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甘美な夜

シンガーソングライターの広沢タダシさんのYouTubeライブ『Night Songs』に出演させてもらった。

今までは、広沢さんの自宅スタジオから配信していたのだが、今回は星空の下(とある屋上にて)から音楽と対話を届けた。広沢さんと、そして、ご覧になっていただいた方々と、チルアウトな時間と空間を共有した。

沈黙が心地良い。空白を言葉で埋めない。くべた薪に火がともる。そのゆらぎを見つめながら、心に凪が訪れる。薪の中の酸素が軽やかに爆ぜる音、鼓膜にやさしく、広沢さんの透き通る歌声は星のまたたく空へと溶けていく。

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八月の蜂蜜。僕の座る場所から見える広沢さんの横顔は、燃え盛る炎のゆらぎに染まり、艶やかな表情に映った。僕が川端康成だったとしたら、この光景をどのように形容するだろうか。思いを馳せるだけで、まろやかな甘い余韻が糸を引く。

水面に起こる波紋の形を見ている

今、Muse杯というコンテストを開催している。現地点で60に及ぶ作品が集まっている。そのどれもがロマンティックな輝きを見せる。僕たちは水面に起こる波紋を見ている。テーマ曲である『彗星の尾っぽにつかまって』は美しい形をした石だ。その石を湖に投げれば、美しい波紋が生まれる。歪な形の石を投げれば、歪な波紋が起こる。Muse杯はクリエーションの対話だ。ここに集まった作品が押し並べてロマンティックである理由は、『彗星の尾っぽにつかまって』がロマンティックであるからに他ならない。

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空を見上げたり、そこに散らばった星を線で引いて物語をつくったり、音楽を奏でたり、言葉を重ねたり。それらは、人間の本質的な欲求であるように思う。外に出れば、自然と空を見上げる。僕たちはずっと「何か」に物語を与え、それを伝え、継承していく。不思議な生き物だね。

『ジャメヴ』というアルバムがある。広沢さんがデビュー10周年に制作したアルバム。「ジャメヴ」とは「未視感」という意味。反意語で「デジャブ」という言葉がある。一度も体験したことのないはずのものが、どこかで既に体験していたように感じる感覚のこと。それに対し「ジャメヴ」は、見慣れたものに対して、未知のように感じられる感覚のこと。

芸術にはジャメヴを引き出す力があると思っている。とある音楽を聴いた後、あるいは、文学を読み終えた後、目の前に広がる見慣れた景色が全く違うもののように映る感覚。優れたクリエーションには体験を通してジャメヴを与える力がある。

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言葉に表現しない部分に品性は宿る。沈黙を愛し、沈黙を共有する。そこに流れる時間を慈しみ、風を味わう。「対話」によってジャメヴを探す。そう、僕たちは話しはじめた時と、話し終えた時では、全く異なる人間になっている。それが素敵な「対話」だと思っている。そんな対話のある空間をデザインしていきたい。


広沢さんの言葉や音楽、哲学、美意識に触れると、心が洗われるような感覚になる。あらゆるものを削ぎ落していったところにある大切なもの。それらが共鳴するような。人生にとってそれはとても有意義な時間だ。

もっとゆっくり話したい。もっとおおらかに振る舞いたい。もっと美しい所作でいたい。詩のような言葉を紡ぎたい。


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アメリカのユタ州にある、たなかともこさんのコンドミニアム。バケーションレンタルとして利用できます。星降る広大な大地でキャンプするなど、ディープなアメリカ大陸を体験したい方へおすすめです(お気軽に相談にも乗っていただけるようです)。

地球を味わい、「足の裏の感覚」を取り戻す。自然の中でのドラマティックな体験を通して、ジャメヴが生まれる。



「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。