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和ジャズの真髄 ~KING Jazz RE:Generation 1&2 Select 10 Discs~


貴重な和ジャズ音源の宝庫、キングレコード

キングレコードが保有する貴重な日本のジャズ音源を、各種音楽配信サービスに、「KING Jazz RE:Generation」と銘打って、2024年10月9日に第1弾で1950年代の音源を中心に24作品、続いて11月13日に60~70年代の音源を中心とした第2弾、26作品の配信が開始された。配信された全作品は下記記事から、参照していただきたい。


今までCD再発が幾度かあった作品もあるが、現在、入手困難なものが多く、また、配信では聴く事のできなかった音源もあり、これまで名前は聞くことがあっても、触れる機会のなかったミュージシャンの音源が気軽に聴けるようになったのは、非常に喜ばしい事だ。そして、気軽に聴いたら最後、是非“和ジャズ”の底なし沼に浸っていただきたい。そこで今回は筆者が第1弾と第2弾から5作づつ、計10作品を紹介。底なし沼に浸るキッカケとなれば嬉しい。

KING Jazz RE:Generation 第1弾

①ミッドナイト・イン・トウキョウ 第2集 MIDNIGHT IN TOKYO VOLUME TWO / VARIOUS ARTISTS (1957年作品) ※初デジタル音源化

1950年代、花の都、東京には「ナイトクラブ」が乱立し、華やかな夜をジャズのサウンドが染めていた。当時のトップジャズメンたちが毎夜、艶やかな音を奏でていたのだが、その様子を垣間見ることができる、資料価値としても非常に高いのが「MIDNIGHT IN TOKYO」シリーズだ。アルバムジャケットからも、現代とは違った、煌びやかな夜の街を体感できる。日本が世界に誇る、原信夫とシャープス・アンド・フラッツ小原重徳とブルーコーツといった名門ビッグバンドの当時の演奏が聴けるのはもちろん、戦後日本ジャズの草創期に、いち早くビバップに取り組み、日本のジャズ史で欠かすことのできない「モカンボ・セッション」にも参加、その後は赤坂の伝説のナイトクラブ、「ニューラテン・クォーター」のハウスバンド、「ザ・ロブスターズ」のリーダーとして活躍した海老原啓一郎の演奏が聴けるのは嬉しい限りだ。また、後にジャズのみならず、日本音楽界に多大な功績を残したピアニストの前田憲男が「高見健三とミッドナイトサンズ」に参加しており、流麗なピアノを聴かせてくれている。

②SHIN WATANABE’S SIX JOES / 渡辺晋とシックスジョーズ (1958年作品)

現在も芸能プロダクションの最大手として、誰しもが一度は耳にしたことのある、「渡辺プロダクション」の創始者、渡辺晋がリーダー、ジャズベーシストとして辣腕を振るっていたのが「シックスジョーズ」だ。
渡辺氏の芸能生活のキャリアの始まりがジャズミュージシャンであったというのが、非常に興味深い経歴だ。渡辺は「シックスジョーズ」での活躍後、プレイヤーから、ミュージシャンのマネージメントに回って、「渡辺プロダクション」を設立。同時期に共にジャズを奏でていた面々により結成された、植木等谷啓ハナ肇らを要する「クレイジーキャッツ」を世に送り出し、渡辺プロの隆盛の礎を作った。
そんな渡辺のプレイヤーとしての演奏を聴けるのは非常に貴重であるし、本邦最高峰のテナーサックス奏者、松本英彦の硬軟織り交ぜたブロウ、猪俣猛のシャープなドラミングが素晴らしい。また、<シックス・ジョーズ・ロック>のようなヴォーカルを交えた楽曲も収録、アルバム構成もバラエティ豊かで、“魅せる”技術、エンターテインメントのプロデュース能力の高さが発揮されており、後の成功を予感させる。

③林伊佐緒のジャズ民謡集 / 林伊佐緒 (1963年作品)  初デジタル音源化

民謡とジャズ!?1963年当時、この感覚を持って、アルバムにまとめ上げたシンガー、林伊佐緒の胆力と革新性に脱帽である。近年、「民謡クルセイダーズ」のワールドワイドな活躍が喜ばしい事だが、1950~60年代にも、日本の民族音楽とジャズの融合の試みは積極的に行われていた。後述するジャズドラマー、白木秀雄は日本の琴を大胆に取り入れた〈祭りの幻想〉という楽曲を含む、同名アルバムを1961年にテイチクレコードから発表。法被に鉢巻姿の白木も最高に格好良い。また、同じくテイチクから発表された、アルトサックス奏者の大家、古谷充率いるザ・フレッシュメンの『民謡集』も民謡とジャズの融合を実現した名作で、ぜひ聴いてほしい。
さて、本作は林の名調子が軽快なジャズサウンドに乗って、快調に歌い上げる痛快な作品だ。随所に三味線などの和楽器も取り入れながら、意気揚々と歌う林のヴォーカルに惚れ惚れする。4曲目の〈金毘羅スイング〉で老若男女は踊り明かし、9曲目〈串本マンボ〉で軽快にステップを刻んでいただきたい。

