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【叙事詩】あるしがない労働者から見たソヴィエト全史

豊かになろうとモスクワに来たけど、
死ぬまで働かされそうだ。
ブルジョワジーたちは贅沢の限りを尽くし、
皇帝のパンには金箔が乗っている。
でも考えてほしい。
その財産でどんな祝宴が開けるか。
もし我々が共産主義の国を造ったら、
俺のような人を大切にしてくれる国家があれば・・・

俺は線路を敷く男。
荒野ははるかに続いている。
砂利を敷き詰め枕木を並べ、
俺はその上の線路に犬釘を打つ。
釘の頭がしっかり入るまで。
ときどき、俺にはその仕事が素晴らしく思える。
うまく打てば、まるで覇業を成した気分になるのだ。
ところが、俺は判断ミスに気付く。
釘を打つ場所を間違えてしまったのだ。
結局それは、打つべきではなかったのだ。
なぜ俺が、こんな釘ごときにからかわれなくちゃいけない?

俺は線路を敷く男。
荒野ははるかに続いている。
モスクワ市民よ来たれ!
労働者たちよ団結せよ!
平和と愛の共同体政府だ!
俺は線路を敷いて懸命に働く。
だが、家主と税務署は俺をカラカラに搾りつくす。
でも労働者の地位は向上する!
我々は妥協しない!
我々は、旧体制が死すべきだと知っているからだ!

レーニン万歳!皇帝を殺せ!
鎌と星に敬礼するのだ!

俺は線路を敷く男。
荒野ははるかに続いている。
皿の上の食べ物も、いまや国家に属している。
平和と愛の共同体政府だ。
線路の敷き方に選択の余地などない。
ボリシェヴィキのルールでは、彼らの言葉がすべてだ。
我々は全員同じ、それがルールだ。
そして、我々の線路は、絶え間なく伸びるだろう!

スターリン万歳!彼は君たちを愛している!
そう、一緒に歌わなければ彼がどうするか、わかるだろう?

俺は線路を敷く男。
線路はカザフスタン製だ。
納期は2週間遅れ、サイズはバラバラ。
それでも我々は、スターリンの5ヵ年計画に取り組んでいる。

俺は線路を敷く男。
ナチスを追い払うために。
よし、総統は死んだ!
ヨーロッパは赤化した!
すべての銃口をアメリカに向けろ!
我々は永久に不滅であろう。
我々は、核戦争すら始められる!

俺は線路を敷く男。
極秘の基地を造るのだ。
頑張れソヴィエト!すごいぞソヴィエト!
同志を宇宙に送るのだ!
俺は線路を敷いて懸命に働く。
だが、帰ると毎晩妻が泣いている。
壁を建ててやがる、その目的はなんだ?
壁は、目の前で消えてしまうというのに!
無意味な賃金のための無意味な労働。
こんなゲームは、するべきではなかった。
俺は線路を敷く男!

・・・だが、明日はベッドから出ないことにしよう。
冬は寒い。金ならたくさんある。
しかし、我々は一切れのパンと牛肉のために、列に並ばなければならない。
でも、ひょっとしたら、俺の暮らし向きもよくなるかもしれない。
ゴルバチョフ政権を倒したら!

俺は線路を敷く男。
荒野ははるかに続いている。
市場は自由だ!私にとっては大金だ!
平和と愛なんて気にする必要があるのか?
市場は自由だ!私にとっては大金だ!
平和と愛なんて気にする必要があるのか?
平和と愛なんて!
平和と愛なんて!

そして今、壁は崩れ、マルクス主義者たちはしかめっ面。
外資の店は町中にある。
赤の広場でも、絶望するなかれ。
そこにはリーバイスとマクドナルドがある。
アメリカは覚せい剤をもたらした。
そして今、プーチンが追い打ちをかける。
我々の邪魔をするのは誰だ?

だから我々は、自由主義経済を拒否する。
そして左派が復権する。
きっとまたあの旗が広がられるだろう。
我々がこの世界から脱するために。
我々はグルジアの領土を取り戻すつもりだ。
我々は北海の油田を手に入れるつもりだ。
俺は線路を敷いてコツコツと働くつもりだ。
いつまでも、永遠に。

・・・しかし、こんな広言も、もはや痴者の夢となってしまった。

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