法窓夕話
阿川尚之『憲法で読むアメリカ現代史』
私が「法学」というものに初めて興味を持つようになった最初の書籍がこれであります。
ちょうど高校2年生の3月に図書館でこの本を借りて、共通テストの会場の直前、カフェで読みました。日本の大学を受けるつもりがなかったので、まあテスト2時間前から抗うよりも自分の趣味に時間を投資しようと思ったわけです。不熱心な学生ですね。ちなみに試験結果はひどかったです。
この本ではもちろんRoe.v.Wadeの事件も解説されています。修正14条に基づいて、妊娠の継続可否はプライバシー権に属すると明確に述べて妊娠中絶の権利を認めたものです。この話の下をちょうどさきほどのカフェで読みました。判決が作られるにあたって決め手になるものは何だったのか。それは究極的に裁判官個人の「良識」とそれを支える「知識」であるように思います。。例えばこの事件の法廷意見執筆を担当したブラックマン判事。彼は中絶と妊娠の歴史を古代ギリシャから現在に至るまで調べ上げ、初めこそ中絶の容認に反対であったものの、それを権利として擁護するようになります。このエピソードに私は法学の醍醐味があるように感じます。法が我々と社会を守るのではなく、我々が、そしてより法に近い存在として判事、弁護士、検察官などのロイヤーが権利を守り、確立していくのです。そしてそこで原動力となるのは法を司る個人の「信条」と「人生」だと感じられます。本書でも各々の判決に関わった判事たちの生い立ちが詳しく記述されており、彼らの個人的価値観や信条がいかにして形成されたのかが垣間見えるのも醍醐味の一つです。
そして、同年5月にアメリカのPoliticoサイトでDobbs v. Jackson Women's Health Organizationの草案が判決以前にも関わらずリークされる事件がありました。タイムリーでした。この頃から私は法学に興味を持つようになったんだと思います。
殊に妊娠中絶やAffirmative Action、教育を受ける権利など、現在最高裁が批判の的の一つとなっている問題はそれだけ司法の道を極めた人間であっても判断が分かれるくらいに難解で唯一の答えに辿り着けないものです。それゆえに議論は時に異なる信条がぶつかりある政治的闘争に終始してしまいます。俯瞰して社会問題を見るための、アメリカの司法を勉強するための、法学の面白さを再認識するためにたまに読み返している一書です。
ちなみに同じテーマで扱う時代を建国期から1960年代にした『憲法で読むアメリカ史』もあります。こちらの方が世界史をやっている方には面白いかもしれません。貧弱だった合衆国最高裁がいかにして現在の強力な地位と威厳を手に入れたのかがわかります。参考までに。
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