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どうして生じた?領解文問題 vol.12

松月博宣ノート

【例証編】①引き継がれた新総局

池田新総局となりましたが、これで新しい「領解文」問題の終息はますます遠くなったように思え今日もため息とともに目を覚ませました。池田氏は石上氏を継承して「新しい「領解文」をこれからも推進していく」と支持を取り付け総長になり、指名受諾演説でもそのことを明言しています。従い新総局もその路線に賛同した方々によって構成されているものと思います。

もし「私は本当はあの領解文には納得していないのだが」と言う方があれば、それは即ち「局内不一致」となります。これでは総局員の見識と資質が問われます。総局と特別職に就いたことは「大人の事情」があってなどとは今回は通用しません。石上路線の継承者であることは明確なことであろう事を先ずは申しておきます。

現に得度式で新しい「領解文」を依用すると決まったので得度習礼受講者にハガキでこれを暗唱出来るようにとの連絡が届いています。また住職補任式のプログラムにも唱和があります。坊守式にも、、、完全に唱和一色に塗り替えられていく状況です。

いつか述べておきましたが個人の信仰(内心)に異なるものを強制的に行わさせることは私たち一人ひとりの「宗教的人格権」を侵されていると言えます。宗制には

本宗門は、その教えによって、本願名号を聞信し念仏する人々の同朋教団であり、あらゆる人々に阿弥陀如来の智慧と慈悲を伝え、もって自他共に心豊かに生きることのできる社会の実現に貢献するものである。

とありますが、社会どころか宗門内そのものが、この宗制に反する在り方を呈していると言わざるを得ません。

石上氏が総長を辞めたにせよ、まだ石上氏の行ったことの総括が済んでいませんし、これほどの混乱を起こした石上氏でも、辞めてしまった人間にはもはや責任は問えないと言うこともありません。ましてや石上氏を継承するという現総局には継続してその責任は所在すると言えます。

石上氏の新領解文に関連することでまだ検証していないことがあります。それは「拝読 浄土真宗のみ教え」(黒本)から『救いのよろこび』が突如削除されたことです。この事については実践運動福岡教区委員会からの建議・意見具申など、あるいは当教区の僧侶が個人的に宗派に問い続けているものです。しかし納得のいく説明は一度もなされてはいない状況です。個人的に問いを出し続けておられるか僧侶から詳細な資料等の提供を受けていますので、次はそれらを元に私が持っている資料と証言等によりながら、今回の新しい「領解文」問題がどのような過程を経て起こってしまったのかを見ていこうと思います。

【例証編】②委員会の主導者

現代版領解文を制定することは、コンセプトを「新たな始まり」とした計画期間2005(平成17)年8月から12年間にわたる「宗門長期振興計画」の重点項目“教学・伝道の振興〝の推進事項に挙げられたことに始まります。

『拝読 浄土真宗のみ教え』初刊の「発行にあたって」には、

大遠忌法要宗門長期振興計画の一環として、2005(平成17)年、教学伝道研究所に「教学・伝道にかかる企画制定委員会」が設置されました。委員会においては、親鸞聖人が明らかにされた浄土真宗のみ教えを、現代の人々に親しみやすい表現によって示し、正しく領解した上で味わいを深めることのできる文章の制作が企画されました。その研究成果が、『領解文』のよき伝統とその精神を受け継いだ『浄土真宗の救いのよろこび』、ならびに『御文章』のよき伝統とその精神を受け継いだ「親鸞聖人のことば」であります。

とあり続いて

2009(平成21)年には、「拝読 浄土真宗のみ教え」編集委員会が発足し発刊に至った

とその経緯が”簡単かつ正確“に述べられています。
今回の新しい「領解文」制定にあたっての「制定方法検討委員会」とは趣きが違い、「企画制定委員会」を設置した上で、識者があらゆる知恵を出し合い制作したことが明かされています。この度のものは今回、新総長になった池田行信氏が所管総務として「制定方法の検討だけをする委員会」という理解に苦しむ委員会を設置し、識者の知恵を寄せて制作するのではなく、

『領解文』変遷は、先述したように、蓮如上人時代に信心の自己表明(改悔の告白)として奨励されたことに始まり、以降、法灯を伝承された歴代宗主が深く関与されてきたことが伺える。さらに、この『領解文』の精神を受け継ぎつつ、現代において「念仏者として領解すべきことを、正しく、わかりやすい文言を用い、口に出して唱和することで、他者に浄土真宗のの肝要(安心)が伝わるもの」を制定するのであれば、法灯を伝承されたご門主様に制定いただくほかはない

