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映画という名のCM〜CHANELからのプレゼント

心に残るコマーシャル、あなたも一つはあると思う。あのCMのおかげで出会えた曲や女優、色々いると思う。生活の中に不意に飛び込んできて、新しい情報を落としていく。それは媒体がテレビからYouTubeに変わっても、変わらない。

多くのハイブランドのコマーシャルは、もちろんお金がかかっている。そこでトレンドを生み出していると言っても過言ではない(だから高い買い物になる訳だけど)。CHANELのコマーシャル、特にフレグランスと呼ばれる香水のシリーズはいつだって独創的でアートに振り切っている。毎シーズン楽しみにしているけれど、今回のものは最高過ぎた。今まで何度公式YouTubeチャンネルでチェックしたか分からないし、たまに(しかも何度も)うるっときてしまうんだからもうしょうがない。

今回はフランス人の女優、マリオン・コティヤールがとにかく魅せている。そして彼女の魅力を最大に引き出したのが、今回の振付師で過去にCHANELとのコラボレートもしている、ダンサーのライアン・ハフィントンだ。自分は彼の大ファンで、手掛けたシーアの振り付けを観まくったのはもちろん、ロスで当時あった彼のクラスにも参加した。彼の独創的という言葉ではもはやぬるくすら感じてしまう、感情を揺さぶる振り付けは今回の作品でも健在だ。今回はダンスにフォーカスして、この「映画」という名のコマーシャルを考察していきたいと思う。

まず最初、ヨーロッパを思わせる夜の橋の上から月を見上げるシーン。ここは現実なんだけど、何かに吸い込まれる様に月を見上げる彼女の姿にこちらも引き込まれる。

最初の振り付け、まさに香水を思わせる、互いの首や手首に絡めながら踊るパート。彼女のドレスの色的に、彼女が香水に見立てられているのかな?まずここでは香水を「身に纏う」様な、何かが始まる予感がする。

そこからキラキラとした効果音と共に彼女も手を動かす。ここでまず食らってしまった。単純な手の動きで、そこまで魅せることができるのか。ここで見せる彼女の表情もまた、あたかも互いを身に纏った男性(バレエダンサーのジェレミー・ベランガール)を更なる世界に誘う様。女優さんって、やっぱり凄い…

そして2人が近づいたと思ったら、ドラムの音と共に2人は波動を受け合う。ここでもう既に涙腺が刺激されている。ライアンの特徴的な振付がまっすぐ心に届く瞬間だ。きっとこのカップルはやっとお互いを見て、出逢いの衝撃が走ったに違いない。

そこからお互い向かい合い、息を吹きかける様な振付へ。ここではきっと互いを知る、デートの段階だろう。茶目っ気に溢れてこちらも笑顔になってしまう動きは緩急があって、流石の一言。彼女の息で吹き飛ぶ彼。それを見る彼女の眼差しさえも、彼の反応を見て心が動いた「ダンス」なのだと思い知らされる。

そこからもまだ楽しい時間は続く…かと思いきや彼女の導いた先でまた展開が。彼が月のクレーターを滑っていくシーンは、曲の構成とも相まって息を飲む。これは2人の関係で、試練を暗示しているんではないかと思う。

そこから、彼女のリードはよりはっきりと、本能的になっていく。動きも大きくなり、彼が笑いながら彼女を押していく振付はまた笑顔を生み出すライアン節。ここで試練を乗り越えて、もっとお互いを信頼できる様になったのが伺える。

そして短いが、動きがシンクロして距離もグッと縮まったペアダンスの様なパートへ。表情も少しシリアスになり、お互い少しずつ未来が見えてきたのかも。

そのままクレーターを駆け上がり、宙に上る。彼の唇の前で指を結び、それを彼女自身の首筋へ纏う。このシーンはもうため息しか出ない。ダンスは、実際の動き以上の表現が出来るんだと思い知らされる。この彼女の喜びと幸せに満ちた表情で、もうこちらもほろり。彼との本物の出逢いを抱きしめて、噛み締めた瞬間。

ここで終わるかと思いきや、現実に戻って隣にいるのは…彼だ!!!!!!

月をバックに微笑み合う2人。個人的にはこの1分で「君の名は」と並んだと思っています。この「出逢ったぁぁぁぁぁぁ!」感。もう満点ですよ。

ここまで、たった1分。トップレベルが集まって出来たこの作品を観ると、まだまだエンターテインメントの可能性は無限なんだと思わされる。心を揺さぶる素敵なコマーシャルに、また一つ出会えた僕らの未来は月より明るい。

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