[レビュー]天祢涼『探偵ファミリーズ』

 初めましてR.S.と申します。みなさんは本を読むのは、好きですか?

 私は読書家というほど本を読んでいる自信は無いのですが、わりと小説は好きなほうだと思います。とはいえ書店員という仕事上、本好きを名乗るのが恐れ多いほど、周囲には読書家や本好きがいます。その人たちに比べると未熟者かもしれませんが、それでも面白い本があればその気持ちを伝えたい。拙い文章ではありますが、紹介する本は素敵なものばかりなので、興味を持ったら、ぜひ、読んでみて欲しいです。

 そして最初に紹介するのが、天祢涼『探偵ファミリーズ』。

 多種多様な変人たちが大騒ぎする本作は、基本的には〈ギャグ×日常の謎〉というふたつを掛け合わせた内容で、物語は軽快に進んでいきます。とても読み心地の良い作品なのですが、レンタル家族をテーマにしていて〈家族〉が持つ深刻な問題にもしっかりと踏み込んでいます。それ以外にも物語の所々で様々な問題に対する問題提起、社会に対するメッセージがシリアスに流れ過ぎることなく描かれています。

 印象的な場面として挙げたいのが第二話の後半部分です。明らかになった、ある真実に対して、《普通》とは何か、という問いかけが投げかけられています。葬儀屋の不可解な行動の本心を探る『罪びとの手』や貧困の問題を扱った『希望が死んだ夜に』などのシリアスな物語を扱っても根っこの部分が変わらないというのは、やはり魅力的で、シリアス路線の天祢作品が好きな人にもおすすめです。

 連作ミステリである本書では、エピソードが進むごとに小さかった物語世界が大きく広がっていきます。そして〈擬似〉家族として演じていく内に、主人公であるリオの血の繋がった家族との問題やリオや大家さんの隠されていた事実が明らかになっていき、その中で提示される謎と解決がこの〈擬似〉家族を〈本物〉の家族と変わらないかのような絆を持った存在であることを示すような物語になっています。

(読書の楽しみを奪いたくないので、詳しく書けないのがもどかしいのですが)特に第一話と後半のある話の謎を解く過程で〈信頼〉という言葉が重要なものになっていて、第一話をなぞるかのように第一話の時とは別の人物が〈信頼〉を口にする場面があります。その場面が絆の強さを示していて、心地よくも、ほんのり切ない。しかしわだかまりがあっても、血の繋がった家族の形を否定しないのも好ましく感じられました。

 メッセージ性の部分に言葉を多く費やしましたが、テンポの良いやりとりの軽快な作品なので、(普段ミステリに馴染みがない人も含めて)幅広い人が楽しめる内容だと思います。ぜひご一読を!

 そして本作を楽しんだ人に併せて読んでもらいたいのが、『リーマン、教祖に挑む』です。社会への問題提起とエンターテイメント性の按配がとても良い作品で、全作品を読んでいるわけではないですが、現時点で一番好きな天祢作品です。