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栗と呼ばれたぼくは、美容室で新しいじぶんを手に入れた

中学2年生までは、ずっとおかっぱ頭だった。前髪は常に揃っていて、あだ名は「栗」が関するものがほとんど。「栗」や「栗きんとん」、「モンブラン」など、ありとあらゆる栗に関する物の名前がぼくに名付けられた。

「甘栗むいちゃいました」のCMで、商品名を略して「ちゃいぐり」と呼ぶと知った友人がぼくのことを「ちゃいぐり」と呼びはじめ、そこから派生して、「ちゃい」と呼ばれるようになった。

学内だけでなく、プライベートでも「ちゃい」と呼ばれる毎日。周りの友人も「ちゃいってなんだよ」とからかってくるため、顔から火が出そうになるぐらい恥ずかしかった覚えがある。そして、いまでも先輩に会えば、「ちゃい」と呼ばれるんだけれど、それが少しむず痒い。

ある日、1つ上の女の先輩に「顔は合格だけれど、髪型が絶望的に無理」と笑いながら言われた。失礼な人だなと思いつつも、「絶望的に」がずっと胸の奥で引っかかった。

かっこ悪いよりは、かっこいいのほうが絶対にいい。かっこよくなるために、親に「美容室に行きたい!」と懇願し、念願の美容室デビューを果たした。とはいえ、今まで髪型には無頓着だったため、どうすればいいかわからない。

美容師さんにおすすめを聞くと、どうやらアシンメトリーが流行っているらしい。アシンメトリーがなにかはあまりよくわかっていなかったけれど、プロが言うなら間違いないと、アシンメトリーをオーダーした。

おかっぱ頭からの卒業。美容室から出たときのあの嬉しさがいまでも忘れられない。すると、「髪型めっちゃいいね」などたくさんの褒め言葉を友達や先輩からもらった。中には「栗じゃなくなったやん」と悲しんでいる人もいたけど、かっこ悪いよりもかっこいいのほうをぼくは選んだ。その結果、新しいじぶんを好きになった。

髪型を変えるだけで、良くも悪くも人の目は一気に変わる。ぼくの場合は、いい方向に変わった。「絶望的に」から「めっちゃいい」へと変貌を遂げた髪型。この体験を経て、ぼくは髪型に気を使おうと決意した。

髪を切る行為は、、新しいじぶんとの出会いである。美容室を出たときの爽快感が、とても好きだ。そして、「似合うね」と友人に言ってもらえるあの瞬間が、とても愛おしい。

そして月日は流れ、28歳になったいまでも、髪型には気を使っている。髪の毛を切るサイクルは、2ヶ月に1回。「前髪が邪魔だと感じたら美容室に行く」というマイルールを設けている。マイルールの基準に達するスパンが約2ヶ月。だから、2ヶ月に1回美容室に通っている。

普段は気にならない前髪が、1度気になったらもうおしまい。すぐにでも、髪の毛を切りたくなってしまう。ポケットからiPhoneを取り出し、ホットペッパーを開き、いつもの美容室を予約する。予約時間は、予定の空き時間の最短を選ぶ。空き時間がたてばたつほど前髪が気になってしまうため、いつも空き時間の最短にしている。

美容室の予約を取った途端に、突然やってくる安堵感と嬉しさ。「さて、次はどんなヘアースタイルにしようか」と、ホットペッパーでヘアカタログを開く。しかし、いつもお気に入りのスタイルは見つからない。髪を切る当日まで、ヘアースタイルについて悩むあの時間が割と好きだ。

どんな髪型にすれば、今よりもかっこよくなるのか。考えれば考えるほど、楽しさと期待で胸がいっぱいになる。でも、いつも当日までヘアースタイルが決まらない。担当の美容師さんとの相談を経て、ようやくヘアースタイルが決まり、伸びた髪にハサミを入れてもらうまでがいつものお約束。

ヘアースタイルを、決めるときのお決まりが、ひとつだけある。それは「季節に逆らわず、季節に合ったヘアースタイルにする」ことだ。夏は暑いからショートがいい。でも、冬は寒いからミディアムにしたい。髪の毛を短くすれば、新しいじぶんに出会えるし、髪の毛を伸ばせば、また新しいじぶんに出会える。

季節のサイクルによって、髪の長さを決めるなんて、人間らしくていいなと思う。人間は、暑さと寒さに勝てない生き物だ。だから、髪の毛で、身を守る。季節の流れに身を任せ、季節の流れの中で、ちゃんと舵きりをする。人生という航海の中で、髪の毛を切るだけで、新しいじぶんとなんども出会い直せるぼくは幸せ者にちがいない。

髪の毛を切ったあとは、じぶんを好きだと思える瞬間との出会いでもあるのだ。2ヶ月に1回だけ、味わえるご褒美タイム。ご褒美タイムにかかるお金は、痛くもかゆくもないため、これから先もずっと美容室には、お金をかけ続けたい。

じぶんを今よりも好きになるために、美容室で髪の毛を切る。これがぼくが美容師に行く理由だ。これから先も髪の毛を切って、じぶんが好きだと思える瞬間を、1回でも多く増やしていきたい。


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