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【書評】戦略ごっこ―マーケティング以前の問題 (著)芹澤連 日経BP

本書は序盤からマーケティングの定説めいたものに疑問符を投げかけており、エビデンスを照らし合わせるとどうやら何の根拠もないデタラメマーケターがはびこっていることを歯切れよく指摘してくれているため、痛快で学びの深い一冊でした。

基本姿勢を懐疑的とする自分のような拗ね者にとって、こういうバッタもんを炙り出す類の本は垂涎ものです。

じっさい、「それホンマ?」とか「自分だけちゃうの?」とうっすら思っていたことが割と当たっていたこと(=エビデンスがないこと)が示されていたため、うれしくもあり、恐ろしくもありました。

特に、昨今はyoutubeで発信力の強いビジネス系インフルエンサーの方々が実績を盾にwebマーケティングを語ったりするわけですが、妙な説得力には要注意です。

そこに再現性があることは稀です。

ではなぜ、そうした言説が魅力的に映るのでしょうか。

ストーリーを過剰に信頼しやすい人間の性が悪さをしているからです。

語り手の「かつてのどん底からまくって今は成功しました。そのレシピをお教えしましょう」というテッパンの筋書きはそうと分かっていても抗いがたい魅力がありますよね。

確かにそれはノンフィクションではあることだと思いますが、それが事実であることと汎用的に使える理論であることは別物です。

ここで注意したいのは、セオリーの要件となるn数が圧倒的に不足している(n=1)ということです。場合によっては、「宝くじを当てるためのスクラッチ方法を語る」くらいのハナシなわけです。

また、別の観点からの例を挙げてみましょう。

例えば、最近ではLステップなどの台頭によってスモールビジネスでも”ファネル”という考え方が浸透しつつあります。

ざっくり言えば、広告などで認知を取り、比較検討を経て購入に至るまでの段階を区分けしたうえで、それらを追跡してどこが弱いのかを分析し、改善を試みるという手法です。

たしかに、得られるデータから関わるプロセスのワークを改善することが効果的に思えるのですが、実は案外コントロールができない部分も少なくないそうです。つまり、抗っても仕方がないわけです。

同様に、よく言われる「新規顧客と既存顧客、どちらに注力するべきか」といった問いもそれ自体がナンセンスであると一刀両断したうえで、しいて言うなら新規顧客と結論付けています。

これも、既存顧客に対してロイヤリティを高めてもらうことができそうで、案外できないという思い違いがあるわけです。たしかにできそうですよね。。

本書が例にとっているのは大手企業が多く、スモールビジネスオーナーにとっては中々転用がしにくい論調の箇所もありますが、「いつだってキードライブとなるのは新規顧客の獲得」というようなエビデンスの堅いものに触れられるだけでも、十分な含蓄があること請け合いです。

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