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Blue&Gold Talk vol.1

順序立てた説明では決して届かない場所。扉を開くとワープする。それは「どこでもドア」のように。

偶然を頼りに、結んでは、開いて。

広沢タダシさんと花*花さんの語らいの場。今回はその前編(vol.1)をお届けする。テーマは「思い入れのある作品について」。相手と自身の楽曲からそれぞれ一曲ずつ紹介してもらった。その曲から蘇る思い出や考えに耳を澄ませる。曲を触媒にどこまで遠くへ飛ぶことができるか。それは「扉」の役割を果たす。

曲についての物語を聴かせてもらった後、会場でそれらの音楽を一曲ずつ順々に流した。物語を聴く前と後では響き方もまた変わってくる。この文章を読んでいるあなたへお願いしたいことが一つ。読み終えた後、順々にそれらの曲を聴いてほしい。

Art de Vivre

それはきっとあなたの貴重な命の時間に豊かさをもたらす。杏子のような陽だまりの中で、あなただけの物語へと姿を変えるだろう。


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広沢タダシ

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花*花
『ずっと一緒に』


広沢
出会ったのが20年前、その頃から二人の曲を知っていて。お互い若いし、一緒にライブもたくさんやってきた。その頃の曲が印象に残っています。

眠れぬ夜は 思い出す
大丈夫 ずっと一緒にいられるよ
2人で笑って 笑って 笑って
しわくちゃのおじいちゃんとおばあちゃんになろう


この曲は何回聴いても、いつも新鮮に胸を打つ。ライブでも、共通の知人の結婚式で聴いた時も。当時の僕は大阪にいて、月一で一緒にライブをしていた。

おの
何組か一緒にね。

こじま
そう、南港だった。天保山。懐かしい。

広沢
あたたかい歌詞なのですが、曲調が印象的で。いわゆるJ-pop特有の八分音符ではなく。ギターのリズムでも聴きなれない、ピアノのフレーズも珍しい。歌詞と曲調が良い意味でミスマッチしていた。

こじま
確かにJ-popにはないかもしれない。

広沢
「洋楽みたいだな」と思いました。曲の向こう側にルーツを感じる。

嶋津
その辺りは意識的におつくりになったのでしょうか?

こじま
私はもともとゴスペルがルーツなので、おそらくその影響かもしれません。サビのメロディのあの感じだよね。フェイクを利かせて、自由なものになれば、と(※フェイク……記譜通りのメロディラインではなく、雰囲気は壊さずに適度に変化をつけて演奏すること)。

おの
私が(こじまさんと)出会った頃には既にあったんじゃないかな?曲が完成されていた状態で「二人でこの曲をやってみない?」と言われた。

愛し続けることは「信じ続ける」こと


嶋津
こじまさんとおのさんが出会う前には既にこの曲はあったのですね。

おの
ありました。その中には『さよなら大好きな人』も。二人で歌い出した頃には既にいくつか曲が出来上がっていたよね。

こじま
そうそう。ちなみに『ずっと一緒に』と『さよなら大好きな人』はおじいちゃんとおばあちゃんについての曲です。






広沢タダシ
『サフランの花火』


広沢
時と場合によって何を選ぶのか変わります。全ての曲に思い入れも、思い出もある。ただ、今日のこの場所の一曲を挙げるとすればこの曲です。

八尾の実家で書きました。今歌っている曲の中で一番古く、処女作に限りなく近い。20歳くらいの頃というのはそこまで大きな出来事もない。大きなテーマとの出会いや大きな挫折もない。要するに、歌いたいことがそこまでないんですね。でも、歌いたい。だから「曲作りってこんな感じかな?」と探り探りつくった。

この『サフランの花火』はパンとできて、「わぁ」となったんですよ。それは僕ではなく、聴いてくれた人が。

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でもね、当時の僕は少し恥ずかしいところがあった。歌詞が青臭いというか、きれい過ぎて。自分で書いていながら「こんなきれいなのダサい」と思って、途中はあまり歌うのも乗り気ではなかったんですね。

ところが、いろんな人が「歌って」と言ってくる。カバーして歌ってくれたり、子どもたちが歌ってくれたり。結婚式に招かれて「この曲を歌ってください」と言われたり。曲が自分の手を離れて巣立っていくということはこういうことなんだろうなって。そう感じた不思議な曲です。

このままでいれたらと
何度も何度も ここから逃げたくて
流れゆく星屑を 愛して守って 
消えてしまわないよう


嶋津
こちらが発信するよりも、世の中の方から求められる。聴き手の想いと繋がりながら物語となって、それが今でもステージで歌われているというのはとても素敵ですね。

広沢
今はこの曲に感謝しています。自分の曲だけど、みんなの曲。そんな感覚です。


***


こじまいづみ

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広沢タダシ
『奇跡』


こじま
好きな曲はいっぱいあるんだけど、この曲をつくっていた前後の頃、広沢くんがすごく落ち込んでいた時期があったんですね。若いからみんなそれぞれ悩みがあると思うんです。音楽の道について改めて考えるきっかけとも出会う。もちろん私たちにもありました。その頃、広沢くんは路上ライブをしていて、その時に歌っていた。

僕は独り歩いてくよ
ずっとずっと諦めずに
僕は今日も歩いてくよ
明日奇跡が起こるまでは


広沢
そうですね。大阪で路上ライブをしていました。

こじま
当時、花*花はとても忙しくて。いろんなことが過渡期を迎える頃で。私たちも広沢くんも、お互い思い描いていたような現実ではないんじゃないかというような。不安だった頃にこの曲を聴いて。その時、「がんばろう」って。そう思った。

