すぐそこにある人類の脅威

タリバーンとは何か?

元々は、アフガニスタンの各部族の集まりであったが、イスラム原理主義に傾倒することによって、アフガニスタンをはじめとした民族紛争とイスラム教の派閥争いにその主張を置き換えることによって、反米主義、反帝国主義を掲げて始まった。

とは言うものの、実際にはアフガニスタン地域に麻薬と徴税による疑似国家を形成することで旧ソ連によって統治が行われ分断されてきたタジク人、ウズベク人、トルクメン人の糾合もタリバーンが組織化された背景にあると見て良い。

また、ケシ栽培を行い、ヘロインの輸出を行う目的は活動資金の獲得と、麻薬汚染による欧米の弱体化への狙いがあるとされている。

過去、タリバーンによって守られているケシ農家の取材を行った記録映像を観たことがあるが、農家のほとんどは普通のアフガン人で、彼らは一切麻薬をやらず、自分たちが生活していくためにケシを栽培している。

タリバーンも、見方を変えればソ連邦崩壊により行き場を失った流浪の民とも言える。そして、中東紛争の影響により、スンナ派、シーア派の台頭は徐々に東方へと進み、ソ連邦から独立したタジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンといった国々に分断された状態で、行き場を失った人々を糾合していくしかない状態でもある。

タリバーンは1990年代後半に誕生したが、それはそのまま、東西冷戦の集結と時を同じくしているのだ。

タリバーン自身は、無法地帯に力による既成事実化された統治体制を作ることで、自分たちの国家建設を考えているのだろう。不安定要素を抱える中央アジア周辺国は、かつてのペルシア帝国が分断されたものであるが、旧ソ連は彼らを分断することしかもたらさなかった。そこにはソ連に対する恩讐があるはずだ。

一方で、タリバーンのように武力による統一を悲願とする原理主義者が一番欲しいのが、自分たちの統治機構が機能しているいわゆる国土だ。

シリアとイラクで暴れ回ったISISも、自分たちで国境線を引いた自分たちの王国を夢見た。

今、タリバーンが思い描いているのが、パキスタン、タジキスタン、ウズベキスタンの山岳地帯に自分たちの支配地域を拡大しようとしている。前述のように、これらの山岳地帯に元々住んでいた人々は、旧ソ連に対しての恩讐がある。自分たちの土地を終われ共産主義に染められたことで、イスラム教を否定され、富を収奪された歴史を忘れていない。

加えて、ソ連邦崩壊後、チェチェン独立を許さないプーチンによって、チェチェン独立派は徹底的に弾圧され、今もチェチェン独立派はロシア政府からテロリスト指定を受けている。

タリバーンはチェチェン独立派とも繋がっていると見られ、テロ活動を通じて、チェチェン独立とタリバーン支配地域の両面を狙っているとも言われている。

今回、シャーマン国務副大臣と王毅外相との会談は物別れに終わったと言われ、商務長官同志の会談も不調に終わった。バイデン大統領は香港に進出しているアメリカ企業に対して、対中政策の新たな方向性を示し、今後のあり方について警告を発したとも伝えられている。

この不調に終わった米中協議の直後、王毅外相はタリバーンの幹部を迎え、中東から西アジア地域の平和と安定について、米軍撤退後のアフガニスタンの安定にタリバーンの働きを期待すると語ったらしい。

この背景には、中国が進める一帯一路構想実現にアフガニスタンを巻き込みたい狙いがあり、また中国が後押しをするタリバーンが実質的な支配を行う地域がタジキスタンやウズベキスタンやキルギスあたりに出来ることで、ウイグル自治区を囲む形で影響力を与えることが可能となり、ゆくゆくは中国人を進出させ、ウイグルやチベットのように中華圏に絡めとる狙いもある。

中国の狙い

一方で、中国の国内経済は大きく後退する局面を迎えているとも言われている。

不動産バブルが終わり、必死に人民元相場を抑え込むことで、かろうじてグローバルサプライヤーの位置を守っているとも言えるが、一方で、国内の自治省は膨大な借金を抱えており、格差は開く一方だ。

当然、貧困層からは習近平政権への批判が巻き起こるのだが、それを集団監視体制でかろうじて押さえ込んでいるのが実情だろう。

赤い悪魔

アジア地域の平和と安定の一番の大きな脅威は、中国であることは間違いない。

中国が推し進める軍拡と戦狼外交は、一面で「一帯一路」の経済支援という美名の下、経済的に途上国に強い影響力を維持しながら、中国の念願である各国への軍港建設を狙っている。

そして、ジェノサイド指摘されているウイグルをはじめとした中央アジア地域に、巨大な核ミサイル基地を建設することで、内陸部においてもその影響を西方に向けて拡大している。