と、無理矢理ご門主が制定する方向付けをするためだけの委員会であったことは、その後の答申書の最重要部分の

現代版「領解文」という表現は、従来の『領解文』との混乱を招く表現であるので、新たな名称を検討すべきである

を完全無視したことで明らかです。
この委員会を主導したのが当時所管総務であった池田行信新総長であることは注目しておく必要があります。先日の総長選挙時に「新しい「領解文」の唱和推進をしていく」と支持を訴え、指名受諾演説でも同様のことを言ったことは石上智康氏同様、新しい「領解文」制定に深く関わっていたことによると言わざるを得ません。結果として門主から示されたものは石上智康という人物が著した『生きて死ぬ力』中の文言

❶「我に任せよそのまま救う」の弥陀の呼び声(該書177頁)
❷この愚身(み)を任すこのまんま(該書176頁・178頁)

などをご門主が盗用したものが制定されたかたちになってしまっています。このことはコンプライアンス的に見ても大層危ういもので、このことだけでも到底宗門あげて唱和推進出来るようなものではないと言わざるを得ません。

【例証編】③浄土真宗救いのよろこび

「浄土真宗救いのよろこび」の制定過程を見るにつけても、新しい「領解文」制定の不見識さが浮き彫りにされます。先ずは「浄土真宗救いのよろこび」制定について2007年6月号発行『宗報』487号に詳しく発表されていますので以下転載いたします。

【制作の基本理念】
<『領解文』『浄土真宗の生活信条』『浄土真宗の教章』の果たしてきた役割> 
浄土真宗では、蓮如上人の時代から、『領解文』が「真宗教義を会得したままを口にして陳述する」(注釈版-領解文解説)ものとしてえ依用されてきました。内容は簡潔であり、当時の「一般の人にも理解されるように平易に記されたもの」(同上)であり、今なお「領解出言」の果たしている役割は大きなものがあります。 しかしながら、時代の変化により、『領解文』の理解において、当初の目的であった「一般の人にも理解される平易さ」という面が薄れてきたことは否めません。また、古語であるため、現代の人々に誤解を生む可能性も生じてきています。そのため、「浄土真宗の教章」や「浄土真宗の生活信条」が創出されてきました。「浄土真宗の教章」は、五項目にわたって浄土真宗の骨格を示すものであり、「浄土真宗の生活信条」は念仏者の生活の心構えが示されています。いずれも、その果たしてきた役割は大きなものがありますが、宗門の骨格や生活の心構えであるがゆえに、『領解文』で述べられるような、教えの内容や信受した領解が直接説示されているわけではありません。

<制作の意図> 
『領解文』の精神を受け継いで、現代の人々にわかりやすい表現で浄土真宗の教えによる救い・信心の喜びを暗唱し陳述する法文を作成しました。 『領解文』は、宗門において重要な位置を占めるため、存続します。暗唱法文「浄土真宗の救いのよろこび」(案)は『領解文』に代わるものではなく、さらなる伝道資料としての依用を意図するものです。

<活用の目的>
僧侶や門信徒が浄土真宗の救いのよろこびを、日常的にあるいは法座などにおいて、口に出して繰り返し味わうことによって、ご法義を宣揚することを目的としました。

<対象>
基本的には、浄土真宗の門信徒を対象としました。

<表現の形式>
・「浄土真宗の生活信条」はわかりやすく言葉のリズムのよいものです。これに倣ってわかりやすく、言葉のリズムがよく、格調あることに留意しました。文章は基本的に口語体とし、一部文語的表現を用いました。
・言葉のリズムを考慮し、基本的に7音5音としましたが、現代語のリズムである8音5音の形式も使 用しました。
・浄土真宗にとって欠くことのできない基本的な用語を入れ込み、繰り返し味わうことで印象深くなるものとしました。また、基本的な用語を用いながらも、わかりやすい文脈にすることで、一般にもある程度理解できるものとしました。
・『領解文』が文字数207字・音数254音であることを参考にして、文字数207字・音数250音としました。

<内容>
・「浄土真宗の生活信条」と対になって依用されることを意識し、「生活信条」の「み仏の誓い」「み仏の教え」の部分の内容を明記しました。また、表題も「浄土真宗の救いのよろこび」として、「浄土真宗」を付しました。
・念仏者の領解を基本として、「私によびかけます」「私の心」という表現としました。
・「阿弥陀如来」「南無阿弥陀仏」「宗祖親鸞聖人」「浄土真宗」など浄土真宗にとって欠くことのできない基本的用語を入れました。・阿弥陀如来の本願は南無阿弥陀仏の名号となってはたらき、その名号のいわれを聞きひらいて信心が恵まれ、信心決定の上は報謝の念仏を称えつつ、報恩の生活に勤しみ、命終えれば浄土に往 生して仏果を得、還相摂化の活動をするという教義の概要を示しました。結びに宗祖のご遺徳を示し、伝道の決意を表しました。 第一段 - 本願・名号 第二段 - 聞其名号・信心歓喜  第三段 - 摂取不捨・称名報恩・報恩の生活 第四段 - 往生成仏・還相摂化 第五段 - 宗祖遺徳・伝道