広沢
うれしい。はじめて聞きました。

こぼした涙もいつか
未来に香る
花を咲かすよ


こじま
この曲を聴くとその頃を思い出します。それからソロで曲を書いていた時に『運命』という曲をつくりました。それは広沢くんの『奇跡』を聴いて、自分の内側で共感した中からできた曲で。アンサーソングというわけではないですが。

広沢
そうなの?知らなかった。

嶋津
『奇跡』と『運命』を続けて聴いてみたいですね。



花*花
『僕の大事な人』


こじま
今年の秋にとある舞台の音楽を担当しました。私が歌詞を書いて、まきちゃんが曲をつくった。実は、その舞台のために書いた曲ではなく、この曲を基に脚本が作られたという珍しい形で。

この曲が物語の主人公の気持ちに投影されていくようでした。最初につくった時の私たちの気持ちとは違うけれど。さっき広沢くんが言ったように、自分が作った時の気持ちが違う形で次第に成長していった曲だと思います。

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この曲をレコーディングした時にまさかそういうことになるとは思っていもいませんでした。

僕のうれしいよりも
君のうれしいの方が
よっぽどうれしい
僕の悲しいよりも
君の悲しいの方が
よっぽど悲しい

おの
形になった脚本に対して「この曲をそういう風に解釈するんだ」と思ったり。

嶋津
花*花さんのクリエイティブと、受け取り手のクリエイティブが重なって出来上がった舞台ですね。異なる意思が入ると、また光り方も変わりますね。


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おのまきこ

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広沢タダシ
『サフランの花火』


おの
私は歌を教えていて。スクールのコンサート用に生徒さんに「歌いたい曲を持っておいで」と言ったことがあります。するとその中で『サフランの花火』を持ってきた子がいた。ギターの弾き語りをしている女の子なのですけど。「いいチョイスしたね」って。生徒さんがその曲を選んでくれたことがすごくうれしくて。一緒に練習しました。

広沢
うれしい。その子に一言、いいたいね。

おの
私の曲ではないのですが、友人の広沢くんの曲を選んでくれたことがとてもうれしかった。

夢を叶える為 流したその涙
みんな思い出にかわればいい


嶋津
そうか。ご自身や広沢さんについてだけの話ではない。曲は渡った人の分だけ物語が生まれるんだ。おもしろい。



花*花
『さよなら大好きな人』


おの
いろいろあるのですが、最も歌っているであろうこの曲。あちこちに行って歌わせていただいて。被災地に行って歌ったり。たくさんの人の人生に寄り添っている曲なのではないでしょうか。「いろんな人の思い出になってくれている」とステージで感じることが多かった。他にもいっぱいあるのですが一曲を選ぶなら、今日は『さよなら大好きな人』を。

広沢
「いい曲」というニュアンスを超えた存在ですよね。

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おの
本当にたくさんの人が歌ってくれて。「卒業式で歌ったよ」という声が届いたり、人生の節目に歌ってくださっていることがとてもうれしくて。「お別れの曲」ではあるのですが、大事な場面で聴いてくださっているなって。

ずっと大好きな人
ずっとずっと
大好きな人
ずっとずっとずっと
大好きな人


嶋津
確かに花*花さんの楽曲の中には、別れや悲しさを描いた曲があるのですが、そのような内容でも聴き手が明るく前向きに受け取ることができますよね。希望を感じる。

広沢
二人のキャラクターのままですね。


***


このイベントの後、花*花さんは「ベストアーティスト2019」に出演した。40組以上のアーティストが出演する音楽の祭典。彼女たちが披露した『さよなら大好きな人』が番組内で流れた時、Twitterのタイムラインが華やいだ。

多くの人の心を動かした。あの曲は確かに名曲で。でも、それだけじゃない。聴く人の心の中であの曲は熟成されて。曲と同時にあの頃の思い出がそれぞれの中で蘇った。

歌は多数へ送られた個人宛の手紙

音楽はこの世界に産み落とされた瞬間、聴き手のモノになる。聴き手の物語を蓄えて、力を増していく。そして、それぞれの中で生き続ける。いつしか全く別の表情となり、その人だけの特別な存在となる。

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「泣かないで」なんて言わない
報われる日を知っているから


扉を開くとワープする。それは記憶の中の遠い場所。三人の話を終えた後、会場に音楽を流した。彼ら(彼女ら)の思い出を追体験しているような気持ちになった。穏やかなメロディはそれは映画のように鼓膜を通して記憶を映写する。

この文章を書きながら、曲を聴いた。涙があふれた。確かにこの曲たちは感受性の発露によって彼ら(彼女ら)の中で生まれた。

あなたに映る未来の色は
孤独で強くて でも信じてる


完成されたパズルをバラバラに解くように。そしてそれらをもう一度繋ぎ合わせるように。

偶然を頼りに、結んでは、開いて。

再構築されたパズルは異なる風景として映る。これは、あの日、あの場所で、僕が体験した物語として人生を綴る。

あなたは奇跡というけれど
運命だよ


『奇跡』の後に『運命』を聴くことができるのなら。それがささやかなきっかけで繋がる瞬間に立ち会えたのなら。それは「わたし」の物語となる。


さぁ、あなたの物語も聴かせてほしい。


vol.2へ続く


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▽Tapestry▽



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