中国が建設している核ミサイル施設は、各国の偵察衛星から当然のように見つかる筈であるが、中国はむしろそれを意識していると言える。核ミサイル施設が見つかったとて、中国にとっては痛くも痒くもない、自分たちは軍事大国を目指していると暗に示している。

このやり方は、経済の逼迫を隠して軍拡を推し進めてきた旧ソ連のやり方と重なる。旧ソ連は、連邦にある途上国各国にソ連軍基地と核ミサイル施設を急速に作り続けてきたが、現在、それが人類の負の遺産、処分方法の見つからない核のゴミと成り果てている。ロシアは、それに対して一切、責任を取ろうとしていない。それどころか、プーチンはそれら核のゴミを自分たちの戦力だと未だに嘯いている。

旧ソ連時代の核ミサイル施設の大半は、ほぼ使い物にならないのにだ。

すぐそこにある脅威

既に壊滅状態のテロ組織ISIS(イスラム国)は、その残党がいまだに各国でテロ活動を行なっている。特に、アフリカに目を向けたISISは、イエメン、エチオピア、ソマリア、南スーダンに触手を伸ばしていると言われている。

一方、シリア国内にもイラク国内にも残党はいるとされている。

ISISが創設された当初、タリバーンとISISは仲違いをしていると言われていた。

直接的な衝突は回避されてきたが、イスラーム原理主義を掲げるISISと、民族至上主義を掲げるタリバーンとではその考え方に隔たりがある。一方で、テロ活動を通じて民衆を圧迫し恐怖政治によって支配力を維持するという点では一致していて、その為の資金源にブラックマーケットを利用することも同じだ。

ISISはイラク国内の原油を資金源に、タリバーンはアフガニスタンでのヘロインの製造と密売を資金源にしてきた。弱体化が進んだISISがタリバーンと行動を共にすることは今後も可能性としてゼロではないだろう。タリバーンがISISの狂信的な原理主義による恐怖政治を利用しないと言えるだろうか?

言い換えれば、それら世界で最も凶悪とされるテロ組織と中国が急接近したとしたら、互いの思惑がどこにあるかを想像してみることは重要だ。

鍵はウイグルにあり

先ごろアメリカ政府は公式に中国国内のチベットやウイグル民族に対してのジェノサイドを非難する声明を出した。

当然、中国政府は猛反発し、内政干渉だと言っているが、ここに問題になるのが、ウイグル綿をはじめウイグル地域では安価な労働力を使って様々な工業製品が作られており、それを西側諸国の企業が利用している点だ。

アメリカは国内法を使って、それら企業への圧力を高め、中国政府を牽制している。

そして中国はそのウイグル地域に巨大な軍事施設を置くことで、西側諸国を牽制しており、綱引きは当分の間続くだろう。

中国の思惑としては、表向き、中国は圧力で各国に影響を与える国ではないとのイメージ戦略を使いたい。

来る2022年の北京冬季五輪も、ボイコットする国が出ることなく開催したいのが本音だ。1980年のモスクワ五輪の二の舞は避けたいのである。その理由は、中国の経済成長の背景には西側諸国にある企業が大いに関係があり、そこに政治的な問題で西側諸国のボイコットが起きると、中国からの撤退の可能性が高まるからだ。かろうじて世界のサプライサイドの一翼を担う中国は、そうは言っても西側諸国の企業が中国からの撤退は無いだろうと踏んでいた。ところが、アメリカの強硬な対中政策が徐々に影響力を持つようになってきており、また、香港での人権問題やチベット、ウイグルでのジェノサイドに対する世界的な批判の声が予想以上に高まってきていることへの危機感は、強気の姿勢の中国政府の言い分とは相当に食い違っているとみるべきだ。

皮肉にも、アメリカの保守政権を倒す結果になったアメリカ国内のBLM運動には人種差別に対する世界的な意識の高まりを呼ぶ結果となり、ウイグル民族への弾圧を行なってきた中国政府も批判の対象となることになった。

ただ、急速な軍事力の増強によって、つまり力による現状変更を目論む中国政府にとって、タリバーンのように中国のすぐ西側に勢力を拡大したい組織と手を組むことは、好都合とも言える。

タリバーンの立場から言えば、同胞とも言えるウイグル族を弾圧する中国政府は敵である筈だが、勢力拡大を目論むタリバーンが、ウイグル問題を棚上げにしてでも中国政府に接近することは、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、アフガニスタンを支配地域に置きたいタリバーンにとっては好都合、といえるだろう。

そして、中国はいずれタリバーンを裏切り、タリバーンが勢力拡大した地域を飲み込むに違いない。

これらが大きな火種となって、テロ活動が活発化したり、あるいは西側諸国の介入ということにでもなれば、一食触発の事態、不足の事態が起きないとは言えない。


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