校を建てて頂いています。そのお陰で弟たちは、毎日勉強が出来ます。それに、僕の家は農家ですがピーマンを育てた事が有りません。僕もピーマンの育て方を勉強したいと思います。お願いします」
ネロは真剣だった。その目を見つめていた文具大王は隣に座っている野菜大王に何やらささやいた。
「それがネロの希望であるならば良かろう。野菜大王様のお許しを頂いた。康太と共にファームに行きなさい」
文具大王は優しく言った。
「ふたりをファームへ!」
野菜大王が言った。康太とネロはピーマンの化け物と鉛筆の化け物にそれぞれ連れられて、外に止まっていたかぼちゃの飛行船に乗せられた。かぼちゃの飛行船は大根の宇宙船と異なり、ゆっくりと宙に浮くと徐々にスピードを上げて、小屋が並んでいる農場の空まで飛んだ。
「あの一角のハウスがお前たちの畑だ。そして、その横の小屋がお前たちの家だ、逃げ出そうとしても無駄と言う事だけは伝えて置くぞ」
ピーマンの化け物が角棒で示した小屋の脇にかぼちゃの飛行船はゆっくりと着陸した。
                               つづく

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