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【1万5000字】なぜヘルスケアビジネスは難しいのか〜ヘルスケアビジネスの現在地と未来可能性〜

前置き

こんにちわ。リョージといいます。
サービスデザインの視点から新規事業を創ることにこだわって活動しています。
現在は、キュレーションズ株式会社にて、主に大企業の新規事業支援や、自社事業としてヘルスケア事業を行っています。
また、ここ最近は病院の事業戦略アドバイザーや、認知症関連のスタートアップを立ち上げたりと、ヘルスケアのフィールドでの動きが多くなっています。
プロフィールはこちらです。

そんな中、先日「なぜヘルスケアビジネスは難しいのか」という(あまりにも大きな)テーマでウェビナーを行ったのですが、けっこう各方面から良いリアクションをいただきまして、それならせっかく資料作ったわけだし、流用して省エネでnoteで記事書いちゃおと思い立ち、この記事が存在しています。
しかし、書き始めると止まらなくなり、気づいたら約15,000字にもなる記事となってしまいました。
本当に暇な時に少しずつでも読んでいただけると書いたかいがあります。
何かしらヘルスケアの新規事業企画や既存事業のグロースのヒントになりますように・・・・

ちなみに、ここでの「ヘルスケア」の定義としては、医療、ウェルネス、さらには保険、金融などヘルスケアに関連するカテゴリを幅広く捉えています。
それぞれ差異はありますし、例えば医療においても臨床の現場、事務など個別具体によって内容や考え方は変わりますが、今回はできるだけ網羅的に且つベーシックに且つ抽象度高めでお送りしております。

本記事の情報は2024年5月時点となります。


日本のヘルスケア市場の今後

参考:経済産業省「新しい健康社会の実現」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/013_03_00.pdf

これは経済産業省が出している資料を元に作成したのですが、2050年頃、あと約25年後には・・・
・高齢者はできるだけ長く健康でいてくれ、そして働こう(若者は減るぞ)
・とはいえ、みんな健康ではいれないし、自ずと介護も増えるよ
と、比較的切ない未来が見え隠れしています。

医療機器に関しては日本と同じ轍を諸外国が踏むことが予想されるため、経験を活かして展開できるよね、という意味にも取れるかと思います。
もちろん、日本国内に限らず、グローバルで見てもヘルスケア市場はがっつり伸びていきます。(すみません、ググれば出てくるのでグローバルデータは割愛します)

ヘルスケアビジネスの今

ヘルスケアビジネス、どこを手掛けるか

世の中にあるヘルスケアビジネスを網羅的に整理してみましたが、ここに書かれている項目に真正面から取り組むだけがヘルスケアビジネスではないと考えています。
特にtoC向けのヘルスケアビジネスにおいては、顧客の健康意識を高めてどう継続的に利用してもらうかということに各社頭を悩ませています。
上記の項目はあくまでカテゴリに過ぎず、それぞれの利用者の体験を考慮した設計をしない限り、ソリューションは事業にはなりえないのです。

道が険しいが必要なイノベーション

ヘルスケアビジネスの中でも、事業の意思決定として最も難易度の高いジャンルが、医薬品、医療機器関連や、医療に関連するソフトウェア領域です。

医薬品においては、疾患に対しての研究から開発、臨床試験、承認申請と進めますが、かなりの年月を要します。
以下はエーザイがHPで公開している創薬パイプラインですが、このように各社が様々な疾病領域で開発を進めています。
しかし、この開発は途中で撤退もありますし、承認を得られない可能性もあります。
もっと言うと、承認を得たとして病院が取り扱うかはわかりません。
難易度が高く、且つ数年に渡る投資が必要な厳しいビジネスですが、最後は誰かを救う素晴らしいビジネスでもあります。

デジタルヘルス領域におけるポジショニング

ヘルスケアサービスを企画する際に、患者の課題解決や、医師の診断支援など様々なアイディアが出てくると思いますが、最終的にどのポジションを目指すのかに関しては事前に想定しておくと良いと思います。

上述した医薬品と同じく、例えばDTx(デジタルセラピューティクス):デジタル治療薬まで昇華させていく場合は長い戦いになりますし、確固としたエビデンスを集めていく必要があります。
この分野においては、日本だとCureAppがニコチン依存症、高血圧症の治療アプリを展開しています。