<形態>
制作意図でのべたように、新たな伝道資料を提供するものですから、さまざまなばで活用されることを検討しました。

<モニタリング> 
本法文の形式や内容がどう受け止められるかを推し量る目的で、モニタリングを行う予定です。
【以上】

如何でしょうか、確かな理念構築と緻密な制作意図や活用の仕方、表現形式の整理、内容、形態に至るまで「一つの漏れを許さないという周到なる用意」をし、それでも尚モニタリングを行い受け止められ方まで視野に入れ出来上がったのが「浄土真宗救いのよろこび」であったのです。

【例証編】④制作経緯の不確かさ

確かな理念構築と緻密な制作意図や活用の仕方、表現形式の整理、内容、形態に至るまで「一つの漏れを許さないという周到なる用意」をし、それでも尚モニタリングを行い受け止められ方まで視野に入れ出来上がったものが「浄土真宗救いのよろこび」であることを『宗報』によって見てきました。

一方、新しい「領解文」の制定に至る理念や経緯は2023年1月16日に発布された「新しい「領解文」についての消息」の中で

 伝道教団を標榜する私たちにとって、真実信心を正しく、わかりやすく伝えることが大切であることは申すまでもありませんが、そのためには時代状況や人々の意識に応じた伝道方法を工夫し、伝わるものにしていかなければなりません。このような願いをこめ、令和3年・2021年の立教開宗記念法要において、親鸞聖人の生き方に学び、次の世代の方々にご法義がわかりやすく伝わるよう、その肝要を「浄土真宗のみ教え」として示し、ともに唱和していただきたい旨を申し述べました。
 浄土真宗では蓮如上人の時代から、自身のご法義の受けとめを表出するために『領解文』が用いられてきました。そこには「信心正因・称名報恩」などご法義の肝要が、当時の一般の人々にも理解できるよう簡潔に、また平易な言葉で記されており、領解出言の果たす役割は、今日でも決して小さくありません。
 しかしながら、時代の推移とともに、『領解文』の理解における平易さという面が、徐々に希薄になってきたことも否めません。したがって、これから先、この『領解文』の精神を受け継ぎつつ、念仏者として領解すべきことを正しく、わかりやすい言葉で表現し、またこれを拝読、唱和することでご法義の肝要が正確に伝わるような、いわゆる現代版の「領解文」というべきものが必要になってきます。そこでこのたび、「浄土真宗のみ教え」に師徳への感謝の念を加え、ここに新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)として示します。

と制定の理由が述べられています。この文章は「大遠忌宗門長期振興計画総括書」に記載されている内容を元にされているようですが、その制定の理由をおおまかに示すと

①真実信心を正しく分かりやすく、時代状況や人々の意識に応じた「伝わる」もでなければならない。
②これについては2021年4月15日に発表した「浄土真宗のみ教え」で示している。
③ これから先、この『領解文』の精神を受け継ぎつつ、念仏者として領解すべきことを正しく、わかりやすい言葉で表現し、ご法義の肝要が正確に伝わるような、いわゆる現代版の「領解文」というべきものが必要である。

と、説明されていますが、「『領解文』の精神を受継ぎ」とありますが、その精神を受け継いだものとなっているか、内容が「念仏者として領解すべきこと」ととなっているか、本当に「正しく、わかりやすい言葉」となっているか、「ご法義の肝要」に錯誤はないか、などお問いたいことは山ほどあります。

これらの事については先の「拝読浄土真宗のみ教え」編集委員会ではそれぞれの分野の専門家が鳩首凝議して逐一検討を加えている事柄ばかりです。しかし、この度の消息ではご門主は過去の先人方の研究成果をいとも簡単に反故にされ「ご自分の文章でそれらを上書きしてしまおうとされている」形になってしまっていると見るのは穿ち過ぎとは思えません。

と言うのは「浄土真宗救いのよろこび」は例証編③で見たように

『領解文』のよき伝統とその精神を受継いで、浄土真宗の救い、信心のよろこびを自ら口に述べる文章です。ご家庭における日常の勤行や、寺院における法座のご縁など、さまざまな場面で繰り返し用いて、み教えに出あえたよろこびを深めていただければと存じます。

第1版「拝読浄土真宗のみ教え」刊行に込められた思い転載

と「現代版領解文」としてみなしていいものと、その位置付けがなされているからです。

ご門主を私たち宗門における「宗教的権威の存在」としてお敬いしています。それは宗意安心の裁断権を門主の役割として宗法で規定しているからです。そのことは十分理解もし尊重するものですが、それにしても宗門の叡知を結集し制作したものを、その「権威」をもって同列線上のものを発布して消し去るということが果たして同朋教団と名乗る宗門の門主として相応しい宗務行為と言えるのか思いあぐね悩んでいます。

