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西澤作品をできるだけ読んでみる④   『笑う怪獣』

 青年実業家の京介、市役所勤めの正太郎、そしてサラリーマンの〈おれ〉ことアタルの三人は学生時代からの悪友同士で、ナンパに明け暮れる日々を送っている。ただナンパの成功率は悪いのに、奇怪な出来事との遭遇運が異常に高く、〈怪獣〉やら〈宇宙人〉やら〈幽霊〉やら……〈異形〉と出会ってばかりいる。何故、〈怪獣〉が登場するのか、そんなことを気にしてはいけない。〈異形〉との遭遇とミステリが絡み合うコメディミステリ。

 今回紹介するのは、

 ミステリという形を破壊するための〈怪獣〉
――『笑う怪獣』(実業之日本社文庫 2014年)

 2003年新潮社、2007年新潮文庫『笑う怪獣 ミステリ劇場』を改題

 ※ネタバレはしないつもりですが、未読の方はご注意を。

 いつもお世話になっております。書店員のR.S.です。

 本作は今まで紹介してきた作品の中で一番ギャグ要素の多い西澤作品です。ギャグからシリアスへと流れるようなタイプのコメディ作品ではなく、最終話ですこしだけその雰囲気は変わりますが、最後までコメディであり続ける作品です。しっとりとした余韻は残しつつも、とても楽しいミステリです。

 本作品の〈異形〉について、例えば〈怪獣〉に対しては、

《誤解しないでいただきたいのだが、そんな謎の巨大生物が、いつ生まれ、どこに棲息していたのかとか、六十億の人類の中で、どうして特におれたち三人と遭遇することになったのか、なんて詳細は、この物語中では、いっさい明かされない。だって誰も知らないんだもん。(後略)》といった感じで記され、〈何故、存在するのか?〉という議論は野暮、という形で進んでいきます。

 そんな〈異形〉のオンパレードというべきミステリですが、『七回死んだ男』や『瞬間移動死体』のように、この特殊な設定や状況でしか絶対に解けない謎である、強い意志が感じられる作品という雰囲気はありません。もちろん「怪獣は密室に踊る」など、この特殊な状況を活かしたミステリになっている作品もありますが、必ずしも〈異形〉を必要としていない作品や「そんなのあり……」と唖然とするような結末の作品もあります。

 ただじゃあ〈怪獣〉たちが要らないのかという、そんなことはなく、ミステリとしての綺麗な着地を否定するために〈怪獣〉たちが存在しているように思う作品もありました(〈これはギャグ版『そして誰もいなくなった』なのか?〉という雰囲気で進んでいく「怪獣は孤島に笑う」に対して、特にそんな印象を抱きました)。

 東野圭吾が『名探偵の掟』でミステリの違和感を描いたような毒が、『名探偵の掟』ほどではないですが微量に含まれているような気がするのです。

 とはいえそんな風に思うかどうかは、読者(あなた)次第、どんな印象を抱くか、

 ぜひ、ご一読を!