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COVID daiary

【2019年12月中旬】

3月下旬に中国四川省へ取材へ行くことが決定。太極拳に関する仕事。世界遺産でもある峨眉山へも訪れる予定。中国の文化と自然に触れ合う歓び。何より、また本場の火鍋を食べることができる。

【2019年12月31日~2020年1月1日】

第二回教養のエチュード賞締切。128作品が届く。友人のアーティストである広沢タダシさんの家で鍋をつつきながらカウントダウン。一年の振り返りと新年の抱負を掲げる。希望に満ちた新年。

『「読むこと」は教養のエチュード』と題して、応募作品を全て読み、感想を添えるということを決める。応募してくれたことがうれしかったので、それを自分なりの方法でお返ししたかった。

【1月中旬】

先述の試み、ようやく半分の数を紹介したところ。想像以上に喜びの声が届いてうれしい。みんな参加してよかったと思ってくれているようだ。写真家のワタナベアニさんが『ロバート・ツルッパゲとの対話』を1月31日に刊行する。リスペクトする人であり、教養のエチュード賞に多大なる支援をしていただいた恩人。アニさんを少しでも応援したいと思い『お願いを一つだけ』という記事を書く。教養のエチュード賞に参加した人に本の購入、または先行公開の記事をシェアしていただくことをお願いする。60名を超える方がシェアをしてくださる。感謝。

【1月下旬】

中国の武漢で謎のウィルスによる被害が起きていることを報道で知る。白くて分厚い宇宙服を着た人が、スプレーで薬を人にかけている映像が印象的だった。隣の国で大変なことが起きている。ウィルスの名前は「コロナウィルス」。カットライムの刺さったコロナビールの瓶を思い出した。

妻は喘息を患っていて呼吸器が弱い。東京大阪間の移動で、時間がないためにいつもマスクをまとめてストックしている。ドラッグストアでマスクを二ケース持ってレジに行くと「一人一ケースまで」と言われる。

『「読むこと」は教養のエチュード』、全ての作品に感想を添え終わる。完遂。

【2月1日】

第二回教養のエチュード賞結果発表。第一回を上回る盛り上がりを見せる。

【2月5日】

この高まった熱をどこかで一つにしたい。「教養のエチュード賞に参加した人たちで集まりましょう」と提案。今回審査をしてくださったワタナベアニさんと千原徹也さんのトークショーを企画する。たくさんの人が賛同してくれる。

実現するためには『ロバート・ツルッパゲとの対話』を50冊用意する必要がある。皆に呼びかけ、有料記事を購入してもらうことで一時的にお借りした。一日で50冊分の資金が集まる。心より感謝。一人ひとりの名前を紙に書き記す。

【2月8日】

太極拳の撮影の仕事がキャンセルに。デザインしたユニフォームが中国から届かない。コロナウィルスによる影響によって工場が止まっているようだ。早めの決断で3月の四川行きを断念する。キャンセル料が発生する。

東京ではまだそこまでマスクをしている人は少ない。

【2月中旬】

池松さん、仲さん、Saeさんと運営チームを結束。イベント名を『ロバートとベートーヴェンとの対話』と命名。会場はピースオブケイク社、日時は3月22日に決定。

サークル『教養のエチュードしよう』を開設し、参加メンバーと共に本番までの作戦を練る。毎日が楽しい。

【2月18日】

ピースオブケイク社から連絡が入る。ホールの貸し出しとイベントを延期、及び中止する可能性があるという内容。チケットを発行したところだった。すぐにチケットを売切れ表示にし、宣伝を控え、様子を伺う。

手洗いうがいを徹底する。ハンドドライヤーは使ってはいけない。

【2月23日】

モールで音楽アーティストのライブイベント。出演者は広沢タダシさんと矢野まきさん。僕は企画とファシリテーターを担当。楽屋でコロナウィルスについての話。「36度のお湯を飲めばウィルスは死ぬ」というデマが入って来る。どこの店もマスクとトイレットペーパーが不足している。

【2月25日】

ピースオブケイク社、イベントホールの使用中止が決定。『ロバートとベートーヴェンとの対話』運営はイベントの延期を報告した。無念。だが、いつか実現することをメンバーと誓う。