一方でNon-SaMD(Non-Software as a Medical Device)は直接的な治療を行うものではないため、リリースと同時にすぐにビジネスが可能ですが、ユーザーを増やし、継続利用させることは難易度が高いです。

どの領域で事業を行うかについては一長一短ありますが、僕は山の登り方次第でもあると考えており、今開発している認知症関連のサービスに関してはNon-SaMDから進める形を取っています。
事業としてはNon-SaMDから始めて、様々なデータを取得しながらDTxでの可能性を見ていく方法は悪いことではないはずです。
もちろんNon-SaMDの段階でビジネスができている=売上が立ち、利益も見える状態を目指すことは事業の継続性の観点で重要ですが。

ビジネスモデルパターン

ターゲット顧客としてBtoC、BtoB、BtoMと分類しています。
この表に少し不足があったので補足すると・・SIXPADのような機器や、TENTIALが展開するウェアなど、BtoCにおいてはショット購入パターンもありますね。

(TENTIALいいっすよ)

健康アプリは群雄割拠状態

歩数や睡眠などヘルスデータを収集・管理するサービスは数多く出ていますが、顧客基盤を持つ大企業がさっさとインセンティブ載せたサービスを出してきてしまうので、スタートアップが戦うにはなかなか厳しい市場環境ではあります。
しかし、インセンティブがあるからといって継続率が担保されるわけではなく、カニバリの問題よりも、どうやってビジネスするかのほうが大きな問題です。

老舗大企業の戦い方

事例はいくらでもあると思うのですが、最近個人的に気になった例を持ってきています。
カルビーは分析キットを使い、自分の腸内フローラが何かを知るところから、グラノーラのパーソナライズを行っています。
少し前にYouTuberがPR案件としてこぞって紹介していました。
カルビーが単体でがんばるのではなく、スタートアップと提携して進めるやり方を取っており、スキームとしてはとても良いなと思ってました。
このように大企業とスタートアップが組んでスピーディーに事業を創ることはグッドです。

TSUTAYA Conditioningは実際に見学させていただきましたが、蔦屋書店のように本を並べ、本を読んだり動画を見たりしながらゆるりと運動する環境を作っています。
また、運動の合間にコーヒーブレイクができたりと、他とは違う新しい体験価値を提供しています。
こちらは他のジムとの絶妙な差別化ができており、地方への展開が進んでいます。

ワコールは3Dスキャンで自分に合うブラがわかる「SCANBE」というサービスに力を入れています。
また、オプションで骨格診断を有料で展開しており、これは骨格ウェーブ、骨格ストレートといった、これまで何となく自分で判断していた人にはニーズがありそうなサービスだなと思います。
今後スキャンできる項目を増やし、重心や、足の状態など、女性の美をテーマに様々なサービス展開ができそうです。
(最近は姿勢改善AIなどもでてきてますね)

新興企業が展開するヘルステック

少し毛色の違うサービスを紹介したかったので・・・
GROOVE XのLOVOTは健康経営文脈で企業導入も進み、最近は中国にも進出し、けっこうなお値段で販売を始めています。
メンタルヘルス&見守りの分野はこのようなロボットや、AIをベースに確実に成長しますが、特に独り身が増える中で”話す”体験には一層注目が集まるはずです。
話すことはメンタルヘルスに限らず、認知力維持や、声を出すことによる嚥下力低下を防ぐことにつながります。

TENTIALは前述しましたが、コンセプトに「リカバリー」を置き、商材は多種多様です。

ナッジヘルステックは微量血液採取のソリューションに取り組んでいます。
これまでハードルの高かった血液検査が簡易となり、一般化すれば、自宅にいてもこれまで以上に様々なことがわかるようになります。
オンライン診療、遠隔診療など、仕組み自体は技術的にどんどん解決できますが、患者に触れられない、患者を検査できないという画面の隔たりで生じるラストワンマイルをクリアするソリューションはこれからどんどん注目されていくはずです。

未来のデジタルヘルス:技術革新と応用可能性

これからの未来のヘルスケアビジネスに組み込まれていくであろうテクノロジーについてまとめてみました。
まとめてみると、まぁそうだよねという領域ばかりですし、それぞれ取り組んでいる企業の顔が浮かぶものもありますが、芯を食った事業ができている企業は少ないです。

