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〈自分教〉わたしの宗旨は「自分教」3 

化けの皮


よその犬に噛まれたとき わたしは死の恐怖におそわれた
でも 傷を負いながら母にさえ助けてといわなかった
一日三百円で過ごしていたとき わたしに明るい未来はあるのかと嘆いた
でも 三度三度食べたモヤシや豆腐にも愚痴はこぼさなかった
会議で上司にののしられたとき 会社をやめようかと落ち込んだ
でも 同僚たちが心配してくれる顔へ笑ってごまかした
腰が折れる事故に遭ったとき ああこれで死ぬのかと観念した
でも 神さま! と心のなかで声をあげはしなかった
 
苦しいのに「くるしいから助けて」と叫ばない
困っているのに「こまっているから手を貸して」と求めない
悲しいのに「かなしいから慰めて」と甘えない
怖いのに「こわいから守って」とすがらない
 
我慢することは強いことなのだと錯覚している
頼らないことは潔いことなのだとうぬぼれている
そもそも 人生はそんなものだと悟ったフリをしている
人間不信というヤツは神を信ずるより根深い
だから 神頼みより自分恃(だの)みのほうが勝っているのだ
転んで傷だらけなのだが
もしかしたら 穴に落っこちてさえいるのだが
 
あんまり弱すぎて
呻(うめ)くこともできないほどもろすぎて
そのくせ 変な自信だけはあって
過剰な自意識をもてあましてもいて
特技は「どうせ自分なんか」の自己卑下で
―頑固者の、真の謙虚さをもたない、いのちに不実な「自分教」信者


●読んでくださり、感謝します!