CxOクラス登用に民意を反映する。Gaudiy「代表選挙」設計プロセスの全貌
こんにちは。Gaudiyのプロトコルチーム(制度設計やカルチャー開発などを担うチーム)に所属する藤原(@rfuj1wara234)です。
多くの経営者・人事担当者の皆さんにとって、役員・マネージャーの登用は悩みの種ではないでしょうか?
特にシリーズA・B前後のスタートアップでは、30人/50人の壁として知られる組織構造の変化が起きるため、いわゆるミドルマネジメント人材が不足し、育成・抜擢は難しい問題だと思います。
Gaudiyもまさに、昨年の秋頃に50人の壁を迎え、さまざまな組織課題に直面しました。その課題を乗り越えるため、これまでの完全フラットな組織から、いわゆるCxOクラスに相当する「職能代表」という役割を新設し、2022年11月からゆるやかな階層型組織に移行しています。
その際に、CEOから発表された人材登用の構想が「選挙」でした。
そんな構想から約半年。調査、設計、テストリリースを経て、私たちが開発したのが、CEOおよびCxOレイヤーをフェアに選ぶ新制度「代表選挙」です。
公式noteでは、背景や制度概要をお伝えさせていただきましたが、その具体については伝えきれなかったため、制度設計に携わった者の目線から、改めて制度設計の思想やUXデザインについてお伝えできればと思います。
"公平性"と"適応性"という選挙コンセプト
そもそも「選挙」とはなにで、なぜ存在するのか? 皆さんは考えたことがあるでしょうか。
恥ずかしながら私は、当初は「投票して多数決で決めればよいのだろう」くらいの理解しかありませんでした。そこでまずは、選挙自体のコンセプトを定めるため、様々な文献を読み漁ったり、Gaudiyの顧問でもある経済学者の先生方にもアドバイスをいただきました。
そして最終的に、Gaudiyの「代表選挙」のコンセプトとして決まったのが「公平性」と「適応性」です。それぞれの背景を紹介します。
「公平性」─"平等"より"公平"を。国政選挙との違い
まず、各種調査を通して学んだのは、「国家における選挙」と「Gaudiyという一企業における選挙」の違いでした。
民主主義の基本的な原則として「1人1票の選挙制度」があります。これは、国籍の移転が簡単にできない国家において、法の下の平等を担保するための象徴的意味合いがつよい制度になります。
一方のGaudiyは一企業であり、入退社も比較的自由です。メンバーの厚生も大事ですが、企業としての外部に対する価値貢献が前提にあり、なによりもビジョンの実現を目指すことが上位にあります。
さらにGaudiyには、DAO(自律分散型組織)の思想のもと、企業内外の垣根にこだわらず、ビジョンに貢献する意思のあるすべての人が貢献の機会を得られるような仕組みにしたいという独自の考えもありました。
こうした違いから、Gaudiyの選挙制度としては、均等に選挙権/被選挙権がある"平等性"よりも、ビジョンに対する"公平性"を重視すべきというコンセプト仮説が見えてきました。
「適応性」─組織論から学んだ"階層型組織の弱み"の克服
また、組織論・リーダーシップ論の観点からも、複数の書籍を通じて、選挙に取り込むべき要素を検討していきました。
そこで再認識したのは、階層型の組織構造は、大規模な組織の複雑性をマネジメントし、安定化をもたらす優れた手法である一方で、強い標準化志向をもっており、変化を苦手としているということです。
Gaudiyは、Web3という変化の激しい事業ドメインに身を置く、シリーズBのスタートアップ。変化し続けられる仕組みは不可欠です。では、どうすればそのような仕組みを作れるのか?