注目の次世代ヘルスケアサービス

個人的に気になっているサービスをいくつか紹介します。

歯生え薬には本当に驚きました・・革命ですね。
まずは先天性無歯症の治療に使われるらしいですが、もし足りない歯を生やすことが一般的になったら全体的にQOLが上がりますし、既存の歯の治療ビジネスのゲームチェンジが起きます。

今後、メンタル面だけでなく、認知力、視力回復などの領域でもゲームアプリなどは色々出そうですね。
あ、僕はあまり知見がないのですが、FDAの承認って緩いんですか笑?
本当に日本は慎重なんだなと強く実感しています。

ヘルスケアビジネスのHARD6

これまで事例やビジネスモデル等について書いてきましたが、いよいよ本題である「なぜヘルスケアビジネスは難しいのか」に迫っていきたいと思います。

「ヘルスケア事業って難しいよね」と色々なところで聞きますし、僕自身もそう言うことがありますが、あまり理由を言語化できてなかったので、6つに分類分けしてみました。
全部の項目に触れるのは大変なのでかいつまんでコメントを残します。

1. 規制の複雑さ

  • 医療関連法規の多さと複雑さ

    • 薬機法、医療法、健康保険法等

  • 行政機関ごとの規制の違い

    • 厚労省、経産省、総務省・・どこが管轄かによっても変わる

  • 新規参入障壁

    • 申請や承認のために、専門知識や経験が必要

SaMD、DTxでは避けて通れない部分になります。Non-SaMDだとしても、例えばアプリにおいてはAppleの審査が厳しい領域です。(僕も何度も落とされてます)
生成AIサービスの増加も相まって、今後規制も追加される可能性があります。
その可能性も見越してか、日本総研が事務局を務める日本デジタルアライアンスでは、最近生成AIを活用するためのガイドラインを策定しました。
このような情報は一般人では読み違えることもあるので、事業アイディアを考えた段階でさっさと専門家を交えて確認したほうが早いです。

2. エビデンスの確立

  • 臨床試験の難しさ

    • 長期間、高額な費用、対象者集めが大変

  • データ解析の複雑性

    • 大規模データ処理や解析手法の選択、専門知識の必要性

  • エビデンス活用における障壁

    • 審査突破、他社差別化、優位性の主張の難易度

対象者集めは条件の数、希少性によって難易度が変わりますが、ここはけっこう大変な部分で、いまだに新聞広告に多額な予算を掛けていたりします。
これはPHRが進む中で、個人情報問題がクリアされていけば少しずつ解決していきますが、相当な時間を要するはずです。
僕は認知症関連の事業を行っていますが、もし多くのユーザーに使ってもらうサービスになるのであれば、認知症新薬などを臨床試験したい製薬会社にとっては意味のあるパートナーになるかもしれません。
ここに臨床試験のターゲットになるユーザーがいるのであれば、無闇矢鱈に広告費を使う必要がなくなるので。

3. 顧客の行動変容

  • 健康意識と行動のギャップ

    • 実際は行動に移さない人が多く、特に無関心層へのアプローチが難しい

  • 動機づけ、継続性の方程式が見つかりにくい

    • 能動的な持続や、習慣化の難易度が高い。

  • パーソナライズは言うは易し行うは難し

    • データとレコメンドのにわとりたまご問題

多くの人の健康意識が高いのであれば、toCサービスはもっとうまくいっています。
無関心層どころか、多少関心を持っていたとしても能動的に動く人が多いわけではないのがヘルスケアの領域です。
こんな言い方はよくないですが、toC領域でうまくいかないからtoB領域で健康経営文脈やリスク管理文脈に持っていく側面があると思います。
企業としては導入する意義がありますし、サービス提供者からすると、継続のフックを企業からのオーダーという半強制力に委ねられる部分があるからです。
最終的にtoCに向いたサービスの多くは企業向けSaaSを睨んで事業展開を行っていますが、これも飽和してきますし、そろそろブレイクスルーが必要ですね。

