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想像力を利用する

「相手の想像力を利用しなきゃならんのです」

グラスを傾けて、マッカランで氷を濡らしながらそのお客さんは言いました。彼は仕事で世界中あちこちを飛び回っていました。時には、国の重役相手に商談をまとめることも。たいていは、ウェルカムなもてなしを受けますが、場合によっては「招かれざる客」としての扱いを受けることもあると言います。

「秘書もつけない、運転手もつけない。いかなる状況でも必ず一人で乗り込むのです」

気持ちよさそうにマッカランを喉の奥に流し込んで、彼は続けます。

「外国から一人で来た人間を、誰も無下にできないでしょう?」

団体で行けば、“団体”として扱われる。一人で行けば「よくぞ来てくれた」と真摯にもてなしてもらえる。それは「招かれざる客」の立場でも同じ。

「一人だとね、相手がビビるんですよ。実は、とんでもない力を持っている奴なんじゃないか、とか。裏には大勢の仲間がいるんじゃないか、とか。勝手にね、いろいろ考えはじめるんです」

“ありえない状況”を前にすると、人は想像力を働かせる。空白が多ければ、多いほど。自分を納得させるために論理的な答えを勝手に探しはじめる。ある種の“ハッタリ”が相手のリズムを崩し、その場の空気を支配する。

「相手の想像力を利用しなきゃならんのです」

そう言って、彼は微笑みました。赤々と灯る煙草の先が躍り、しばらくして煙がゆっくりと立ち上る。小さく頷きながら、彼は続けました。

「マニュアル本は捨てなさい。あんなものは、みんなと横並びになるためのもの。誰もやらないことを考えなさい。そうしなければ相手はあなたに興味を持ってくれません」

1000人の中の999人として見られるか、特別な1人と見られるか。
誰しもにチャンスは平等に与えられています、と。


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