この問いに答えるヒントになった書籍が、「レッドチーム・イノベーションーー戦略的異論で競争に勝つ」です。この書籍では、既存の経営戦略・事業戦略を徹底的に反証して、よりよい戦略に導く専門部隊:レッドチームを設置することを提唱しています。
人間には現状維持バイアスがあるため、1つの集団が精神論だけで変化し続けるのは現実的ではありません。レッドチームのように、まったく別の人格を持つチームを立てて、既存のチームとその戦略を疑うという構造は、変化し続ける仕組みとして有効そうだと感じました。
ただ、リソースの限られるスタートアップにおいて、レッドチームを常設するのは難しい。そこで、組織を安定化させる役割を担う「職能代表制」に対して、それを反証して硬直化を防ぐ役割を「代表選挙」にもたせることで、追加リソースを最小限に抑えながらも変化する仕組みを作れるのではないか?と考えました。
こうした観点から、もうひとつのコンセプトに「適応性」を設定しました。
"機能する"投票プロセスの設計を考える
次に、これらのコンセプトを実現するための、選挙の仕組みを考えていきました。
まず、よく「選挙=投票+多数決」と思われがちですが、これは誤解です。社会的選択理論などを通じて「投票」はあくまで選挙システムの一部であり、機能的な選挙にするためには、他にも大事な要素があるとわかりました。
その投票プロセスを検討する上で参考になったのが、Gaudiyの経済顧問である坂井教授が著した「多数決を疑うーー社会的選択理論とは何か」という書籍です。
この本では、多数決によって正しい結論にたどり着くためには、2つの条件が必要であることが、数学的に紐解かれています。
まず、1つ目の条件をクリアするためには、有権者に適切な情報を開示し、思い込みや偏見なく判断してもらう必要があります。
その観点では、各メンバーの持つ情報がバラバラなまま投票を行うのは極めて危険です。各候補者が代表としてどんな役割を果たせるのか、前提情報を共有する「公開討論会」のような場が必要そうであることがわかりました。
2つ目の条件は、簡単に言い換えると、周りの意見に流されて投票してしまうと、集団で意思決定する真価を発揮できないということです。
この点には非常に悩みました。国政のような大きな集団で行われる選挙ですら、メディアやSNSといった情報を通じて容易に世論が形成されます。
Gaudiyのように小さく、メンバー同士が密に連携するチームの中で、本当に周囲に影響されずに投票できるのか。ここは論点として残り、民意に任せるだけでは真に価値ある意思決定はできないのではないかという重要な示唆を得ることができました。
模擬選挙とAMAを通じて仮説検証を行う
机上の仮説は見えてきたものの、まだ確信は持てていなかったため、そのまま本番の選挙を実行するにはリスクを感じました。
そこで、1/25(水)〜27(金)の期間で「模擬選挙」を行い、実際にどのような投票行動が起きるのかを実験してみることにしました。
模擬投票では、選挙本番に極力バイアスをかけないよう「現職能代表が任期満了で再選できないと仮定した場合、代わりに職能代表になるべき方は誰ですか?」という問いにして、全社員に投票してもらいました。
その結果、同じチームであっても、全員が全員の仕事ぶりを普段から把握できているわけではなく、追加情報がなければ誰をCxOクラスに登用すべきか判断するのが難しいという声を得ました。
こうした声から、投票に必要な情報を提供する「公開討論会」のような場は、仮説の通り必要であることが検証できました。
さらに、3/9(木)にはAMAを開催し、よりインタラクティブにメンバーの意見を募りました。(※AMA:Ask Me Anythingの略で、Web3コミュニティなどで開催されるカジュアル公開質問会のこと。Gaudiyでも制度のQAとしてよく実施します。)
そこから見えてきたのは、選挙制度そのものよりも、選挙後の新体制に対する懸念です。
特に、職能代表は管掌領域に閉じず、横連携する必要があるため、強みのポートフォリオや相性も加味して布陣を決めるべきという指摘から、民意だけに任せず、経営目線を持つCEOが最終調整をすること(一部のトップダウン性)が必要であることが検証できました。
こうした仮説検証プロセスを踏むことで、理論から導いた「公開討論会」と「一部のトップダウン性」が必要であることが確信に変わり、選挙制度の指針を完成させることができました。
「代表選挙」の制度設計における6つのポイント
以上のような理論と実践を踏まえて、同じプロトコルチームの北川(@k2_rod)と議論を繰り返し、代表選挙の制度を設計しました。
大事なポイントとしては、以下の通りです。
トップダウンの意思決定を一部残すこと
トップの意思決定バイアスを最小化するため、民意を可視化すること