4. データ活用、個人情報保護

  • 活用の前に収集難易度が高い

    • システム構築投資、利用者同意取得、法規制対応等

  • データ管理の複雑性

    • ビッグデータ管理、セキュリティ対策投資、匿名化処理

  • データ活用における制約

    • 利用目的の定義、二次利用問題

厄介なのが、ユーザーが多いか少ないかは関係無く、どんなに新規事業でスタート段階だとしても考慮するべきポイントなんですよね。
特にヘルスデータやバイタルデータは要配慮個人情報に該当する部分もあり、例えば将来的にデータを活用したビジネスを進めるとした時に、どのような内容を規約に記載するかなど考慮すべき点は多々あります。

もし今からヘルスデータを扱う事業を企画する、且つ、実証を経て事業化に進む場合、PoCフェーズからこのあたりを考慮することは掛けるべき時間、費用としてあまりよろしくはないので、データ管理できる外部パートナーと組むほうがよいと思います。

余談ですが、最近は自分のデータを能動的に第三者に提供するデータドネーションの考え方も出てきました。

5. ステークホルダーの多様性

  • 利害関係、コミュニケーション

    • 各立場による視点の差異、要望や期待とのズレ、優先度等

  • 価値観、倫理観の差

    • 倫理的ジレンマへの対応が難しく、事業の質にも大きく影響する

  • 意思決定プロセスの複雑性と長期化

    • 事業に関係無くとも避けられないチェックポイントがある場合も

選択する事業によっては、事業自体のPSF、PMFに向かうプロセスの中で、事業内容に直接関係が無いとしても、様々なチェックポイントをクリアする必要があります。
例えば、医療機器の承認フローなど、複雑な手続きが求められる場合、このプロセスを突破していくことは決して簡単ではなく、事業化までの時間はかかりますが、避けられないことです。
このような手続き自体に目が向けられ、もっとスピーディーに様々な事業が立ち上がる環境を作っていくことで、世の中に出ていくサービスの数は増えていくはずです。DXも大事ですが、DXを進めるための課題も多々ある状況です。

6. ビジネスモデル構築

  • 収益化は思ったよりも難しい

    • どこから得るか、価格設定、投資回収までのスパン

  • パートナーシップの構築と維持

    • 利害調整、認識理解の差分

  • 中長期的なストーリーが設計しづらい

    • 技術革新スピード、変化する顧客ニーズ、法規制、海外の動き

例えば、toC向けサービスで考えてみます。
toCで課金を狙っても課金率はたかが知れてるので、無料でサービスを提供し、集まったデータをtoBに売るようなデータビジネスに展開するとします。
これはユーザー規模が必要になるため、すぐには売れません。
売れるようになるまで、(初期開発費+)運用費がかかり続け、ユーザー規模を増やすために、広告、マーケ費用を積み、アライアンスパートナーを見つけ、自治体や他企業を巻き込み・・・と、売上を立てるまでのシミュレーションは気が遠くなります。
そして、これらは仮説に過ぎず、売れる程のユーザー規模に成長させられるかはわかりません。
よくヘルスケアの新規事業ブレストをしていると「データを売ればいい」という声も聞こえますが、それがだめなわけではなく、少し先の未来の可能性に留めておくべきです。

以上、HARD6を紹介してみました。皆さんが進めている事業に該当するものは何かしらあるのではないでしょうか。
また、このHARD6は主に事業立ち上げにおいて、
・クリアしなくてはならない
・将来解決しないとならない
観点でまとめていますが、求める事業規模やプレーヤーの数、ソリューションの新規性(存在しているものか)によって難易度は変わります。
「今考えている事業に待ち受けるHARDが知りたいよー」って方がいましたらお気軽にご連絡ください。

ヘルスケアビジネスを成功に導くヒント

ここからは、上記のようなHARDに立ち向かうためのヒントをまとめてみました。
これは僕自身がヘルスケアビジネスを推進する中で、現時点で特に重要と考えているものになります。

顧客体験価値を見つめ直す


「今からあなたはこのアプリを使って毎日食事のログを取ってください。そうすれば、あなたにどんな栄養素が不足しているのか。どんな疾病可能性があるのかを教えます。」
「うるさいな。自分が食べたいもの食べるし、入力いちいちめんどくさいんだよ。(ラーメンズルズル)」
「食事記録は写真を撮ればAIが自動判別し登録します。」
「機能の向上を求めてるわけじゃないんだよ。別に知りたくないんだよ。」
「食事記録をするとポイントが・・・」
「お、ポイントか・・・・・・・いやいや、めんどくさいよやっぱ。」


