あいから 2章 〜大好きな彼女が多重人格だった〜
珍しく仕事中に彼女から電話がきた。
「亮介…あのね。大変なの…」
「どうしたの?」
「パジャマで自由が丘の駅の前にいる…」
「え?」
「ここまで来た記憶がないのよ。パジャマ姿で恥ずかしいけど…それよりも、他の人に迷惑かけていないか心配で…」
「すぐに迎えに行くよ」
彼女が黙る。
「どうした?大丈夫?」
「あ、亮介…俺、りょうだよ」
「あいつになんかあったか?他の人格がなんかした?」
「いいにくいけど…風月堂のシュークリームが食べたくなって」
「ん?」
「あ、うん。風月堂のシュークリームってうまくてさ。買いに自由が丘に来たんだ」
「犯人はお前かよ。なら安心…って、パジャマはないだろ。せめて普通の服を着ろ」
「怒るところはそこでもない気がするけど…わりぃ。あっちの世界では俺の服を着ているから自覚がなくてな」
「家から自由が丘まで歩いたのは100%お前なの?」
「そこは間違いない。シュークリーム食べて帰るだけだからって思ったけど…意外と距離あるのな」
「30分以上かかるよ」
「少しの時間なら交代することもないかなって…油断したらあいつに代わったから俺もびっくりしたよ」
「お前さ…相当長い時間、若い娘がパジャマ姿でウロウロしていたってことだぞ」
「もはや事件だな」
「言い換えると多重人格で変わった人格がパジャマでフラつくってかなり事件だぞ」
「ウケる」
「そりゃウケるよ。笑えるよ。ホッとしたら笑うしかないよ」
「交代するしないのコントロールって意外と難しい…」
「あいつに説明するから変われ。記憶が途切れると、途切れた間に悪さしていないか不安がるからさ」
「そっか」
「お前がシュークリーム食べたかっただけっていったら安心するだろ」
「そ、そうか」
少し間が空く
「原因がわかったよ」
「なんだった?」
「りょうが風月堂のシュークリームを食べたかったから自由が丘に来たってさ」
「そ、そっかぁ、りょう君ならよかった」
「あっちの世界では自分の服を着ているから、パジャマの自覚がなくてそのまま来ちゃったって」
「なんだかつじつまはあってるね」
「若い女性が自由が丘までパジャマで歩くってさ」
「事件性しか感じない」
「そうだなよな。りょうはツッコミいれたから許してあげて。りょうが出ている間は本当に意識ないの?」
「うーん、そうだね…」
「何はともあれ記憶をなくしている間はりょうだったってことは間違いないよ。それに、清香ちゃんもいるし」
「心強いなぁ」
「俺も安心」
「あんしんあんしん」
「そうそう帰りもりょうに歩かせよう!何も悪くないのにパジャマで帰るのは罰ゲームでしょ」
「確かにね。でも、そんなに気軽に代われるのかな」
「おーい、りょう」
「おい!そんなに気軽に交代できるわけない…って、変わっているし」
「俺の催眠療法すげーだろ」
「ただ呼ばれただけだけどな」
「ということで君が家まで帰りなさい。パジャマ姿で」
「パジャマってわかると恥ずかしい。帰るのはあいつでよくない?」
「何の罪のない可愛い彼女にそんなことはさせられん」
「わかったよ。あーあ、恥ずかしいな」
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