見出し画像

18歳差の恋愛において、大切なこと

ぼくの妻は18歳年上です。

出会った時から大切な人で、それは14年経った今も変わりません。むしろ、日を重ねるごとにその想いは強くなっていきます。彼女と出会って、ぼくは大きく変わりました。彼女が好きだった美術や陶磁器、花が大好きになりました。生きる姿勢、人への思いやり、想像力と共感力、誠実であるということ。

彼女の存在抜きに今のぼくは説明できません。彼女のことを誰よりも尊敬し、誰よりも愛おしく想っています。つよさも、よわさも、すべて含めて。

先日、「いい夫婦の日」に二人の写真を整理しました。14年前の写真を発見し、そこからこれまで歩んできた二人の歴史をゆっくりと辿りはじめました。

彼女とは、ぼくが働いていたバーで出会いました。祖父が亡くなった翌日のことだったので、〈彼女との出会い〉は祖父からの贈り物だと信じています。彼女はいつも明るく、清らかでした。強い意志と希望のことばを持っていました。

画像2

「どうしてこんなにも心がきれいなんだろう?」

彼女のことばを聴いていると、表情を見ていると不思議でした。およそ一ヵ月かけて、彼女のこれまでの人生を聴きました。彼女はたくましく、清らかで、美しい人生を送ってきました。どのような逆境も乗り越えてきました。多くの人を救い、ある部分では他者の犠牲になってきました。それでも彼女は明るく微笑んでいました。考えてみると、ぼくが最初にインタビューをしたのは彼女だったのかもしれません。

オスカー・ワイルドの『幸福な王子』のような生き方をしてきた人でした。既に彼女の身体は悲鳴を上げていました。ぼくと出会ったのは医者から「このままのペースで働くと5年以内に命を落とす」と言われた頃だったようです。

「この人を守らなければいけない」

ぼくはそう思いました。今考えると、無謀な考えだったように思います。21歳の大学生に何ができるというのでしょう。ただ、一つだけ確信を持っていたことがあります。それは「ぼくは彼女を絶対に傷つけない」ということでした。そう、ぼくは、何があっても彼女のことを守るという決意をしたのです。

「髪は女の命」と彼女は言いました。

18歳も年の差があるといろいろなことを気にするようです。特に女性が年上だった場合には。彼女は病気を患って以降、髪に色素が行き届かないようになりました。加えて、肌にアレルギーを持っていて髪を染めることができません。だから、肌にやさしい天然ハーブ由来のヘナという染料で髪を染めていました。肌はかぶれないのですが、オレンジがかった髪はごわごわしていて。彼女はずっとそのことを気にしていました。

そこで、ぼくは美容室に行きました。

画像2

「これで、悩まなくていいね」

染めていた髪をすべて切りました。このことで彼女が髪を染めることができるようになるわけではありません。ただ「髪は関係ないよ」と言いたかったのでしょう。自分のことではありますが、今になって客観的に考えてみると、「なかなかいい奴だなぁ」と自分を褒めてあげたいです。彼女はぼくの頭を見て笑っていました。

あの日から、一度も髪を染めていません。

21歳と39歳の恋愛は果たして続くのでしょうか。

二人のお店を開いた時も、お客さんからいろいろなことを言われました。

「うまくいくはずがない」「すぐに別れる」「若さには勝てない」「若いつばめ」「若気の至り」

世の中には、心ないことを言う人もいるものです。それは悪意ではなく、ふとした本音として口にしているようでした(中には悪意の人もいたかもしれませんが)。彼女はその一言一言に相当参っている様子でした。

ぼくはそのことばを耳にする度に、「あなたの場合にはね」と心の中で思っていました。それを口にする人と、ぼくたちでは考え方が全く違う。ぼくには彼女とずっと一緒に生きていく自信がありました。ぼくが20代の内は言われ続けるだろう。でも、きっと30代になればそんなことばはなくなるはずだ。実際にぼくが30代になると、周囲からぼくたちの関係に対するネガティブな声は届かなくなりました。

継続は偉大です。10年続ければ、簡単には否定できないものになる。

画像3

だからでしょうか。ぼくが先入観や偏見で相手を判断しない理由は。国籍も、性別も、年齢も、職業も。これまでに心ないことばで大切な人が傷ついている場面を何度も見てきたから。その時々で、静かに闘ってきたから。

でもね、ぼくが好きな人や尊敬する人たちは、ぼくたちの関係をいつだって肯定してくれました。いや、正確に言えば、肯定も否定もしなかった。それそのものとして受け入れてくれました。「素敵な夫婦ですね」って。ぼくたち一人ひとりを〝人〟として見てくれた。そういう人とは考え方が合うし、話していて楽しい気分になります。ぼくもそうありたい。

画像4

ユニークな家族です。愛おしい宝物です。

ぼくは彼女にたくさんたくさん支えてもらっています。いろんな景色を見せてもらっています。かけがえのない大事な想いを経験させてもらいました。心から感謝しています。今度はぼくが彼女を支え、守り続けていく。

生きる者はおしなべて、年を重ねていくことと付き合っていかねばなりません。頑丈になる部分もあれば、衰えていく部分もある。ぼくより18歳年上の彼女は、ぼくより少しだけ早く変化に対応していかなければいけません。今までできなかったことができるようになることもあれば、今までできていたことができなくなることもある。

どんな変化が起きようとも、ぼくは彼女のことを大切に想うし、彼女の一つひとつの所作を愛おしく想う。それは二人の積み重ねてきた時間がもたらしてくれた贈り物です。

画像5

写真を眺めていて感じるのですが、彼女と一緒に過ごしてきた時間が、ぼくの表情を穏やかにさせました。まるく、やさしく、強くなったように思います。きっと「愛すること」を少しずつ学んできたのでしょう。

時々、彼女は冗談っぽく「わたしが先に死んじゃったら、早く結婚しなきゃいけないよ」とぼくに言います。「どうして?」と訊ねると、「こんなにもわがままで、頑固な人は、わたし以外面倒をみることはできないよ。おじさんになったら誰も付き合ってくれないよ」と答えます。それはきっとその通りで、ぼくと一緒に生活してくれるのはきっと彼女しかいないでしょう。ぼくはこう答えます。「ぼくは手術をして腸がないでしょう。だから人より長く生きることができないから、きっと同じくらいに死んじゃうからよかったよ。もしかしたらぼくの方が早いかもしれない」。そう言って二人で笑います。

二人の物語が長く長く続くことを祈って、「今日」という一日を大切に過ごしたいと思います。



「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。