これは全ての人に当てはまる例ではないですが、食事記録をしっかりと取る人のほうが圧倒的に少ないことは事実です。
あすけんを継続的に利用しているユーザーは「あすけんの女」を泣かせずに栄養バランスとして100点を取ることを目指していますが、ここまで行動変容を起こせるユーザーはすごいなと感心します。

そして、そもそもなのですが、可処分時間の奪い合いの中で、SNSやゲームや動画に触れてる時間を、自身の健康を気遣い、ヘルスケアアプリを触る時間に当てる人がどれだけいるか。
そういった意味でも、サービスの提供価値、文脈を”for 健康”からずらすことも1つの手段ではないでしょうか。

例えば、最近は眼球の視点移動から認知力の状態を測ることができます。
それなら、エンタメとしてゲームセンターにあるようなドライビングゲームを提供し、ステージをクリアしていく中で、空間認識力や注意力を測るようなサービスは創れるはずです。

行動のモチベーションや価値をヘルスケア文脈からずらし、裏テーマとしてヘルスケアを設定しておくようなサービスが増えていくと、結果としてヘルスケアに取り組んでいる状態の人は増えていくはずです。

収益可能性の多角化

提供価値と売上は全て直結するわけではないと考えています。
toCサービスを有料で展開した場合、すべての人がそこに課金してくれればいいですが、おそらくユーザー規模が小さくなります。頑張って増やす努力もありなのですが、そもそも価値を提供しているユーザーからお金をいただくべきなのか?また、その価値の対価でしか考えられないのか?はあると思います。
さらに、頑張って増やす努力を続けたとして、それは事業として利益が出るまでどれだけの年月がかかるのか。
ヘルスケアビジネスにおいて重要なことは本来、人々の健康につながる価値を継続的に提供し続けることだと思います。
これは、使い続ける人がいることと、提供する企業側の体力が続くことがセットになります。
しかし、必ずしもこの2つは売上・費用の関係にいるわけではないです。

先程のtoCサービスにおいては、例えば、
・基本無料で間口を広げる
・一部有料オプションを設ける
・ユーザーに対してEC等の展開を行う
・ユーザーデータをビジネスに活用する
・ユーザーにアクションを促す(アンケート、モニター依頼など)
このように多面的に展開することで、有料には入らないけどECではお金を使うユーザーが出てくる可能性があります。

また、もう少し掘り下げると、例えば、ここで作るソリューションやシステムの外部提供可能性はないのか。
もしこれが可能だとすると、3rd partyへのサービス提供や、サービスそのものをOEM的に提供できる案も考えられます。
そうすると、最初からこの案を見越したシステム構成を考えることもでき、将来的に大きなシステム改修を避けることができるかもしれません。
このように単一のビジネスモデルで勝負を仕掛けるのではなく、複数で構えるor1つが難しかった時にすぐに売り方のPivotができる状態を想定することは、事業の継続において不可欠だと考えています。

自社開発だけが正義ではない

上記の図は、新規事業を行う方法について整理したものとなりますが、書きたかったことは大きく2点です。

<ソリューションは外部の力を使ってスピーディーに>
新規事業にはソリューション自体が必要であり、ソリューションの実現には環境や専門家、そしてコア技術が必要になります。(≒多くのソリューションには必要になると思います)
しかし、このソリューションは必ずしも自社ですべて用意する必要はないと考えています。
ソリューション自体は事業ではなく、事業に仕立てるためには、そのソリューションに価値を感じる顧客が必要です。
顧客にとってはソリューションの大元がA社だろうがB社だろうが根本的には関係ありません。
ソリューション開発を自前で行うためには、たくさんの時間やコストを払う必要があります。しかし、その大きな投資を行う前にまず知るべきは、顧客ニーズはあるのか、顧客の行動変容が起こるか、顧客は対価を払ってくれるかです。
ここの確証を得ずにいきなり1から自前で開発を行うことは長い時間をかけたギャンブルであり、リスクです。
なので、例えばスタートアップや大学、研究機関で検討されている既存の技術を活用することが”色々と速い”という話です。
「コア技術がどこにも存在しない場合もあるだろう」という意見もあると思いますが、言いたかったことはあくまで新規事業創出におけるリスク低減方法を考えることであり、その方法は様々あるはずです。

