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スカッシュ元プロ&日本チャンピオンが語る②/最近キテるMostafa Asal選手は何がそんなに特別なのか?分析してみた

スカッシュの普及に関しては、同世代でめっちゃ頑張ってるGreetingsはじめ、他の熱意ある団体や個人がやってくれているので、僕のnoteではファンや選手向けに結構マイナーだったり個人的な分析について書くことにしてます🙂

まずはAsal選手を知らない方のために

こんなバランスを持つ怪物は今まで存在しなかった

・22歳、2023年1月〜4月の世界ランク1位、エジプト出身。

・フィジカル
Asalのプレーを一度でも観たことのある方はすぐに気がついたと思いますが、彼はまずフィジカル能力が飛び抜けて凄い。
身長189cm、骨格もしっかりしているが無駄な筋肉がなく、足の速さはまるでチーターのようだし、柔軟性も抜群に良い。体力も尋常じゃないほどある。
イメージ的には現世界チャンピオンのAli Farag選手の柔軟性やフットワーク、体力に更にプラスして瞬発力と相手との接触の際の強度が倍増した感じ。
Tでのポジションキープの際は体重があるので一切押され負けないのはPSAでは実際かなり大事。
・メンタル
Asal選手はメンタルもマジで凄い。笑
タイブレーク、特にファイナルゲームで終盤競り合う時は大体勝ってしまう。
それまでのゲーム序盤〜中盤までのプレーとの質の差や表情でわかるが、こういう瞬間に対面している時の彼は多分かなり楽しんでる。
負けず嫌いだが、負けるのをあまり恐れていない雰囲気もあり、とにかく競り合いを楽しんでいるのがモロにわかるなんて、相手からしたら怖くて仕方ないだろうなw
ゲーム終盤に限らず、肝心な瞬間や大会で良いプレーができるかできないかはその人の性格と努力次第だし、スポーツは結局メンタルが強い選手が最終的には多く勝つ。
・テクニック(ラケットワーク)
テクニックも凄いが、これは正直他の選手と比べても特に突出してるレベルではない。ましてや元世界チャンピオンでピーク時は圧倒的に歴代一強かったRamy Ashour選手には一切及ばない。
世界のトップだったら、良くいる程度のレベルだと思う。

一般的な紹介はここまでにしといて・・・よーし本題に入りまっセーーーーー!
(やっぱ、スカッシュ好きなんだな〜w)

りょーせー的、Asalの強さの秘密

まず一つ目は、ボールの体重の乗せ方

これは相当なスカッシュオタクの方々や、海外に出ているプロレベルの選手ならわかると思うが、彼のボールには恐ろしいほどの体重がほぼ毎ショット乗っている。
彼のショット、特にクロスニックやストレートキルを良く見るとわかるが、ボールが全然弾まず、軌道も一切ズレない。
イメージ的には、毎ショット「ズドーン」て感じ。笑
僕は20年間もスカッシュをしたが、これの本当の大切さに気が付いたのはプロ時代最後の6ヶ月を迎えた時だった。気が付くのがちょっと、いやもはや手遅れだったくらい遅すぎだ。笑
これは、普通は運動神経が良い人(身体の使い方が元から上手な人)、例えば女子の渡邉聡美選手などは何も考えずにできる。女子世界チャンピオンのNour El Sherbini選手なんて、Asal選手と同じく体重の乗り方が尋常じゃない。

だが、こんなのこういう人達からしたら当たり前すぎるのか、他の周りの選手やコーチはあまりその重要さを理解していないのか、わからないけど、残念ながら僕は誰からもこれについて教わったことがなかった。
で、実際に気が付き毎ショット全体重をなるべく乗せることを意識してみると、なんとコントロールが一瞬で一段と良くなった。きっとほんの1週間でPSAランキングで例えると実力的に5〜10位ほど上がった。自分的にはそれまでにない大きな進歩だった。
これに気がついてすぐ引退を迎えちゃったのは正直すごく残念だったが、引退時にはあのコロンビアのMiguel Rodriguez選手との対戦でファイナルのタイブレークまでいけたし、実力は多分半年で60位から35~40位くらいにまで上がっていた。
ちょっと自分のことを話しちゃったけど、これは一般的な体重移動の話しではなく、「全体重を毎ショット乗せる」話しである。
Asalはこれを自然にできていることに加えて、スイングはまるで鞭を扱う様な打ち方だから遠心力が更に加わり、もうとにかくヤバい😅
(このようにスイングするとパワーは出るが、程よい手首のコックがないとコントロールが大きくブレることに注意。)

