あいから 5章 〜大好きな彼女が多重人格だった〜
ゆきちゃんはどんどん言葉を覚える…というか言葉を思い出しているようだ。
「オレだじょ」
「ゆきちゃんでしょ?りょうの真似?」
「ゆちじゃないじょ、オレだじょ」
「りょうはだじょ!っていわない」
「うぅん、まちゅめ!ゆちのいうことをしんじないなんて…おぼえていらっしゃい」
「どんな報復をされるのか…怖い…」
「まちゅぼっくいのあだなをかんがえてやる…」
「あ、あだな」
「なにがいいかな~なにがいいかな~まちゅほこりさん。まちゅほんほん。まちゅぽこりさん。どれがいいかなぁ」
「いやいや『まちゅぼっくい』はゆきちゃんがつけたあだなでしょ」
「ちがうよ!まちゅぼっくいしらないんだ!おかしいの!!」
「おかしくないってばぁ」
「ややかちゃんにきいたよ。まちゅぼっくいのあだなが『りょうすけさん』っていうの。りょうすけさんっておかしなあだなだね」
「本名なの」
「うそー!」
「うそじゃないのに…」
「きめた!まちゅぼっくいのあだなは『まちゅーさん』よんだらへんじするんだじょ」
「はい…」
ゆきちゃんは表情が豊かでポニョにそっくりだ。
映画の中で大きくなったポニョが海の上を駆け抜けるシーンがあるが、ゆきちゃんがやってそうだなと思った。
びっくりしたときには目を丸くするし、笑った時は底抜けにかわいいし、怒ると手を付けられない。
りょうに「ゆきちゃんは反抗期とかないのかな?かわいいよな」と聞くと
「バカヤロウ!俺は悪戯されるし、清香はいつも追いかけ回しているぞ。あっ…ゆきがくる」
「はぁはぁ、ふい~ややかちゃんこわぇなぁ」
「どうしたの?」
「ややかちゃんが追ってくるのよ!」
「なんでよ」
「おしりにうんちつけておパンツはいていないからよ!はっ!きた!!ばばーい!」
清香はゆきちゃんに手を焼いているらしい。
「ややかちゃんったら、いっつもおせっきょうするの。あきたからにげてきたの」
「清香ちゃんのいうこと聞いてよ」
「だって!まちゅとあそびたいもん!ひぃ~」
どうやら捕まったようだ。ゆきちゃんはおてんば娘だが寝る前になると
「ぎーよのおはなしして!」といわれる。
1回アドリブで創作童話を話したら、すっかり喜んでねだるようになった。眠くなると
「とっことっこして、はっぱのベットなの!」
ゆきちゃんを抱っこして
「とっことっこ♪とっことっこ♪とっことっこ♪とっことっこ♪ズシーン♪」
ゆきちゃんの両耳を塞ぐとあっという間ににっこりしたまま寝てしまう。実の娘が居ても同じようなことをするのだろう。
統合は結婚と新婚旅行を経て彼女の精神状態が安定した事がきっかけで始まったのだろう。
統合を終えた彼女は他の人格が持っていた凄惨な体験の記憶が戻っており、精神的な負担を全て彼女が背負っている。
頻繁にフラッシュバックしパニックを起こす。抗うつ剤などが無いと正気を保てないので処方される薬の量も増える。
解離性同一性障害は統合することが完治ではなく、統合し記憶が戻ってからが治療の本番だと思った。
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