④リズム・エース・リサイタル・アット・ヤマハ・ホール / 鈴木 章治とリズム・エース(1958年作品) 初デジタル音源化

ジャズクラリネットのスーパースター、鈴木章治。彼の演奏では、やはり、〈鈴懸の径〉が代表的名演として語り継がれているが、本作は、その鈴木のリーダーバンド、「リズムエース」が1958年3月、東京銀座のヤマハホールにて行ったコンサートの実況録音盤だ。まさに“実況”と言いたくなるのは、このコンサートにはバンドとは別にMCで、アナウンサーで、日本のディスクジョッキーの草分け、志摩夕起夫が司会進行を担っており、流暢に曲を紹介してくれているからだ。当時のアナウンサー口調が、なぜだか現代に聴くと非常に心地良く、そして粋だ。鈴木の縦横無尽のクラリネット、松崎竜生の華麗なヴィブラフォン、原田イサムの繊細なブラシワークなど、当時のトッププレイヤーの名演を存分に味わうことができる。スウィート・バラード(by志摩夕起夫)の〈スターダスト〉、童謡の〈浜千鳥〉のジャズアレンジなど、特に聴いてほしい。

⑤トシコ旧友に会う TOSHIKO MEETS HER OLD PALS / 秋吉敏子(1961年作品)

日本のジャズの実力の高さを、世界に知らしめた名ピアニスト、現在も演奏活動を続ける真のレジェンド、秋吉敏子。1953年に来日していたオスカー・ピーターソンに、その才能を高く評価され、1956年にバークリー音楽院に入学。その後、チャールズ・ミンガスのバンドへの参加や、自身と現在の夫であるサックス奏者、ルー・タバキンとのビッグバンドでの多数の作品を発表など、現在に至るまでアメリカで活躍を続けている。その秋吉が1961年に一時帰国した際に収録されたのが本作。ビバップを通過し、当時の最先端演奏スタイルである、“モードジャズ”をすでに昇華している秋吉の演奏が、当時の日本のミュージシャンに与えた影響は想像以上の物だっただろう。マイルス・デイヴィスがモードジャズを表現した名盤『Kind of Blue』に収録の、〈So What〉から始まるのも、まさに当時のジャズのトレンドを象徴している。秋吉と共に録音に参加したのは、渡辺貞夫(アルトサックス)、宮沢昭(テナーサックス)という、国内最高峰のプレイヤーだが、彼らのモードジャズへの当時の取り組みを窺い知ることができる、貴重なドキュメントだ。


KING Jazz Regeneration 第2弾


①八木正生 “セロニアス・モンク”を弾く MASAO YAGI PLAYS THELONIOUS MONK / 八木正生 (1960年作品)


ジャズピアニストの八木正生は、ジャズピアニストとしてはもちろん、後年、サザンオールスターズの楽曲に編曲で参加、1960年代の東映の映画音楽や、アニメ『あしたのジョー』の主題歌の作編曲、ネスカフェ・ゴールド・ブレンドのCM、伊集加代子が「ダバダー」と歌う、〈めざめ〉の作曲など、多岐に渡って、その才能を日本の音楽界に知らしめている。
屈指の才人である八木のジャズピアニストの素晴らしい才能を深く堪能できるのが本作である。ジャズ史に残る名曲を多数作曲し、ワン&オンリーな演奏スタイルで知られるピアニスト、セロニアス・モンクの楽曲を1960年当時の日本で、これだけ深く表現できるところが、八木のとてつもない演奏技術と音楽センス、そして研究成果の表れだろう。渡辺貞夫(アルトサックス)と仲野彰(トランペット)のスリリングなフロント陣、原田政長(ベース)の重量感のあるベース、田畑貞一の的確なリズムメイク、そして八木の理知的でありながら、情感も携えたピアノがセロニアス・モンクの楽曲を、より魅力的なものにしている。


②白木秀雄 ブレイズ ボッサ・ノバ HIDEO SHIRAKI plays Bossa Nova /白木秀雄 (1963年作品)