<フレキシブルに動ける状態を作る>
(ヘルスケアに限ったことではないですが)新規事業を推進していく上で、特に大企業においては、たとえ実証実験段階だとしてもその情報は外部への影響が大きい場合があります。
さらに、プライバシーやセキュリティ、社の方針、承認フローやスピードなど、自社の中で進めるには時間がかかったり、内容によっては通せないケースもあります。
また、新規事業を行う場や、専門家、技術を持つスタートアップなど、実現していく上での関わり方は単なる外注パートナーでは留まらない場合もあるかと思います。
自社の中で一事業部として行っていく場合、上記のようなケースに対応しきれない場合があります。
その際の手段として、
・しばらくは外部の会社で新規事業創りを行い、それを監督する、意思決定する立場となる(自社の名前が世に出ない)
・子会社化する
・関係するプレイヤーとともにジョイントベンチャーを作る(ただの外注関係ではなくなる。ある意味スタートアップを共同で立ち上げることと同じ。)

などがあります。
いずれの手段も、もし将来的に新規事業がうまくいった場合、自社に取り込むシナリオを設定できるのであれば、特に大きな問題は無いように思います。

小さな事例が道を拓く

PoC、MVPとステップを進めていく中で、当然ターゲット顧客が価値を感じてくれることが最重要です。
それはそうなのですが、僕はこのステップを通して、ステークホルダーが学習、理解、共感することも重要だと考えています。
ここでいうステークホルダーとは、例えば事業が展開される場を提供する企業や、研究開発を共に行う大学の関係者、患者を診ている医師といった、事業開発に欠かせないパートナーを指しています。

以前、医師の方にも関わってもらう必要がある新規事業がありました。
構想や企画説明については意義を感じていただいたものの、実際に医療の現場に実装していくことに関しては、既存のオペレーションや、これまで使っていたツールの兼ね合いもあり、なかなか前に進められませんでした。
これはよくあることだと思います。成功するかもわからない新規事業に対して二つ返事で関わっていただけるほど医師はヒマではありません。
あと、当時感じたことは、企画概要としては理解できるものの、その解像度が高いわけではない(僕らと合ってない)かも、ということです。
つまり、前に進めるためには、可能性が感じられること、将来の事業の姿が想像できることが重要となります。
なので、PoCとしては、医師側があまり負担無く、しかし、顧客である患者が価値を感じてくれることを目指しました。
結果として、PoC終了後は、むしろ医師の視点からフィードバックをたくさんいただけることとなり、その後の事業開発にも関わっていただきました。

ヘルスケアに限ったことではありませんが、PoC、MVPフェーズにおいてはターゲット顧客の価値検証に留まらず、ステークホルダーの関与度を高めることはとても重要です。
そして、これは結果的に顧客の価値を増幅させる一因となっていきます。


これから注目したいヘルスケアビジネステーマ

9,000字以上かけて、網羅的にヘルスケアビジネスについて書いてきましたが、いよいよ締めに向かいます。
ここからは、最近の世の中の動向、これからの未来、そして、企業ニーズや、顧客体験の変化など、様々な観点から、僕が注目しているテーマを紹介します。

もし「そのテーマやアイディアについて話したい」「一緒に創りたい」「お金を払うから創ってくれ」などありましたらXかFacebookメッセンジャー等でお気軽にご連絡ください。
連絡がくるだけでも嬉しいタイプです。

注目しているテーマ

パフォーマンス担保のための更年期、不定愁訴対策

日本ではプレゼンティーイズム、アブセンティーズムは労働生産性を下げている要因と言われており、国としても課題視しています。
更年期障害や不定愁訴は関連性があると考えているのですが、両方とも白黒判別がつけ難く、明確なソリューションがありません。
既にメンタルヘルス関連のサービスは様々出てきていますが、このような症状に着目したソリューションを研究も含めて考えていけると、これからの労働者高齢化時代にもマッチしそうです。
気をつけたいことは、このようなテーマにストレートに取り組もうとすると、「従業員のデータを取ろう。デバイスを着けさせよう」となり、そんなのわざわざ着けて自分の健康状態を会社に知らせたい従業員いるの?ってことになります。
余談ですが、生理休暇は本当に取得率が悪いです。これ本当に良くないですね。