【2月末】

パルコで開催予定だった千原徹也さんの音楽ユニット『トーキョーベートーヴェン』のこけら落としライブが中止。取材のために会場へ向かっていたが、その道中、報せが届く。

続いて数件、仕事がキャンセルされる。同時に、数件仕事の依頼が届く。内容は、コロナウィルスの影響でイベントが中止になったためオンライン用のテキストを作成したいとのこと。

なくなる仕事もあれば、そのことによって増える仕事があるということを実感する。

【3月上旬】

コロナウィルスのニュースを見ない日はない。イタリア、スペイン、フランスで被害が拡大しているようだ。とあるコンビニで60枚入りのマスクが1万6900円で販売されていたことをニュースで知る。

街へ出るとほぼ全ての人がマスクをしている。喘息の妻が咳をすると、周りから訝しげな視線を集めた。

はじめてzoomで打ち合わせをする。使いやすさと楽しさに驚く。「もうミーティングや取材はこれでいけるじゃないか」ということを思う。

【3月12日】

WHOがパンデミック宣言をする。

金沢へ出張。大阪発の電車がガラガラ。ホテルも安価で、空室だという理由で値段は変わらずにスィートルームへ案内された。徹夜で仕事。

【3月中旬】

この頃からマスク姿でラジオの収録をするようになる。

毎日、徹夜続き。締切に追われる。この辺りの記憶がほとんどない。疲労により急性胃腸炎で倒れる。痛くて何も考えられない。

休息をとりコンディションを整える。

【3月21日】

とあるドラマ撮影の打ち合わせ。急遽、東京へ。胸がときめく仕事。世の中は「コロナ、コロナ」。街ゆく人は全員マスク。ただ、渋谷のファーストフードは若者で満席。どこへ行っても人であふれ返っている。用事がある時以外は、外出をせずに家にこもる。

SNSで見る海外は大変な様子。ロックダウンし、街は人影がない。殺伐としている。フランスでは外出すると罰金があるという。その状況の中、日本はまだ「オリンピックを開催したい」と言っている。街中での賑わいを含め、海外との温度差を感じる。

自分を含めて、この街にいるほとんどの人間は既に感染しているのかもしれない。東京では近くにスーパーもなく、外食は控えているため、食事はもっぱら無印良品のレトルトカレー。おいしいけれど、飽きる。おいしいごはんが食べたい。もうおいしいごはんを食べることができないかもしれない。

【3月24日】

IOCが安倍首相と合意し、東京オリンピックの延期を表明。

それを機に一気に冷え込みを感じる。自粛要請。ウィルスと同時に経済が心配。閑散としたニューヨークの光景をSNSで見る。

【3月27日】

大阪に帰る。「野菜できたから持って行こうか?」と父から電話。父は定年退職してからというもの、土地を借りて畑をしている。ほうれん草と大根を持ってきてくれるという。「東京帰りだから会わない方がいい」と言うと「わかった。玄関に置いておく」と父。自分は既に加害者になり得る存在なのだ。

SNSでは不安を誘うようなことは書かないようにしている。少しでも希望のある言葉を綴りたい。ただ、こわい。自分がコロナウィルスにかかったら、大切な人に移してしまう。妻は喘息を患っている。感染すればどうなるか、想像するだけでおそろしい。大切な人を守るためには、外に出ないことだ。

誰もが被害者になり得るし、加害者になり得るということを忘れてはいけない。

【3月28日】

この騒動がなければ今頃、中国の四川省にいたのかと思うと信じられない。成都のパンダ基地でパンダを見ている自分を想像する。

ふと、『知性の交換』というプロジェクトを思いつく。お互いの本を贈り合って、届いた本で「コロナの本棚」をつくる。外出できない、人と会えない日々。オンライン上のコミュニケーションだけで時間は過ぎて行く。今、足りないものは肌触りと実感だ。そして、この事態を風化させてはいけない。記録するためにもやってみる価値はある。

『ロバートとベートーヴェンとの対話』開催の先行きが見えないため、一旦サークル『教養のエチュードしよう』を解散。課金システムのないslackに移ってもらう。

【3月30日】

国民的なコメディアンの訃報。コロナウィルスの感染が原因。悲しい。どこかで「あの人なら助かるだろう」と思っていた。本当に死んでしまった。そう、この病に罹ると本当に死んでしまうのだ。