投票の前に、有権者に必要な情報を提供する場を用意すること
反証するディベートバトルを取り入れ、戦略の幅を広げること
CEO推薦、民意推薦、ダークホース枠の三つ巴の構図を作ること
判断に必要な情報を持ってない人(試用期間中など)のVoting Power(議決に有効な票数)をゼロとし、集計時も区別して可視化すること
1〜3については、すでにお伝えした通りですが、4〜6について補足します。
まず、4のディベートバトルに関しては、組織の硬直化を防ぐという代表選挙の役割を考えた際に、既存戦略に対して徹底的な反証を行うことが有効であることから、取り入れました。
その実践方法としては、前述のようにレッドチームを設置する方法もありますが、Gaudiyの場合、「蠱毒(こどく)」という意思決定の精度を高める議論プロトコルがその形に近かったため、選挙制度に活用することにしました。
5の「三つ巴の構図」に関しては、当初はCEO推薦vs民意推薦で考えていましたが、模擬選挙のあとで着想・導入したのが「ダークホース枠」です。
というのも、職能代表と同じ目線でディベートバトルをする選挙の場は、きっと現代表でないメンバーの視座を高めることに役立つはずだと考えました。民意推薦では、わりと "順当な"メンバーが擁立される可能性が高いため、決戦のリングに立つことで本人にも組織にも良い影響がある人をダークホース枠に抜擢し、戦ってもらうことにしました。
最後に、6のVoting Powerの設定も重要です。票にカウントしないなら投票しなくてもよいのではと思うかもしれませんが、誰に代表になってほしいかを投票すること自体が、組織について考える良いきっかけになるからです。
また試用期間中の方にも、代表選挙のような一風変わった制度に早期から参加してもらうことで、「Gaudiyのプロトコル文化を好きになれなかった」というミスマッチが後から発覚するのを防ぐ目的も果たせると考えました。
こうしたポイントを元に設計した、代表決定の手順が以下の図です。
より詳細なプロセスが気になる方は、公式noteの第4章をご覧いただければと思います。
選挙当日の流れと運営の裏側
こうして、2023年5月10日に、職能代表選挙の第一回を迎えました。
今回の選挙対象となったのは、所属メンバーの多いDev(エンジニア)、Udev(UI/UXデザイナー)、PO(PdM)の3チームです。
選挙当日に先立ち、CEO推薦、民意推薦、ダークホース枠の3名をそれぞれ選出しました。CEO推薦は、3チームともに続投の指名。民意推薦は、事前投票を行い、各職能チーム内で最も票を集めたメンバーが選ばれました。
その上でダークホース枠には、CEOとプロトコルチームで相談の上、職能代表と対等に戦え、かつ視座を高めてほしいメンバーを1名ずつ選出。
年齢は下は20代から上は40代まで、社歴も4年超えの古参メンバーから入社半年程の新メンバーまで、多様な顔ぶれの三つ巴が決まりました。
また有権者と観戦者に向けて、選挙情報をまとめたNotionも展開しました。
Gaudiy初の選挙だったため、「なぜ私たちは選挙をやるのか?」の再伝達から、代表確定までの流れ、民意投票の方法、出馬者の発表資料といった選挙情報をひとつにまとめ、「これを読めばわかる状態」をつくりました。
そして、出馬者によるプレゼン発表は、以下の流れで行っていきました。
1人10分間のプレゼンで、それぞれが分析した課題を指摘し、思い思いのビジョン・戦略を語ります。その後の反証タイム10分では、CEOや他の候補者から、シビアな質問・指摘を浴びせられる流れです。
プレゼンに加えて、論理の破綻なく反証を打ち返せるかを見ることで、本当に練られた戦略なのか?代表を担える候補者なのか?の判断材料にします。
また運営の工夫としては、全員のプレゼン発表後、15分の共通質問タイムを設けました。これは、CEOから共通の質問を投げかけ、フリップで同時に回答してもらうというものです。
一見大喜利のような、ユーモラスな雰囲気になりますが、この共通質問は、各候補者が代表を担えるかをフェアに判断するための仕掛けとして用意しました。というのも、先攻のプレゼンをふまえて発言を調整できる後攻は、構造上どうしても有利になりかねないため、発表順による結果への影響を抑えるための配慮でした。
当日の体験については、出馬者の生声含めてSELECKさんの記事にて詳しく取材いただいていますので、ぜひそちらもご覧ください。
Gaudiyプロトコル史上最大の実験から得た学び
結果として、3チームのうち、2チームの職能代表が交代するというGaudiyプロトコル史上最大の実験が、メンバーの協力のもと無事に終わりました。多くの反省と学びがあったので、まとめてみたいと思います。
学び1 : トップダウンと民意はどちらも必要