空間認識力のチェックと強化

運転を中止すると認知症リスクが高まるという研究結果があります。

運転自体は今後どんどん自動運転化が進み、周囲に注意を払う機会も減っていきます。
これはイノベーションによって引き起こされるネガティブ側面です。
一方、今後成長が期待される市場でもあるeスポーツ。実際の試合で使われるFPSゲームなどは空間認識力がとても重要です。
また、VR市場では、Apple Vision Proも発売され、今後現実とヴァーチャルの境目が今以上にナチュラルなものとなり、複合的に認識することが当たり前になっていきます。
これらの体験においては、ポジティブな側面として、イノベーションに追随する形で今以上に空間認識力の維持、強化が求められるはずです。
プロスポーツ選手の空間認識力を研究し、データを活用してこれからの子どもたちの可能性を見出すなども面白そうですね。

筋肉強化から骨強化へ。姿勢にも着目。

たんぱく質の必要性について多くの人が認識し、プロテインは美容観点でも売れるようになりました。
中高年、シニア向けフィットネスのカーブスは、会員向け物販の売上の9割をプロテインが占めており、事業にとって欠かせないビジネスです。
まさにここ数年は筋肉の時代でした。
しかし、これに並走する形で、若い女性の間では「骨格ナチュラル」「骨格ストレート」「骨格ウェーブ」といった言葉が一般化していきました。
骨格のタイプによって自分に似合う服は決まる、という考えが浸透し始め、自分と同じ骨格のインフルエンサーのコーデをチェックするようになります。
これはただの予想ですが、骨格の次は姿勢に目が向いてくるような気がしています。
骨格は変えられないものですが、姿勢を正して見た目を良くすることは可能です。
どんなに着飾っても猫背は見た目が悪いですし、スマホ首とも言われるストレートネックなど、現代的な課題も大きい。
最近は姿勢改善AIなどのソリューションも出てきてますし、新たなブームが起こる可能性もあると思います。

この骨や姿勢への注目は「美しさ」の観点であり、美への欲望ですが、ここで対策を行うのであれば、結果として将来的な骨粗しょう症予防につながります。
これからの高齢化社会において、骨粗しょう症はこれまで以上に大きな課題となるはずです。
骨粗しょう症になると、骨が折れやすくなったり、折れた場合になかなか治らない状況になります。これにより出歩くことができなくなり、社会的コミュニケーションが減り、認知症リスクが高まっていきます。
介護側の負担も相当なものになります。

なので、骨の状態を可視化したり、適切な対策を取るようなサービスは国レベルで求められるものになるはずです。
しかし、ストレートに展開してもきっとうまくいかない。
「骨粗しょう症対策10選」と「モデルのような美しい姿勢になる10の方法」、どちらが興味を持って取り組みたいと思うのか。
骨格や姿勢を一つのフックにしたサービス展開はありだと考えています。

余談ですが、骨の状態は尿検査でも知ることができます。
例えば、仕事帰りに分析可能なトイレでおしっこをすると、帰りの電車の中でアプリに通知がきて、今日の健康状態(&骨の状態)がわかる。
このような生活動線上且つ生理現象に合わせたサービス展開などが本当に意味のあるヘルスケアソリューションだと思います。
不動産会社などがビルの一部のトイレをそのような場所にして、入居企業の付帯サービスなどにできたら、色んなビジネスチャンスあるんですけどね。

身体拡張

イーロン・マスクのニューラリンクでは、患者の脳にデバイスを埋め込み、考えるだけでマウス操作ができるようになりました。
このイノベーションが加速すると、僕らは例えば感情そのものを操作でき、「仕事したくないなー」と思っても、その感情を消し去れるようになるかもですね。
・・・と、このような脳に埋め込むソリューションもありますが、僕は感覚器の拡張がもっと進めばと思っています。
例えば視覚。僕らは前を見ながら後ろを見ることはできないですが、車を駐車する時は、(最近の車なら)360度見渡すことが可能でぶつける心配がありません。この仕組みは日常の視野拡張のヒントになりえます。
合わせて老眼対策や、遠くのものを拡大する方法も進化し、メガネ自体がアップデートされるはずです。

