社会的地位の思いがけない喪失が脳に与える影響
How loss of social status affects the brain というnatureの論文ニュースから。
社会的地位の高いマウスが、突然その地位を失うとどうなるのか?
人為的に、上位マウスが突然敗北する状況を作る
本研究を行ったチームは、チューブにいる2匹のマウスのどちが退くかがマウスの社会的地位を表すことを、2011年の研究で明らかにしました。
今回の研究では、上図のように上の地位にいるマウス(赤)と下位の地位にいるマウス(青)をチューブに入れ、下位マウスの後ろに蓋をしてしまい逃げれないようにします。
すると、下位マウスは前に出るしかないため、上位マウスは押し出されてしまい、ある意味予期せぬ敗北を喫することになります。
予期せぬ敗北に遭遇した上位マウスは快楽追求行動が減少する
予期せぬ敗北を繰り返した上位マウスは、ストレス反応が高まり、快楽追求行動が減少します。
負けを繰り返すことで快楽への欲求も低下する、かつての上位マウス
かつて社会的地位が高かったマウスは負けを繰り返した結果、資源をめぐる競争で従順に振る舞うようになり、社会的地位が低下したことが示唆されます。
ストレスの多い環境に置かれると振る舞いが受け身になり、甘味のある水をほとんど好まなくなり、快楽を処理する能力が損なわれたことがわかります。
「上位マウス」の脳に起こる変化
LH(視床下部外側野)の活性化により、アンチリワードセンターであるLHb(外側手綱核)が活発化する
下位のマウス負け続けるとLH(視床下部外側野)の活動が高まりLHb(外側手綱核)に信号が送られます。
アンチリワードセンターである負の報酬予測誤差を反映するLHb(外側手綱核)のニューロンの活動が活発になり、LHbニューロンは報酬に関与するVTA(腹側被蓋野)と呼ばれる部位のドーパミン放出ニューロンを抑制します。
欲求低下の原因はLHb(外側手綱核)から始まる経路が関与か
甘味のある水をほとんど好まなくなるという行動変化には、このLH(視床下部外側野)を起点としLHb(外側手綱核)を経由するドーパミンニューロンの抑制するルートが寄与していると考えられます。
LHbはmPFC(内側前頭前皮質)の活動も抑制する
LHb(外側手綱核)は恐らくVTA(腹側被蓋野)を経由して、mPFC(内側前頭前皮質)ニューロンの活動も抑制していることがわかりました。
そしてシグナルがループしてしまうため、やる気がどんどん失われていく
mPFC(内側前頭前皮質)からはLHに投射(信号伝達)があり、LHからはLHbに…といったループ構造になっているため、マウスのやる気喪失が悪化してしまいます。
学習性無力感
「セリグマンの犬」とうつ病
セリグマンとマイヤーが行った犬の実験(1967年)では、何をしても電気ショックを回避できないことを学んでしまった犬は、電気ショックが回避できる状況に置かれても受動的になり何もしなくなってしまいました。
これを学習性無力感(Learned helplessness)と呼び、うつとの関連性が指摘されています。
地位を突然失ったマウスに起こった学習性無力感
地位を突然失った上位マウスは、他マウスの競争において従順な態度を取るようになり、学習性無力感に似た行動を取るようになります。
mPFC(内側前頭前皮質)の活性化で復活する社会的地位と嗜好性
mPFCを活性化することで失われた社会的地位と甘いモノへの興味が復活しました。
【龍成メモ】
今回の論文でも触れられていますが、mPFC(内側前頭前皮質)を活性化するために、何かアクティビティを行う際に「その活動に対する快活さ」を事前に評価しておきます。
そして実際にアクティビティを体験した後に、その活動の快活さを再評価します(恐らく、事前には予想をしてなかったが快活だったことを積極的に書き留める)。
このようなアクティビティを繰り返し、予期せぬ快楽を発見したり、予期せぬ快楽を得られる方向に行動をシフトしていくことで、「社会的地位の思いがけない喪失」による負の影響を緩和できるかもしれません。
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