とある信頼できる筋から連絡が入る。「東京がロックダウンする」と言う。今進んでいるドラマの撮影はどうなるのだろうか。ライフラインは?食料は?物流は?国は「問題ない」と言うが、信じられない。買い占めする人の気持ちがわからなくもない。なぜなら、隣の人が必要以上に買えば、自分の分はなくなるからだ。みなが同じように考えると、「供給できる」という想定は破綻する。

都知事が緊急会見を開く。要領を得ない内容。「緊急」である意味があるのだろうか?そして、先述の連絡はデマだったことが判明する。信頼できる筋からだったので、その分余計にショックだった。何を信じればいいのか?できるだけ一次情報に当たり、自分で仮説を立てて、考えていかなくてはならない。「情報に踊らされると生き抜いていけない」という危機感を抱く。

ただ、情報を集め、自分の頭で考えることができる人は大事には至らない。これは文章を書くこととよく似ている。

【3月31日】

『知性の交換』、さっそく一冊目の本が届く。封を開けて、その手触りを確認し、泣きそうになる。この一ヵ月、心がすり減っていたことに気付く。本を手に取り、ページをめくる。「がんばれる」そう思えた。

【4月1日】

ドラマの延期が決定する。

生きていく中で、何が大事なのかを毎日考えている。

【4月上旬】

日々、締切に追われながら原稿を書く。コロナでも締切は待ってくれない。毎日のようにオンラインで打ち合わせがある。この騒動が収束したとしても、ミーティングはこの方法が主流になるだろう。

『知性の交換』、続々と本と手紙が届く。本を手に取り、手紙を読みながら涙で目がにじむ。感謝。相手が向こう側に「確かに」いてくれることに。

ラジオ番組で『知性の交換』について話をする。とても幸せな気分になった。本を贈ってくれた人に手紙を音声配信で紹介してよいか尋ねる。みんな快く承諾してくれた。CafeBarPrimadonnaというnote内のラジオで、手紙を朗読し、本を紹介する。聴いた人からうれしい言葉が届く。一対一のコミュニケーションが密になる感覚を味わっている。今、自分は大事なことをしているという実感を抱く。

毎日、国の偉い人が会見をする。国民は経済が止まった今後の生活を心配している。十分な補償はない。会見は長いわりに、要領を得ない。感染者の数は日に日に増えて行く。

希望と絶望が同居している。

【4月7日】

緊急事態宣言が発効。

退会を促したにも関わらず、サークル『教養のエチュードしよう』に継続して参加してくださる人いた。ありがたい。その人のために少しでも何かできないかと思い、有料記事を書きはじめる。有料マガジン『シルキーな日々』。文章についてのことや仕事についてのことを書いていく予定。サークルの人は無料で読めるようにした。ありがたいことに、初日から数名の購読者が現れた。ここで生まれた利益は、少しでも多くの人が笑顔になれるプロジェクトに回していけたらいい。

お世話になっているラジオ局の部長から連絡が入る。明日から館内に入ることができなくなるらしい。自宅で音声を録音してデータを送信することになる。もはやCafeBarPrimadonnaと変わらない。

テレビでは暗いニュースが続いている。ネットは極端だ。その気持ちもわかる。不安を言葉にすれば攻撃的にもなる。その中でも淡々と自分のペースでコントロールをしながら発信する人もいる。

仕事関係の人と話すと元気が出る。彼らは考え方が柔軟であり、逆境に強い。最も大事なことはウィルスに感染しないこと、そして、誰かにうつさないこと。危機的な状況は続くが、工夫できることはある。執着を捨てれば、ここは絶望ではない。希望は確かにあるのだ。


【現時点でのメッセージ】

不安な人は誰かと話してみてください。家族でも、知らない誰かでも。DMでやりとりしてもいいし、zoomで語り合ってもいいし、noteを読み合ってもいい。心が軽くなります。

信頼できる人からアドバイスをもらってください。自分に合った「方法」を教えてくれる人に。「方法」が見つかれば、少し安心できます。

「方法」を知る人は、もったいぶらずに相手に与えてください。今は助け合って乗り越えるべきです。よろしくお願いします。


日々はつづく


「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。