大神神社での不思議なお話。
奈良の大神神社へ参拝した時の話。
僕と妻にはよく不思議なことが起きます。
それは日常の中、仕事中に、旅先で、買い物に行くと……色々。
僕は神社仏閣が好きで、時間を見つけては車を走らせて神様に手を合わせに行きます。
〝信心深い〟というよりも清らかな場所に身を置くことで心が洗われるので、心地良いんですね。
実際にお参りをした後は体が軽くなったような気がします。
これは奈良の大神神社に行った時の話です。
その日は午前中に原稿を書き上げて、午後から奈良へ打ち合わせがありました。
その後、大神神社に手を合わせに行ったんですね。
神社の空気ってやっぱり好きで、濃度が高く、しっとりしているのですが清々しくて。
拝殿で感謝の言葉を述べ、頭を下げると肩が軽くなったような心地に。
御神体の三輪山を少し登ると挟井神社が。
ここは大物主大神の荒魂を祀る神社で、病気平癒や身体健康のご利益があると言われています。
妻の体を思いながら、今日まで無事健全でいられたことに感謝。
さらに登頂まで登るコースがあるのですがその日は受付時間が過ぎていたため断念しました。
そして知恵の神様が祀られている久延彦神社に向かう途中、一人の男性と出会いました。
年の頃は50〜60代、軽装で足取り軽く山道を登っていました。
男は出合頭、
「上まで行かずともいい場所がありますよ、一緒に行きませんか?」
と僕たちに声をかけました。
足を止めることなく、私たちの返事も待つことなく、そのまま歩き続ける男。
突然のことに驚くも何故か僕は「お願いします。ありがとうございます」と答えていました。
僕と妻は男の後をついて行きました。
「結界が強いですから、体に負担がかかるかもしれません」
「はぁ」
何のことなのか分かりませんが、男は僕たちに背中を向けたままそう言いました。
すると、シュピン!
突然空気が変わった。
「今、変わったでしょ?」
男は変わらず、振り返ることなく僕たちにそう言いました。
「はい、何というか、濃密な空気に」
「そうです、一つ目の結界ですからわりと強いものですよ」
ざわざわする一生懸命に胸を落ち着かせながら、歩調を緩めることなく男の背中を追って先へ進みました。
これと似た感覚を味わったことを身体が思い出しました。
そうだ、この感覚、屋久島を登った時と同じだ。
いくつかの結界をくぐり抜け、縄で簡易に作られた鳥居の前に到着しました。
「ここです」
誰もいない、木々の中にぽつねんと佇む鳥居。
風の声と鳥の声、そして昆虫たちの声が大きく聴こえてきます。
一礼して鳥居をくぐる男。
僕たちはその後に続きました。
10mも歩くと、そこには注連縄で囲われた黒い岩と一本の大きなタイサンボクがありました。
空気が研ぎ澄まされています。
全身の毛が逆立ちました。
「すごい気でしょう?」
男は言いました。
「はい、空気が、濃いです」
「そうなんです、ここはとにかくすごい。上まで行かずともこんな素晴らしい場所があるんですよ」
「人は来ないんですか?」
「はい、あまり知られていませんからね。人が多い場所はどうしても力が弱くなりますからいけません」
「なんだか、視界がくっきりしていますが」
「気の強い場所では景色が鮮明に映ります。空気を作る粒子が細かいのでしょう。場所によっても違いますから、ご自分で歩いてお試しください」
すごい、何だこの場所は。
不思議な力で溢れています。
「結界を張るのはね、悪い人を入れないためですよ。こういう場所(神社)は良い人も訪れれば悪い人も訪れる」
「そういうものですか」
「チャンネルを合わせながら歩くとたくさんのものを感じることができますよ。急がずにゆっくりと感じてください。私、パワースポットという言葉は嫌いですが、そういうものがあるとすれば、間違いなくここのような場所でしょう」
それだけ言うと、男は挨拶も早々に帰り始めました。
「ありがとうございます。声をかけてくださって。それにしてもどうして、僕たちを?」
僕が声がそう尋ねると、男は立ち止まり、ふと視線を山へ移してからこう言いました。
「あなた方なら大丈夫だと思いまして」
それがどういう意味なのかは分かりません。
ここへ連れてきても悪さをしなさそうなのか、〝結界〟だの〝気〟だの不思議な話をしても変に思わなそうなのか(実際思うことはないですが)。
「できるだけゆっくり休んでいくと良いですよ。波長を合わせると色々なものが見えます。こういう場所は五感が研ぎ澄まされますから。では」
そう言って男は一人、元来た道を帰って行きました。
僕と妻はその場所にしばらくいました。
深呼吸をしたり、山の息づく声を聴いたり。
その間一人として、この場所を訪れる者はいませんでした。
何だか力を頂いたような感覚でした。
僕と妻はよく不思議な出来事に遭遇します。
あの日のこともその一つ。
あの男性、一体何者なのだろう?
不思議な1日でした。
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