CEOの石川は事前に、シナジーを生みそうな3代表の布陣を、3職能×3人の候補者の中から複数パターン用意していました。いずれの組み合わせも、客観的に見て「たしかにこれなら機能しそうだ」と思えるものになっていました。
こうした職能代表陣のポートフォリオを担保することは、チーム別のボトムアップな投票では難しかったと思います。制度設計の要点のひとつでもありましたが、トップダウン性を残した効果を実感できました。
また一方で、重要な気づきもありました。それは、CEO石川が投票結果を見る前に「蠱毒(プレゼン発表)を見てベストだと感じた3人」は、必ずしも民意投票による順位とは一致しなかったということです。
選挙をする前は、なんやかんやで民意が選ぶ候補者とCEOの意見は一致するだろうと思っていましたが、実際にはそうならなかった。同じ組織でも、人や立場によってものの見方はまったく異なるという認知バイアスを改めて認識できました。
一般的なCxO登用制度では、このバイアスに気づくことすらできないはずであり、意識せずに意思決定してしまうことの恐ろしさにも気づくことができました。
学び2 : 公開討論会としての蠱毒の重要性
事前に懸念された、投票にあたっての情報不足ですが、事後アンケートでは有権者のほとんどが「最低限得られていた」と回答してくれました。
蠱毒を通じて、候補者の戦略的思考力やパッションを目の当たりにすることで、投票の判断材料にしてもらえたようです。
また、準備のない討論会ではなく、事前に練り上げられた提案をプレゼンして反証しあうことにより、それを見ていた他チームのメンバーも組織課題に気づき、視座を引き上げられるという嬉しい効果も見られました。
学び3 : エンタメ性のあるユーザ体験の大切さ
運営を務めたプロトコルチーム(@copyrashi、@atsuki_911)として、さらに想定外だった学びは、こうしたシビアなイベントだからこそ、エンタメ・お祭り的な熱狂感が極めて重要であるということです。
運営としてはシビアな場にすべく、あえて機械的な司会進行に徹したのですが、各候補者が本気で実現したいビジョンとそのための戦略を発表したことで、「感動した」とコメントするメンバーも少なくありませんでした。
特に若手層からは「次こそは民意推薦で出馬して絶対に勝つ」「自分も成長してあの舞台に立ってみたい」という声も多く、選挙が持つ「人の心に火をつける力」に、設計に携わった身ながら驚かされました。
選挙の総括と今後の課題
後日実施した全社アンケートでは、8割以上の方に「続けてほしい」と言っていただける結果に。
候補者へのヒアリングでも「視座が上がった」「戦略を言語化するいい機会になった」など好意的なコメントをもらっており、総じて選挙を開催してよかったと思っています。
一方で、課題も数えきれないほど見つかりました。とくに事後アンケート回答者の9%の方からは、今後の選挙について「やめてほしい」というシビアなフィードバックをいただき、運営として重く受け止めています。
その方々には、チームから懸念点についてヒアリングをさせていただきましたが、どれもGaudiyのためを思った至極まっとうな指摘でした。
次回に向けては、改めて選挙の思想とスタンスを共有し、必要な改善策を打つことがマストだと考え、すでに改善に動き始めています。
おわりに
以上が、約半年にわたる代表選挙の企画〜運営の全貌でした。
このnoteでは職能代表選挙についてフォーカスしましたが、CEO選挙も5月31日に実施し、現CEO石川の続投が決まっています。同じ「選挙」という名前ではありますが、実際にやってみると、CEO選挙は職能代表選挙とはかなり異なる体験であり、見えてきた課題も全くの別物でした。こちらについても学びが多いので、また別の機会にお伝えできればと思います。
選挙が終わった今が、まさにスタートです。現在Gaudiyでは、一部の職能代表の交代を経て、戦略や組織体制の変更を進めています。代表選挙が本当にGaudiyのアウトカムに貢献したのかは、今後次第。プロトコルチームは、組織全体をイネーブリングする制度の開発により、事業とプロダクトの成長を支援していきます。
また、Gaudiyはすべての人がビジョンを持ち、それをお互いに推し合うことで報われるコミュニティ「ファン国家」をビジョンに掲げています。そしてプロトコルづくりとは、Gaudiy自体を実験場とした、ファン国家のドッグフーディングです。Gaudiyのメンバーは実験者であると同時に被験者であることを楽しみながら、よりよいコミュニティを作っていきます。
このような無謀な探求に関心を持っていただけた方は、ぜひGaudiyのメンバーとお話してみてください!
最後まで読んでいただきありがとうございました!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?