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ブラジル1部ECバイーア育成部の分析術📊

私の所属するブラジル1部・ECバイーアには5人の分析担当がいます。

3人がTOPチーム、2人が育成部です。
育成部の2人は戦術分析担当が1人、数的分析担当が1人です。
そこに僕もアシスタントで入ったりします。


コリンチャンスなどのBIGクラブだと分析部門で10人いたりします。
これは少し前の話なので、今はまた人数が増えているかも知れません。

🌟戦術分析担当


さて、ECバイーアの育成部戦術担当者はグスタボ氏。
まだ23歳(2017年12月)と若いものの、その姿勢や会話からはインテリジェンスを感じさせてくれます。


ECバイーアの通常練習でも監督は戦術的指示をよくしますし、戦術的インテリジェンスを鍛える様なトレーニングも多いです。


なので分析担当は監督と違ってグラウンドの中では見ているだけの事も多く、指導自体は分析室に選手を呼んでやる事が多いです。

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例えば上の写真は戦術分析担当が行った指導の報告書です。
いつ、何時から何時までのどのくらいの時間、誰にどんな戦術を伝え、反応や理解度はどうだったかを記録しています。

これを育成部長に提出し、更にまた来シーズンの課題や反省をします。

日本で少し話題になっているポジショナルプレーなども指導しています。
勿論攻撃の優先順位、プレッシャーのかけ方、マークの外し方、ボールの追い込み方、切り替えの場面など多岐に渡る戦術を教えています。


その時には自分達の試合の良かった場面や改善点の映像と、ブラジルリーグや欧州リーグなどの世界最先端の映像も使います。

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これは実際にECバイーア育成部の戦術指導で使われた映像の写真です。

ボールを奪われた後、攻撃から守備への切り替えが遅れてしまった事、そして何がこうさせてしまったのかを指摘しています。

これは映像としても流しますが、すぐ隣に戦術分析担当のグスタボ氏がいて、彼が説明しながら進んでいきます。

実際の指導の映像も貼っておきます。


こういった取り組みのおかげもあって、ECバイーアではU14が州選手権で優勝。
U15とU17、U20は州選手権準優勝。

TOPチームは欧州でいうヨーロッパリーグに当たるスダメリカーナ出場を決めました。

ただ、こういう取り組みはもはや南米でも当たり前であり、誰しもが努力していて当然なので、その中でも勝っていけるかは本当に難しいところ。

プロというのは努力したら勝てる世界ではなく、努力したからここにいて、努力するのは当たり前の世界。

その中で勝とうとすると運や才能も作用しますし、努力の仕方も考える必要があります。


🌟数的データ分析担当

数的分析担当にプロサッカー選手歴はなく、前職は銀行で統計学的な仕事をしていたそうです。
本当は戦術担当と合わせて最低5人は分析者が欲しいのが本音なのですが、お金もかかるので専任2人+僕がたまにアシスタントに入る事で回しています。


様々なサッカーのデータを扱い、それらを各クラブに提供している様な専門の会社もあるのですが、かなり費用が高額だそうで、ECバイーアの育成部では採用していません。
クラブで専門分析者を雇った方が安上がりで、かつ自分達の欲しいデータを自由に要望出来るメリットがあります。
逆に要望してからしか調べられないスピード感や、総データ量はやはり専門会社の方があるのでしょうか。

理想としては両方採用出来ると良いですね。

そんな会社がブラジルに今も存在しているという事は収入があるわけなので、両方採用しているクラブもあるはずです。

さて、データ分析のお仕事内容。


ピッチ内での出来事、例えば「この場面ではこのスペースを埋めるべき」の様な指導をするのが戦術分析者の仕事だとしたら、データ分析者は「パス成功率」「セレクション合格率」「各選手の出身地・前所属等」「各地域年齢別人口」などの様な数的・データ的なものを扱います。

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この写真は試合を見ながら各データを数える時に使います。

イエローカード、ファール数、種類別ゴール数、決定機、インプレー時間、攻撃数、守備数などを記録しています。

種類別ゴールというのはFKからなのか、PKか、流れの中なのか、という様に分けています。
写真はまだ分析が終わっていない試合の画像で、もっと細かく分析していきます。

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この地図画像は各地域の人口などのデータが出ています。

これを「10歳のサウバドール市の人口」という様な細かい設定でも見る事が出来ます。
ECバイーア自身が数えるというよりは、政府が公式に発表しているものを使っています。


これによってどの地域に子供がいるか、どの地域にスカウトを送るべきかという選手集めの参考にします。

ブラジルは日本の約23倍の広大さがあり、バイーア州だけでも日本の約1.5倍の広さがあるので、毎月セレクションをしても遠くからは来れない子もいます。
また、貧困に苦しむ子もいるので、セレクション案内を出しても情報を探す手段に恵まれていない事もありますし、セレクションを受けに来るお金も大変です。

毎月セレクションをする時点でもクラブは努力してはいるのですが、更にこういったデータを使って選手探しの抜け落ちを防ぎます。

ブラジルは子供の時から移籍自由かつビジネス化もしているので、スカウトや代理人に頼んで探す場合もあります。
その時にもこのデータは使えますね。

ルールで14歳以上からではありますが、ECバイーアは寮とレストランがあるので遠くの子供も安心してチームに所属する事が出来ます。

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このグラフ画像はセレクション合格率を表しています。

FWからGKまでのポジション別セレクション挑戦者数と、その内の合格者数・合格率のデータです。

3次試験までを通過すると最終4次試験で実際にチームの練習に合流して実力を判断されます。

ECバイーアのセレクション受験者から正式なチームの一員となれるのは300人に1人いるかどうかです。

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このエクセルの表は各選手のデータです。
出身地、前所属、サッカー歴、家族の収入、そしてどの様にサッカーを始めたのかなどのデータがあります。

どの様にサッカーを始めたかを調べる理由は、ブラジルはストリートサッカーやフットサルから競技を始める子も多いという特徴があるからですね。

入団後に選手を細かく見ていくのは勿論ですが、フットサルの子は足元が上手いがグラウンドを広く使うのが苦手な傾向、ストリートの子は創造性豊かだが戦術理解度は低い傾向があります。


先入観に捉われても良くないのですが、そこを加味した上で、この部分はまだ出来てきなくても目を瞑り、逆にここを伸ばせば将来素晴らしい選手になるだろうなどの判断をする参考になりますね。

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