しかし門主の宗務行為は全て総局や内局などの宗務機関の申達でなされることを考えると、石上智康前総長のしたことはご門主の権威を失墜させ、消息同意に加圧された挙句、同意させられた勧学寮の信頼をも悉く打ち砕いてしてしまう行為であったと言わざるを得ません。「制定方法検討委員会」答申書の付帯意見に

本委員会の設置目的にある「権威あるもの」とは、強制し服従させるとの意味に受け取られかねないために、その文言に固執することなく門信徒に広く用いられるものにすべきである

とありますが、その懸念が見事にあたってしまったようです。

【例証編】⑤委員会での声

前掲のnoteをご覧になってもお分かりのように「浄土真宗救いのよろこび」は数人の教学専門家、国語学専門家などが集められ鳩首凝議のうえ数案を創出し、それにまた検討を加えて決定稿にしてきたのです。それらのことを一蹴して『拝読 浄土真宗のみ教え』改訂版から削除しているのです。おまけに改訂版編集委員会は設置規則もないまま、当時の石上智康総長、故丘山願海総合研究所所長、赤松龍谷大学学長、故内藤智康勧学の4人だったと言われています。

内藤智康勧学に至っては「救いのよろこび」を削除することが議題に上がったとき「前門さまも『良いものができた』と喜ばれたものなんですよ!」と憮然として席を立たれ会議から退出されたと聞き及んでいます。内藤和上はこの事を相当お怒りになってたようで、滅多に仕事のことをご令室には語られることはなかったようですが、この事についてはお話になったとも聞きます。

さて、「ご門主様に制定いただくほかはない」という「制定方法検討委員会」の答申書はどのような議論で導き出されたのか?これについて以下に記しておきます。委員からの発言内容の詳細は不明な部分もありますが意見は分かれていたようです。

ある勧学さんは

制定方法は、総合研究所での作成例からしても、なかなか皆に了解はされていないなら(筆者注:「浄土真宗救いのよろこび」と思われるが、この認識に間違いがあるように感じます)、ご門主の御消息が最善と考える。内容は関知しない。

と総局に意に沿うような発言がなされ、別の勧学さんからは

勧学でも寮員とそうでない者で見解は分かれる。勧学寮員は御消息の原案に印鑑を押す必要がある。それは原案を承認することである。もし同意できない場合は、ご門主に意見具申の必要がある。この委員会が制定を依頼するなら簡素で現代人に分かりやすい素案が必要となるが、理想的なものは想像できても、現実的には作成不可能と考えている。先を見据え作成の可否を判断した上でご門主に依頼しなければ寮員の資格はない。したがって作成不可能と考える。

と制定に対して懐疑的で相当厳しい意見が述べられたようです。それに対して事務方からは

現代版領解文の制定については、答申書案記載のとおり、大遠忌長期振興計画と宗門総合振興計画において議論が重ねられ、また本委員会設置宗則も常務委員会の議を経て、ご門主の認証を得て発布されたもの。委員から作成不可能と言われること自体、理解し難い

と事務手続き上のことで異論が述べられ(事務方としては当然ですが)、再び勧学さんからは

事務方の今の発言に、長期に亘った議論がされてきたとあったが、過去の協議で「改悔批判までの検討はなかったと認識している」と池田総務が発言しているではないか。このことは付帯意見としてではなく答申の中心としてまとめていただきたい。

と反論。
委員長からは

現代版「領解文」の大枠が問題である。現行の『領解文』を基本とすべきか、浄土真宗法義の要約かが明確ではなく、今までの計画段階で「領解文」の言葉を用いたことが間違いの始まりであり、言葉に縛られてしまい議論が噛み合わない。答申書案は「領解文」とは全く関係ない内容になっており、従って「領解文」の言葉を用いる必要はない

と「領解文」の本質を知っているからこその発言がなされている。
一方、大学関係者委員からは

現代版領解文とは真宗のご法義の受け止め方と理解した。勧学さんの意見である改悔批判と一体的である『領解文』とは分離して考えるべきである。現行の『領解文』を無価値にするのではなく、意味内容を伝道すべきであり、改悔批判でも使用いただきたい。

このような議論が交わされたのですが結果として「ご門主に依頼する消息が最善」との、ある勧学さんの発言をベースに答申書に書き込んだのが真相のようです。ここでも恣意的な展開がなされているように感じます。

松月 博宣
浄土真宗本願寺派僧侶
龍谷大学文学部仏教学科卒業。本願寺派布教使。
福岡県海徳寺前住職。
https://www.kaitokuji.info/


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