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「習近平主席・2024年新年の挨拶」動画を観てみた

今年も去年・一昨年に続いて、習近平主席の新年挨拶を観てみました。原文はこちらあり、日本語訳も人民網にあります。

雄安新区に初めて言及

習氏が「雄安新区」に初めて言及しました。

「雄安新区は飛躍的な成長を遂げ(雄安新区拔节生长)」

初めてと言っても、私が習氏の新年挨拶を見始めたのが2022年からなので、それまでに語られたことがあるのかもしれません。

雄安新区は習氏肝いりの新区で、「深セン経済特区」や「上海浦東新区」に並ぶ新区にするという野望を持っています。

雄安新区における最重要プロジェクトはAIなどを含む情報産業ですが、その次に重要になるのがライフサイエンスやバイオテクノロジーで、脳科学や遺伝子工学が含まれます。

ちなみに雄安新区の成長に「拔节(bájié)」という言葉が使われていますが、これはトウモロコシなどの成長に用いられる言葉なので、雄安新区がトウモロコシのように急速に成長しているというニュアンスがあるのだと思います。

さすがに中国経済の不振にも触れる

「中国経済は風雨に耐えながら、頑強な体格を鍛え上げました(中国经济在风浪中强健了体魄、壮实了筋骨)」

元々、昨年の演説でも「中国共産党(≒中国)は数々の試練を乗り越えてきた」という話はありましたが、今年の演説では「今まさに試練に直面している」という意味合いが強いように感じます。経済の先行きに対する国民の不安や不満の高まりが凄く、触れざるを得ないということだと思います。

「試練」という意味では以下のような文言が目に止まりました。もちろん、リアルな災害の話や過去の試練の話も含まれています。

  • 長い試練を乗り越えて(经过久久为功的磨砺)

  • これから進む道においては、風雨が伴うのは当然のことです(前行路上,有风有雨是常态) 

  • そして、風雨を恐れずに助け合い、困難を前にして果敢に挑む皆さんの姿に、私は深い感動を与えられています(大家不惧风雨、守望相助,直面挑战、攻坚克难,我深受感动)

  • 私たちが困難と試練を乗り越える上での最大の拠り所は、いつだって人民なのです(人民永远是我们战胜一切困难挑战的最大依靠)

今年も台湾統一に触れるも、「台湾」という言葉は使わない

これは毎年の慣例で、一種のマナーみたいなものだと思いますが、「台湾」という言葉は決して使いません。

2022年は「祖国の完全なる統一の実現は、両岸同胞の共通の願いです(实现祖国完全统一是两岸同胞的共同心愿)」と表現してます。台湾ではなく「両岸(两岸)」という言い方をしています。

2023年に至っては「海峡両岸は親しい家族(海峡两岸一家亲)」という感じで、「統一」という言葉すら使わずに「親しい家族(一家亲)」というかなり遠回しな表現に留めています。

そして2024年は以下のような表現です。

「祖国の統一は歴史的に見れば必然的なことであり、海峡両岸の同胞たちは手を携えて心を一つにし、民族の復興という偉大な栄光を共に浴びるべきです(祖国统一是历史必然,两岸同胞要携手同心,共享民族复兴的伟大荣光)」

「祖国の統一は歴史的に見れば必然」と言ってるので、2023年よりもかなり踏み込んでいると思います。しかし、今年も「台湾」という言葉は使っていません。

逆に「台湾」という言葉を使い始めたら、リスクレベルが上がったと考えていいのかもしれません。

若者や働く人の苦労に寄り添うメッセージ

昨年2023年の習氏のメッセージは以下のように若者を諭すような、若者からするとかなり疎ましく感じるかもしれないメッセージでした。

「(国家に反逆的な行動をするのではなく)愛国心を持って努力し、(デモなどせずに)麗しい青春時代を過ごすべき」

「明日の中国は、青年に希望を託します。青年の成長によってこそ、国家は繁栄します。中国の発展は青年たちの努力にかかっています」

それが今年は一転して、若者や働く人に寄り添うメッセージに変化しています。

  • 経営上のプレッシャーを抱える企業もあります。就職や生活上の困難に悩む人々もいます(一些企业面临经营压力,一些群众就业、生活遇到困难)

  • 誰もが皆、とても忙しく、仕事と生活の大きなプレッシャーを抱えています(现在,社会节奏很快,大家都很忙碌,工作生活压力都很大现在,社会节奏很快,大家都很忙碌,工作生活压力都很大) ※人民網の翻訳では「社会のスピードが速い(社会节奏很快)」という部分はなぜか割愛されています

  • 懸命に耕作する農民たち、仕事に励む会社員たち、事業の立ち上げに苦心する起業家たち、この国を守る兵士たち、あらゆる業界で、誰もが汗水を流して、1人の平凡な人間として非凡なる貢献をしています。

中国の若者の間では、寝そべって何もしないことを意味する躺平(tǎng píng タンピン)という言葉や、最近では自暴自棄になって何もしないことを意味する『摆烂(Bǎi làn バイラン)』という表現が流行っています。

実際に若者の失業率が高すぎて、中国政府は統計の発表をやめてしまったほどです。

このような背景から、若者(や企業人)に寄り添うメッセージが増えたのかもしれません。

【龍成メモ(今年の演説は華がない?)】

昨年までは、宗の詩人、蘇軾(Sū Shì)の思治論(嘉祐八年作・1063年)から「最も困難な領域に取り組むことによて、最も野心的な目標を追求する(犯其至難爾図其至遠)」という言葉を引用したり、「何事も根気よく努力を続ければ、最後には成功すること」の例えとして、列子・湯問篇の「愚公山を移す」や漢書・枚乗伝由来の「雨垂れ石を穿つ」を引用していました。

一昨年も以下のような話をしたり

「自分自身を革命する勇気がなければ、歴史の主導権を握ることはできないのです(我们只有勇于自我革命才能赢得历史主动)」

このような格言になりうる話もありました。

「私たちは常に遠い将来を見通した深い考えを持って、安きに居りて危うきを思い、戦略的定力と根気を保ちながら、高い見地から遠く広く見極めながら、細部まで気を配るよう工夫しなければなりません(我们要常怀远虑、居安思危,保持战略定力和耐心,“致广大而尽精微”)」

今年の演説も中国語を一文ずつ読み解けば、もっと味わい深い表現や話があるのだとは思います。

しかし、みなが苦労していていて、なおかつ政府への不満が高まっている中で壮大な話や美しい表現を駆使すると、白けたり民衆の反発を招くという懸念から地味な演説にしたのかなと思いました。

#習近平 #中国共産党 #新年の挨拶

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