二つ目、肝は省エネスタイルの動き

さあ〜〜お待ちかねのぉ〜!本文の一番おいすぃ部分でございます。
これは最近彼のプレーを観ていて気がついたこと。
一言で言うと、「基本ボレーをしない」…えっ?w
最初気がついた時は自分でもびっくりしたんですよー。
彼は基本全然ボレーをせずに、Tポジションはサービスボックスの後ろのライン辺り。今度観る時意識してみてみて!(というか、興味ある人は今すぐにチェックするはず😉)
これは、ほとんどのコーチが教える「極力ボレーしろ!」と真逆の動き。
いや、ボレーしないとラリーの展開作れないじゃんっ!
て思うじゃん?w
これはですね、逆の発想(的なちょっとカッコつけた言い方を使わせてもらっちゃおう)をすれば納得いくかもなんですね。

基本的にボレーをわざとしないことによって得られるメリットは以下。
① Tまでポジションを毎回上げる必要がないから、そうすることより単純に毎回1〜2歩分のエネルギーをセーブできる。
② ↑に関係することだが、ボレー自体をしないことでそれをするための労力(打つボールに対する身体の上下、普段から返球されるボールの軌道を読む集中力など)をセーブできる。
→ ボールをT周りでボレーやライジングでカットすると、前との壁の距離がそうでない後ろから打つのと比べると近いため、それなりのコントロール能力が必要で、ここでブレるとボールが自分に戻ってきてストロークを取られるリスクがある。
ストロークにならなくても、トッププロのレベルではストレートが横の壁に当たったらすかさずキルショットやドロップを打つチャンスになってしまう。
③ プロのゲームでは基本バックコートでのラリーが多いため、ポジションが後ろであればあるほどストレートとクロスに対しては毎回ボールまでの距離が短い。
→ ポジションを良く保てるためボールをコントロールしやすい。

要するに、エネルギー消費を最小限に抑えながら毎球ボールコントロールに徹してる、と言える。

では、逆にボレーをしないデメリットはどうか。これは簡単だから端的に説明。
①  相手の前に出てプレッシャーをかけることができない。
→ 相手がTに戻れる時間を作ってしまう。
② ボレー系ショットでの展開作り、相手を早いタイミングで動かすことができない。
③ Tというコート4コーナーから一番近いポジションより後ろに立つため、前のショットを拾いに行く際に距離ができて不利になる。

僕的にはAsalはこれらメリットを最大限に活かしながら、デメリットを最小限に抑えられる唯一の選手だと思ってる。
これをする上で一番重要なのは「相手のショットを読む」能力になる。
彼はこの能力が突出しているからこそ、これらデメリットをカバーできている様に見える。
デメリット①〜③について、彼の対応を順に一応簡単に説明する。
①は、彼はその分後ろからクオリティーの高いショットを誰よりも頻繁に打つから結果プレッシャーがかかる。
②は、彼は普段ボレーはしない代わりに、相手がチャンスボールを出しそうな時、そしてもっと大事なことはボレーをすることでその後にチャンスボールを出させられそうな時には必ずボールのコースを読んでめちゃくちゃ前に詰める。
③は、これも読み。ショットが前に送られることの可能性は常に考えているため、自分のショットが甘い時や相手が後ろからドロップなどのショットを入れられる時は必ずポジションを前に少し詰める。

個人的な見解だが、Asalはいわゆる、「読みの天才」ってわけだ。
彼はバランスに加えて、この相手のショットを読む能力が段違いに優れてるからこそ、わざわざTに頑張って戻らなくて済んでる。
逆にこれが相手からしたら怖いのだ。なんでも読まれるほど怖いことはない。

読みについては、自分もスカッシュを始めた頃から身体が小さかったので色々と理解できることやAsalと同じようにやっていたことが沢山あるが、それでもTには大体毎回戻るようにしていた。笑
このスタイルでプレーしている選手は今のところAsalだけなので、例えば僕のように身体が小さい選手、足の速さに自信がない選手、など、彼のプレーをこの観点から観てみると何か参考になることがあるかもしれないですね🙂
僕的には、歴代一強かった選手は先ほど述べた通りRamyだと思うが、AsalはそのRamyに22歳にして既に彼に近い実力を持っていると思う。
Ramyを超えられる唯一の選手は現状Asalのみだと思っている。
彼から勉強できることはまだまだ沢山ありそう。

スカッシュファン、選手よ!今すぐAsalを観よっ☝️‼︎


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