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マイケルジャクソンに憧れた少年がベガスで彼のダンサー達に認められる話②

前回からだいぶ間が空いてしまったが、早速続きを書きたいと思う。


三年間のアメリカ高校留学を終えて帰った日本は、想像よりも窮屈だった。大学に進学する労力と、ダンスというやりたいことがしっかりわかっているのに、それを無視して勉強するのなんて考えられなかった。次の目標は、ダンスの本場ロサンゼルス。せっかくなら、本場で学んでみたかった。マイケルが暮らした、その土地で学びたかった。

そんな高い志とは裏腹に、貯金を続けながらの日本での生活は逆カルチャーショックの連続。アルバイトをしっかりするのも初めてで、常に周りの大人から怒られていた。プライドと自信は経験と反比例して沢山あった。そんな生活も半年程経ち、慣れてきた頃。ダンサーの友達から連絡があった。

「マイケルのダンサー、ラヴェルスミスが来日する。」

ラヴェルと言えば、マイケルの”Dangerous”や"Scream"などの有名曲を振付し、彼のほぼ全てステージでバックダンサーをこなした伝説的なダンサーだ。その彼が日本で、ワークショップを兼ねたオーディションを行うとのことだった。合格者は彼の指導の下、イベントで踊るという企画だった。予定をこじ開け、即座に気持ちを切り替えた。夜の公園でひたすら”Dangerous”の振付を復習していると、知らないおじさんが缶ビールをくれたりもした。家でも振付のことを考え過ぎて会話が全く入ってこなかった。あまりに上の空なので、母親から怒鳴られた。

自分はそれまでオーディションに合格したことがなかった。「オーディション」という言葉だけで気が滅入ってしまうようにもなっていた。だけど今回ばかりはそんなことは言ってられない。気合いと根拠のない自信で臨んだ。

結果は見事合格。英語で本人にお礼をしに行くと、彼とはすぐに打ち解けた。あれほど英語に感謝したことはない。数回のリハーサルから本番まで、合格者の中で英語で話せるのは自分だけだったこともあり、沢山のありがたい話も聞かせてもらえた。この経験は、相当な自信につながった。まさか10年、テレビの中の人として見ていたダンサーと会話して、ダンスを褒めてもらえるなんて。夢の中を生きているようだった。

そこからアルバイトの日常に戻るのは不思議でしかなったが、ここから何か変わるんじゃないかとも思えた。そして実際、変わっていったこともあった。その次の年の夏、ラヴェルが日本でまたワークショップを開催することになったのだ。前回のイベントのオーガナイザーと知り合っていたため、今回は直接オファーを頂きアシスタントとして彼に同行した。前回よりもしっかりダンスを見てもらえたり、その時の時間もかけがえの無いものだった。そこからの縁でいくつかのステージやテレビのダンサーの仕事、自分でクラスを教えるなど沢山の活動をすることができた。ここまで来たら、ロスでもやって行けるような気がしていた。


やっと着いたロサンゼルス。そこら中にいるダンサーは全員レベルが高く、初めて触れる本場のダンスに圧倒された。振付を覚えるのも難しく、クラスの最後に選ばれる日なんて来ないと思っていた。そこから毎日狂ったようにクラスを取り、何時間も踊っていた。スタイルやジャンルを問わず、勧められたものは全て取った。そのうちに、段々と振付の学び方を覚えてきて、先生からも褒められるようになってきた。憧れの先生にも覚えてもらって、さぁこれからという時にコロナが大流行。すべてのクラスはもちろん、エンタメ業界そのものがストップした。何の為にアメリカにいるのか、一気にわからなくなった。帰国も考えたが、まだ何かが引き留めてる気がして、在留を決めた。

そこで、ラヴェルの件からお世話になっているオーガナイザーから連絡があった。マイケルの元ダンサーであるトラヴィス・ペインとステイシー・ウォーカーが、今まで彼の仕事に関わった人たちにインタビューをしていく、オンラインサロンを計画しているとのことだった。そこで自分に翻訳をオファーしてくれたのだ。ファンとしても興味を惹かれる企画なのに、それに参加できるなんて。本当に光栄だった。コロナ禍でもリモートで仕事ができる充実感も凄まじかった。それからアメリカは少しずつスタジオも空いてきたタイミングで、今度はダンサー2人によるオンラインワークショップを企画しているという連絡があった。

「せっかくロスにいるんだから、スタジオで彼らのアシストをしてくれないか」

気絶するかと思った。ついに来たか、と。This Is Itやマイケルのそれまでのステージで彼らの活躍は見てきていたし、また伝説的なダンサーだ。その2人のアシストなんて、マイケルからダンスを始めた人間の夢である。そしてまた、日常生活に支障をきたしながらも計4回のクラスをアシスト、翻訳した。

ここで、何かがまとまった感覚があった。章が一つ終わるような、ふっと何かが落ちるような。これは本がまるっと終わるかも知れないし、次の章がまだ続いているかも知れない。その時は、6:4で前者だと思っていた。


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