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「人口減少社会の経営・人事③」人材の整理・解雇の実施

前回の「人口減少社会の経営・人事②」の記事の最後で、リソースの確保の必要性を書きました。そして、そのために必要なことは人の整理であるということです。

人の整理の目的は何なのか?

人材資源が、他の経営資源と異なる点があります。それは離れていく可能性が常にあるということです。
手に入れるためには、良い契約内容が必要です。会社が買い手になりますから、売り手である人材が、自分のスキルに見合った条件であれば交渉成立し、入社することになります。これは土地や生産材料(半導体やレアメタル)などと同じです。適正価格じゃないといけないわけです。

しかし、土地や生産材料は一度買ってしまえば、買い手が売りに出さない限り無くなりはしません。劣悪な環境で保管してダメになることはありますが、基本的に神経をとがらせる必要はありません。しかし労働者は異なります。労働者には、適正な給与、適切な昇給、適切な環境などを用意しないと他社に移ってしまうというリスクがあります。これはクライアントとの関係性に近いです。常に良いパートナーでなければ見放されます。

長くなりましたが、人の整理は
①良い条件を提示するための資金確保
②良い人材を留め続けるための環境づくり
にあります。

資金確保としての人員整理

日本型雇用環境の特徴である、新卒一括採用と会社主体の異動や職種変更は、会社にとって都合がいいと同時に、労働者にとっては賭けになります。その会社、その部署が、価値のある人材に成長できる環境でなければ労働者にとっては成長できない時間を費やすことになります。
結果として、いま大手企業が業績好調なのに40代以上の社員を人員整理しています。これは20年経って成長できなかった社員の放出です。農業などと一緒で、自分たちで育て、育ち切れなかった芽を摘み始めているわけです。
そうすれば、給与などの資金配分は残った優秀な人たちに多くわたります。そして、新しい芽を育てる余裕も生まれます。

人が残る環境づくりのための整理

こちらも大きな要因です。個人的には大手企業の人員整理はこちらの要素が大きいのではないかと思っています。
社会環境の変化などもあり、優秀な20代、30代の確保、早期抜擢による成長、会社・事業をリードしてもらう必要性が生じています。それに対して課題となる要因が以下の通りです。
①仕事ができない40代以上の社員
②産休、育休を連続で長期取得する社員
③育児を理由に度々休む、遅刻早退する社員
④メンタル不調予備軍、経験者で無理をさせれない社員
⑤発達障害などの精神障害を有しているのではと疑われる社員

ここからが難しいのですが、私は上記に挙げた内容に該当する方々の権利、人権、尊厳は保障されるべきと考えています。また子供たちを生み、育ててくれる方々へのリスペクト、感謝もあります。
反面、会社経営による経済観念だけをロジカルにみると、私の結論にもなるのです。経営の利潤の追求は、突き詰めれば個人の労働生産性をどこまで極大化できるかということでもあります。そのため、ハイパフォーマンスで可能な限りの長時間働いてもらうことが理想であり、究極的な正解なのです。

そのため、母数の多い、かつセンシティブになりにくい40代以上の社員を整理するところから始めていると考えます。

人を整理すれば解決するのか?

経営層と話をすると、「簡単に整理と言うな」、「整理すれば解決するのか?」と言われますが、個人的にはすると思いますし、実際にした例もあります。
以前の経験ですが、事業会社の人事として、40代のトラブル社員に辞めていただいたことがあります。この方は、営業職時代にいくつかの会社を出禁となり、また上司の胸ぐらをつかむ、ゴミ箱を蹴り飛ばす、事務の女性に怒鳴るなどの行為がありました。途中、このトラブル社員本人が鬱を発症し、給食、復帰後もいくつかの問題行為はあったものの、鬱の発症歴があることもあり、私が着任するまでどうしてよいかわからない状態になっていました。
私が来た頃には、何人かの事務の女性社員が辞める意向を示したり、休みがちになっていました。また上司も手を焼き、放置傾向にあり、問題が解決される目途がありませんでした。

私がここで行ったことは以下の通りです。
①人事担当役員の説得
②外部社労士との顧問契約締結
③本人への適切な注意指導
④時期を見ての、本人へ離職という選択肢の提示
⑤諭旨退職の実行

詳細はまた別途解説記事を出そうと思いますが、簡潔に言えば、辞めていただきました。もちろんそれなりの条件を提示し、何度も話し合いした結果です。辞めるよう圧力をかけたりはせず、そのために外部の顧問社労士にも中立な立場で同席をお願いし、法律上、人道上、会社が不適切な行為をしないように見ていただきました。

最終的に本人も言ってもらってよかったと言ってくれました。心からの本心かはわかりませんが、嫌われている・迷惑をかけていることはわかってても長い間働いてきた会社で、意地や色々な思いもあり、頭を下げれなかった。心機一転、違う環境で頑張りたいと言っていました。

また、事務の女性たちや上司たちも安心したのか、辞めると言っていた社員は辞意を撤回。パフォーマンスは向上しました。

実行できるかどうか

整理すればすべて丸く収まる、という内容になってしまいましたので、一つ不都合な現実も最後に書き残したいと思います。
上記の人員整理で傷を負ったのは経営層でした。
本当に辞めさせて良かったのか? 辞めた社員はその後大丈夫なのか、ちゃんと働けるのか、稼げるのか…? 
苦悩していました。そこまで考える必要があるのか、経営観はそれぞれだと思いますが、現実として日本人、日本社会の経営層にとって、やはり人員整理は悪であり、その「悪事」に手を染めたことを後悔もしていました。
事実、他にも整理したい社員はおり、経営層も今回のケースが上手くいけば他のトラブル社員も、と当初は意気込んでいましたが、一人目を最後にそれから2例目が実行されることはありませんでした。

最後に

日本の経営は、人情という要素が多分に含まれていると思っています。しかし、ドラスティックにかつロジカルに経営をしている外資系企業が、小売り、IT、メディア、メーカーと幅広い業種で日本に乗り込んできていることも事実です。
そして、こちらも今度記事にしたいと思いますが、経営層の人情が若者たちに注がれていないことも事実です。だから、優秀な若者ほど外資に流れていきます。どこまで日本型経営、人情経営が上手くいくのか、個人的にも興味深く見ている次第です。


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