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真夜中のシナスタジア

豪奢、静寂、逸楽

みなさん、ご機嫌はいかがでしょうか?僕は今、大きな壁と相対しています。毎日更新を続けているのだから、こういうことを書いても良いですよね。やるべきことに追われて、ある種、文章の〝イップス〟に陥ったような状況です。「そんなこと言いながら、毎日書いているじゃないか」とお思いの方、キンキンに冷えたウォッカに浸したライチとマスカットを召し上がれ。それとこれとは話は別で、稼働している脳の領域が異なります。

なめらかに回転していた歯車に、小石が紛れ込んだように、ピタリと言葉が止まりました。正確には「言葉になる前段」の工程だと思います。その主題について考えることを「僕」という司令塔がかたくなに拒んでいるのです。参りました。外ではそれとはお構いなしに水を撒いた後の青い葉陰をくぐった心地良い風が流れています。

何事も全てが順風満帆というわけにはいきません。「書けない」ということはおそろしいものです。パソコンの前に座っていても、一行も文字が進まない。その事実は一日に数万字の言葉を綴るよりも心を消耗させます。思いつくままに紙に言葉を走り書きしてみるものの、何かが変わりそうな気配は一向に見えず。夜眠るのがこわくて、朝起きるのがこわい毎日です。

なかなかの赤裸々な文章に、我ながら驚いておりおます。それでも僕は、この壁を乗り越えねばなりません。当たり前のように、解決策を見つけ出し、「あくせく」など無関係に役割を果たし、ピリオドを打たねばなりません。

さて、ここでみなさんへ質問です。あなたは〝イップス〟を経験したことがありますか?そして、どのようにしてその「ぬかるみ」から抜け出したのでしょうか?その方法が全ての人に通用するとは思いませんが、自分以外の誰かが「イップスを経験した」という事実は、不思議と安堵につながるような気がしています。無論、僕は「安心したい」のではなく、「抜け出したい」のですが。

考えをまとめるために、コーヒーを淹れます。毎朝、100gのタンザニアの深煎りの豆で10食分の水出しコーヒーを用意します。それとは別に、思考の停滞に飽きると、30gの中煎りのグァテマラの豆でハンドドリップをします。リビングと書斎はいつだってコーヒーの香りで満たされています。

その一連の行いが「突破口につながるかもしれない」という淡い期待さえ、もはや抱いてはいません。アイスピックで砕いた純氷がグラスの中で、オニキスの黒に染まる液体と同一化していく様子を眺めながら、ただ「不安は1mmたりとも減らない」ということを確認します。

真夜中のシナスタジア。音や色や匂いや形。キッチンで生まれる楽し気なあれこれが、沈黙の中でじっと佇んでいます。静けさに耳を澄ませば、微かに聴こえてくるのでしょうか。

正直なところ、ずいぶんと困っています。せっかくなので、困り果てた文章そのままに書き残したいと思います。解けない知恵の輪を前に艱難辛苦している様子もまた、毎日更新の醍醐味なのかもしれません。ちなみに「豪奢、静寂、逸楽」という冒頭の言葉は、アンリ・マティスの絵画の名前です。並ぶ音の響きが好きで、それ以上の意味はありません。

どなたか、お知恵をお貸しいただけるとうれしく思います。




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