いわゆる、「和ジャズ」という言葉と共に、再評価された筆頭のジャズミュージシャンは、やはりドラマーの白木秀雄だろう。もれなく、筆者も白木の1950~60年代の諸作を聴いて、日本の当時のジャズの水準の高さ、そして格好良さに衝撃を受けた1人だ。キングレコードでも、幾つもの名盤を残しており、本作やホレス・シルヴァーの楽曲に取り組んだ『白木秀雄 プレイズ ホレス・シルヴァー』や、初リーダー作『HIDEO SHIRAKI』、『白木秀雄リサイタル』、また、ジョージ川口ジミー竹内との豪華3大ドラマーの共演となった『ドラムスコープ』が今回の「KING Jazz RE:Generation」で配信されている。
そして、本作は中南米音楽をモチーフにし、クラブシーンでも高い評価を受ける逸品だ。躍動感溢れる白木のドラミングが素晴らしいのは言うまでもないが、洒脱でファンキーな世良譲のピアノ、そしてテナーサックスだけでなく、フルートも披露し、また作曲面でも〈ドゥ―・ステップ〉や、〈グルーヴィ―・サンバ〉といった佳曲を提供している松本英彦の活躍も聴き逃せない。また、キレのあるトランペットを聴かせる小俣尚也、白木のバンドの屋台骨を支え続けた栗田八郎(ベース)の熱演も必聴だ。

③ジャズ・インター・セッション JAZZ INTER-SESSION / VARIOUS ARTISTS (1961年作品)

当時、秋吉敏子の夫であった、アルトサックス奏者、チャーリー・マリアーノが日本のトッププレイヤーと熱演を繰り広げた名盤。
先述の八木正生松本英彦もチャーリーに負けじと、活きの良い演奏を披露している。トニー・ベネットの代名詞でもある、〈思い出のサンフランシスコ〉などの曲目も興味深いが、なんといっても、日本の甚句から着想を得た、八木正生のオリジナル楽曲〈ジンク〉が素晴らしい。本作は秋吉やチャーリー、また来日してきた海外のジャズミュージシャンたちとの交流などで、日本のプレイヤーたちが当時最先端だったアメリカのジャズの技術を旺盛に吸収していっていたことも捉えている。

④琴、尺八、ビッグ・バンドによるスタンダード ボッサ/ 山本邦山、横山勝也、沢井忠夫、宮間利之とニューハード・オーケストラHOZAN  (1961年作品)

尺八の人間国宝、山本邦山は、積極的にジャズとの共演に取り組み、多大な成果を残している。原信夫とシャープス・アンド・フラッツとアルバム作成、また、アメリカのニューポート・ジャズフェスティバルにも出演、日本のジャズピアノ界の孤高の天才、菊地雅章とも邂逅、菊地、ベースのゲイリー・ピーコック、ドラムスの村上寛と『銀界』という、素晴らしいアルバムなども発表している。
本作は原信夫とシャープス・アンド・フラッツと共に、国内最高峰のビッグバンド、宮間利之とニューハード・オーケストラの壮大な演奏に乗って、山本、同じく尺八の横山勝也、琴の沢井忠夫という、純邦楽のスペシャリストがジャズやポップス、ボサノヴァの演奏に取り組んでいる。日本古来の楽器たちが、なんとも見事にジャズやボサノヴァに調和しているのは、彼らの卓越した演奏能力と、ニューハードの山木幸三郎(ギター)と高見弘(アルトサックス)の巧みな編曲の賜物である。

⑤俺だって歌いたい(+2) MR. HITMAKER’S SINGIN! / 浜口庫之助 (1967年作品)

「ハマクラ」の愛称で親しまれ、〈涙くんさよなら〉、〈バラが咲いた〉、〈夜霧よ今夜も有難う〉など、現在でも親しまれている歌謡曲を多く生み出したシンガーソングライター、浜口庫之助。まさに本作のタイトル通り、ヒットメーカーとして鳴らしていた時期に、自身のヴォーカルで、当時のヒットナンバーを小粋に、ボサノヴァ風味も効かせ、ジェントルに歌い上げる充実作。コーラスには伊集加代子も参加し、作品の仕上がりが、より上質なものになっている。ローリング・ストーンズの〈サティスファクション〉も、すっかりハマクラ色に染め上げている。そして、自身が生み出した大ヒット曲、〈愛して愛して愛しちゃったのよ〉を浜口のヴォーカルで聴けるのもたまらない。ちなみに浜口の自作曲歌唱アルバムでは、自作曲を歌っている『歌えば天国』も傑作だ。

「和ジャズ」探求の旅へ

以上、10作品を紹介したが、第1弾と2弾で合計50作品の貴重な音源が豊富に配信されている。百花繚乱のサウンドが詰め込まれているので、たくさん味わってほしい。そして最後に、KING Jazz Regenerationの監修を務めた、尾川雄介氏(UNIVERSOUNDS)のプレイリストを下記紹介するので、和ジャズ探求の旅のお供にぜひ。そして、今回の記事も、その探求の旅に少しでも、お役に立てれば幸いだ。


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小島良太
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