味覚においては、キリンがエレキソルト スプーンという、電気を使って塩味を感じるデバイスを開発し販売を始めました。
味覚をハックする画期的なツールです。

このように感覚器を増強、拡張するソリューションもそうですし、義肢やもしかしたら3本目の手など、五感以外の部分でも考えられることは多いと思います。

既存医療機器の取り扱い、備品管理のスマート化

ここは個人的に中古医療機器に関する事業をやりたいなと思ったことが発端です。
病院によっては備品である医療機器の管理が不十分であったり、実は年間を通して全く使われていない機器が存在していたりします。
そして、特に地方であまり費用がかけられない病院は最新の機器を購入することができません。
機器管理、機器の最適化(次年度購入計画も含む)、中古機器マーケットプレイス的な展開ができると良いなと思っているのですが、海外と比較して日本は医療機器に対しての規制が厳しいため、マーケットプレイス展開まで持っていくことはそれなりなハードルはあります。
ただ、医療DXにおいては、このようなテーマに取り組むことも重要です。

予後データの取得と利活用

某病院の先生と会話してた際に、「手術に限らずだけど、処置した患者さんが退院していった後のデータを見たいんだよね。」と言ってました。
退院すると、その後のデータがわからないし、例えば脳梗塞などにおいては再発で再入院もあります。
病院側としては、処置が良かったのか、その後の状態はどのように変化しているのかを知ることで、治療計画をアップデートしていきたいという考えがあるようでした。
また、再入院などがあった場合に、病院に来ない間にどんな生活をしてたのかを知ることができることもメリットだそうです。

確かに予後データがたまっていけば、病院側の知見自体が増えていきますし、次に同じ治療をする患者に対して、予後の状態について今よりもクリアに伝えることができるようになります。
もちろん、予後のデータをわざわざ提示してくれる理由が無い限り実現は不可能ですが、医療のアップデートという観点では意味があると考えています。

マイクロバイオームと個別対策

腸は第二の脳とも言われています。ストレスや緊張を感じるとお腹を壊す人がいる時点で、何かしら心理的、精神的な部分とのつながりもあると感じます。
脳腸相関(brain-gut interaction)という言葉があるように、どうやら脳と腸は何かつながりがありそうです。
そして、この腸に生息するマイクロバイオームは健康面において重要な役割を担っているはずであり、構成は人それぞれ違います。
この人それぞれ違うマイクロバイオームの状態をパターン化し、特徴を出し、個別対策につなげたり、もしくは構成そのものを変えることができたりすると、これまでにない画期的なソリューションになると思います。

医師がいない病院、スマートクリニック

これから人口減に向かう中、医師の数は供給過多になっていく予測があります。
しかし、この供給過多は都市部の話であり、地方では医師不足が解消されないのではと思っています。
このような問題に関わらず、遠隔診療やオンライン診療は技術進化とともに加速し、医師がその場にいなくても触診や簡単な治療ができる状態はけっこう早く実現できると思っています。
そのような医療を実現する上で必要なイノベーションはまだまだたくさんあるので、やりがいのあるテーマではないでしょうか。

終わりに

気づいたら1万4000字を超えていました。
今回の記事は、ググればわかるようなファクトデータよりも、僕が普段ヘルスケアビジネスに関わる中で経験したり、考えたり、見聞きしたことをベースとしてまとめてみました。
この市場では、技術自体の進化はAIの影響も受けスピードが速いのですが、顧客の行動変容の難しさや規制等により事業としてのスピードは牛歩に感じています。
それらは今すぐガラッと変わるものではないので、上述したようなHARDは前提として捉え、どうしたら突破できるかを考え続けるしかありません。

以上、今回は2024年5月時点での僕の考えとして書きましたが、またアップデートしたいと思います。
次回は、「ヘルスケアとAI」について書きたいと思います(仮)

最後になりますが、けっこうがんばって書いたので、よかったら社内の新規事業部署などにシェアしてください。
また、ヘルスケアビジネスのご相談も受け付けておりますので、お気軽にメッセなどください。


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