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【映画】岬の兄妹

【あらすじ】

また、真理子が居なくなった・・・自閉症の妹のたびたびの失踪を心配し、探し回る兄の良夫だったが、今回は夜になっても帰ってはこない。やっと帰ってきた妹だが、町の男に体を許し金銭を受け取っていたことを知り、妹をしかりつける。しかし、罪の意識を持ちつつも互いの生活のため妹へ売春の斡旋をし始める兄。このような生活を続ける中、今まで理解のしようもなかった妹の本当の喜びや悲しみに触れ、戸惑う日々を送る。そんな時、妹の心と身体にも変化が起き始めていた…。


※以下ネタバレ含みます※

いやぁ、キツい。

生活苦を逃れる為に、身体的障碍を持つ兄が、精神的障碍のある妹に買春させる。
この題材で希望に満ちた物語にされても、そこは必ずしも望むところではないけど、これではあまりにも救いが無さすぎる。

とはいえ、このじめっとした、薄暗い感じが僕が邦画に求める条件を完全に満たしてて、個人的には偏愛できる作品だった。

最近の邦画は、かなりの予算を掛け、セットを組み、アクションをする。
そんな映画が多くなったように思う。
言ってしまえば日本で流行った”洋画”の猿真似。

いや、そうじゃないだろと。
邦画を観るやつなんて殆どが日本人なんだから。
邦画でしか表現できない、日本人の心に訴えかける映像表現があるだろうと。

僕が邦画に求めること。
それは”陰鬱”と”悲哀”。
そしてそこに幾分かの”救い”があってもいい。

その点、『岬の兄妹』は僕の求める条件を満たしてくれた。
救いこそ皆無だが、始終曇天の港町が舞台というだけで、日本の映画を観ているんだという気持ちにさせてくれる。

物語の冒頭で、妹の捜索を手伝ってくれた警官の友人に対して、兄は「お前になにがわかるんだよ」と突き放す。
ここで、観客はこの兄の自意識がすでに捻じ曲がってしまっていると気づく。

そして、初めて妹が売れた夜に「また行きたいか?」と問う兄の心情は、どちらの答えを期待してのものなのか。
もし「行きたくない」と返ってきたら、そこで立ち止まる勇気はあったのか。

妹を売った金でマックを食べるシーン。
すげぇ汚らしくも、美味そうに映る。
この演出は素晴らしい。

演出といえば、あまりの趣味の悪さに笑ったシーンがある。
売春斡旋か商売として成り立ち始めた頃、とある爺さんの家に出稼ぎに行くのだが、情事の最中、爺さんの死んだ嫁の仏壇がずっと映されるわけ。
こんなん、趣味悪過ぎでしょ。
観てるこっちが後ろ暗い気持ちになるでしょうが。

こうして、売春を続けていれば訪れる当然の帰結。
堕胎するにも金はいる。
そんな時、兄が最後に頼るのはやはり妹。

飢えを凌ぐ為、妹に身体を売らせる。
妹の身体でお金を稼いだせいで、妊娠してお金が必要になる。
だから妹の稼いだ金で解決する。
そうしたら、お金がなくなった。
だからまた・・・。

貧困、障碍者、売春と社会性を多分に含んだ映画ではあるけど、それをどうこう語り出すのは僕は好きじゃない。

ノンフィクションと謳われている訳でもあるまいし、虚構は虚構として享受して愉しもう。
その方が絶対楽しく観れる。

かなり重く、キツイ映画ではあるけど、作品としては十分に良いものだった。

余談になるけど、自閉症の妹を演じた女優さん、あまりの演技力にもはや演技に見えないほどだったのだが、YouTubeで舞台挨拶の映像があり、そこでハキハキと言葉を紡いでいて、なぜかホッとした。
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