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映画『C'mon C'mon(カモン カモン)』を観て

ホアキン・フェニックス(『ジョーカー』『her』)主演、マイク・ミルズ監督・脚本の『カモン カモン』について。
※大したネタバレはないと思います


最高に愛おしい物語」「圧倒的な多幸感」
って感じで宣伝では語られているけど、僕が感じたのは"絶望"だった。

そして考えたのは"絶望"について、反対側にある"希望"について、それらに加えて、その架け橋になる気がした"大人の中にある子ども的な部分"についてだった。



1. "絶望"について

主人公は9歳のジェシー、そしてその叔父のジョニー(ホアキン・フェニックス)。この映画は、ある日突然、共に暮らすようになった2人の物語。

僕が感じた絶望は、9歳のジェシーが感じたであろうことだった。

・自分のことをわかってほしい人に全部をわかってもらうことは叶わない
・大人の健康状態やストレスに子どもは多大な影響を受けて振り回される
・お父さんとお母さんが好きだし仲良くしてほしいし一緒にいたいけどそれもうまくいかない
・この世界は不安で、不安で、不安でしょうがないし、そんなことを話せる相手はいない、、、

それは戦争や犯罪、自然災害とは関係ない、誰しもの日常生活にありうるもので、それが余計に現実的な"絶望"を感じさせた。愛おしさや多幸感よりも、強く感じさせた。



2. "希望"について

そんな絶望が描かれる中で感じた希望は、叔父のジョニーの仕事で出会う子ども/若者たち(英語ではKidsとかyoung peopleとかって言ってた)の言葉から感じた。
ジョニーは、全米の子どもたちにインタビューをして、それをラジオで流すっていう仕事をしていて。

最初っから最後まで、この映画は、ジョニー(というかホアキン)にインタビューされた子どもたちの言葉で埋め尽くされる構成になっているのよ。子どもからすると、『ジョーカー』でジョーカーを演じたハリウッドの大俳優が目の前でマイクを持ってる感じでしょう。実際にホアキンがアメリカで4都市を巡って子どもたちにインタビューしてまわったんだと。


その子どもの言葉たちが、いやもうなんていうか、あまりに考えさせられるようなことばかりなんだよね。


ちなみに、決して、彼女ら/彼らが全員、希望に満ち溢れているってわけじゃないんだ。なんというか「希望を持っている」んじゃなくて、「希望を持ちたい」っていう点で全員の言葉が一致している気がしたんだよね。それがこの映画で感じた"希望"。

そしてこの「希望を持ちたい」っていうpositiveなmentalのattitudeが、絶望の渦中にあって子どもの一人でもあるジェシーにも、子どもたちから日々そんな言葉を浴びまくっているジョニーにも、通ずるものとして育まれているような気がしたんだよね。



3. "大人の中にある子ども的な部分"について

正直、映画の本筋はジェシーとジョニーの親子的関係についてだから、ジョニーの仕事が子どものインタビューをするってことだったり、映画中にその子どもたちの言葉が散りばめられている構成だったり、あんま関係ないようにも思えるんだよね。
実際に映画館で前に座っていた方は、上映終了後に「全然わかんなかった」ってお連れ様に漏らしてた。


でも、仮にこの映画が「幸福感」で溢れているとしたら、それを生んだのはジェシーの「子ども的な部分」、それに呼応したジョニーの中にある「子ども的な部分」、それをつくった全米各都市の子どもたちの「子ども的な部分」だと思ったんだよ。

ジョニーって、絶望の中にいる甥のジェシーを目の前にして、いろんなことがうまくいかないし、感情的にもなるんだけど、何かできないか、力になりたいってずっと思ってるんだよね。その献身、あるいはジェシーを尊重しよう/尊重したいっていう気持ち、その無償性(見返りを求めないこと)が、子どもたちへのインタビューを通して、日々彼女ら/彼らの言葉を浴び続けることによって醸成されたんじゃないかって、僕は思いました。


大人ってのは何か子どもや若者に「教える」存在で、教えようとする大人は多いけど、たぶんこの映画は逆のことを描いた気がして。大人ってのは子どもから学ぶことが多いんじゃないか、そしてそれは子どもを救うし、ハッピーだし、大人も望む結末に導くんじゃないかってことなんじゃないかって。


例えば、作家の古賀史健さん(『嫌われる勇気』)はnoteでこんなことを言っていたけど、こういう"希望"的態度も学ぶことだと思うし。

未経験を見つけ、または仕入れ、自分のスタンプ帳をつねに空白だらけにしておくこと。そしてあらたなスタンプラリーの旅に出ること。旅を終わらせないこと。「若さ」というのは大袈裟だけど、「現役でいる」とはそういうことじゃないかと思う。


かのオードリー・タンもかつてメンター側で参加していた、台湾の「リバースメンター制度」は、まさにこの「若者から大人が学ぶ」ことを国家レベルで制度化した例だと思う。

台湾政府はちょうど2014年から、35歳以下のソーシャル・イノベーターを各大臣のリバースメンター(若手が年長者に助言すること。逆メンターともいう)に登用する〈リバース・メンタリング制度〉を設けていた。
リバースメンターたちは大臣に新しい技術、方向性などを示す一方で、大臣は若い優秀な人材に政府の仕事を教え、政治への参画を促すという制度だ。

東洋経済ONLINE  台湾オードリー・タン「透明性」への驚異の信念


年長者を敬うな、ってことを言いたいんじゃなくて。それはそれ、一方で子どもや若者から学ぶことがあったっていいじゃないかって。『カモン カモン』では、その極みを観たような気分なのかな。



最後に: なんでこれを綴ろうと思ったか

映画の感想なんて公開したことないのに、この映画は綴ってみようと思ったのは、僕の日々が主人公のジョニーとほとんど同じ(子どもの話を聴いて、子育てをする)だったんだよね。リバースメンターに囲まれた日々。それを知っている友人がこの映画を観て僕に共有してくれたのがそもそもこの映画を観たきっかけで。何か僕に書けるものがあるかもしれないなと思って綴ってみました。

映画のこと書くなんて、最初で最後かな。
ありがとうございました。

※写真はすべて公式webサイトより

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