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【WSJ要約】子供の脳の発達が早すぎることで、失われるもの。

Adverse early experiences can make young minds inflexible, while a carefree childhood has clear cognitive benefits

今日、せっかちなアメリカ人に限らず、脳と認知の発達が早い方が良いと思い込んでいます。世界中、「高額投資」をする中産階級の親たちが、神経質なまでに一つ一つのマイルストーンに必死になり、親であることの意義は「子供の発達をできるだけ早めることである」と結論づけられるようになっています。保護者も政策立案者も、就学前のプリスクールをより学校に近いものにするよう、より強く要求するになっています。

しかし、新しい研究結果が相次いで発表されることで、このような考え方はあまりにも短絡的であることが明らかになってきています。ゆっくり、長く、のびのびとした子供時代を送ることが、大人になるための準備として実は一番良い方法なのかもしれません。もちろん、大人になってからの能力開発も重要ですが、長い子供時代そのものが、大人になってからの人生を豊かにするための一つの鍵なのです。

幼少期に身体的・精神的なネグレクトや虐待、貧困、離婚、家庭内での暴力、依存症、精神疾患などを経験することをACE(Adverse Childhood Experiences:有害な幼児体験)と呼びます。このACEを多く持つ子どもは、大人になってから不安、うつ、依存症に苦しむ可能性が高く、がんや心臓病のリスクも高くなります。

そして意外なことに、ACEは身体的発達のペースを加速させるようです。多くの研究が、ストレスの多い生活を送った子どもは思春期を早く迎えることを示唆しています。ACEを多く受けて育った子どもは大人の歯が生える時期さえ早いことが明らかになりました。

Nature Neuroscience Reviewsに掲載された論文においても、「貧困やストレス、不利な体験」が、発達において最も重要な器官である子どもの脳を早く成長させるようだと結論付けています。

脳は生まれた当初、より「可塑的(=変化しやすい)」であり、経験に対してよりオープンで、より学習能力が高い。年をとるにつれて、脳はより効率的になるが、柔軟性に欠けるようになります。年をとった脳は何かを利用する(exploiting )することは得意だが、探索する(exploring)ことは苦手になります。効果的に行動することは得意だが、新しいことをするのは苦手、といった具合です。

豊かで変化に富んだ環境で、さまざまな物や他の動物とたくさん遊んで育った動物の子供はは、より遅く長い脳の発達パターンを示し、より長い期間、脳の可塑性(=柔軟性)を維持するようです。頻繁に繰り返される悪い経験は(脳の成長の)加速効果をもたらし、より変化に富んだ珍しい良い経験が、脳を学習に対して(長い期間)オープンにしておく可能性があることを示唆しています。

質の高い幼稚園に通っている子どもは、そうでない子どもに比べて学校の標準テストの成績があまり良くないことがよくあります。このため、政策立案者は、プリスクールの良い効果は子どもが成長するにつれて薄れていくと考えられていました。しかし、実際には、もっと後に現れる実質的な「スリーパー」効果があり、プリスクールは最終的に成人の所得と健康を向上させ、子どもたちが大人になっても成長できるようにすることが示唆されています。就学前教育は、学力だけでなく、不測の事態に対処する柔軟性を子どもたちに維持させることで、効果を発揮するのかもしれません。

チンパンジーやカラスなど、最も賢い哺乳類や鳥類は、特に幼年期が長く、大人は子供の世話に多くの労力を費やしています。私たち人間は特に頭脳明晰で、幼少期が特に長く、育児への投資も大きいです。
※幼少期、発達期間が長いため、それだけ多くのことを吸収することが可能ということ

これらのことは「アメリカの問題」を心配する中流階級の親たちにとって、心強いことかもしれません。幼い子供の世話で最も重要なことは、ある意味で最も単純なことです。子どもを愛し、学び、探求する場を与えること、それが特定のカリキュラムを作ることよりも大切なことなのです。少なくとも、大人になってからの環境が豊かで変化に富んでいると考えるなら、子供時代は長く、ゆっくり過ごした方がいいかもしれません。

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