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西澤作品をできるだけ読んでみる 11 『殺意の集う夜』

 事故みたいな成り行きで六人の命を奪ってしまった〈あたし〉は、その六体の死体が転がっている別荘で、さらに友人の園子が殺されているのを発見する。六人を殺したのは〈あたし〉だが、園子だけは違う。陸の孤島と化した状況の別荘で、最後の生き残りとなった〈あたし〉以外にその事実を知る者はいないのだから、と〈あたし〉は園子を殺したのであろう六人の内の一人に残りの殺人の罪も被せようと計画する。園子殺害の犯人は簡単に推理できるかと思われたが……。一方、刑事の三諸克也は、かつて事件の容疑者絞り出しの際に出会った美貌のホステスが住むマンションに酔った勢いで侵入した際、ホステスが襲われているのを見ても助けず、見殺しにしてしまう。後ろ暗さを抱えながら、三諸はその事件を追っていく。

 今回紹介するのは、

『殺意の集う夜』(講談社文庫 1999年)
 ――強烈な一撃を秘めた、愛すべき問題作

 親本は1996年に講談社ノベルスから刊行されました。

 ※読む楽しみを奪われたくない未読の方は、ご注意を!

 多くの人から愛される名作とは言えないけれど、読み終わった後もずっと頭にこびりついて離れない作品というものがあります。好悪がはっきり分かれるだろう本作は、私にとってそんな作品でした。狂気に彩られた世界、共感を拒む振る舞いを重ねる登場人物たち……外界から閉ざされた環境で密集していく殺意。その中で放たれた強烈な一撃。愛すべき問題作として、読後も強い印象が残る作品です。二人の〈探偵〉が辿り着いたその先の光景は、「さすがにそこまでしなくても……」という強引さ(この強引さが時に西澤作品の魅力になることは知りながらも)を感じつつも嫌いにはなれない。解説でも《評価が賛否両論に分かれてしまう傾向がある》と書かれていますが、そうだろうな、とは思いつつも賛の側に立ちたくなりました。

 ちなみに本作では物語の主要人物として、襲われる被害者の女性の見殺しにする警察官が登場します。ここまで西澤作品を読んできて(noteで紹介したのは、これで12作品目)意外に思ったことなのですが、西澤作品では警察官が主要人物になることは(現時点で私が知る限り)あまり多くなく、まったく登場しない作品などもすくなくはありません。その多くが〈日常の謎〉ではなく殺人事件を扱っていて、これだけ警察が参加しないのはめずらしいのではないか、とも思いましたが、設定や作風を考えればそこまで警察という役割が重要ではないのかもしれません。しかし本作では物語の狂気性を際立たせるもう一人の主役として、一筋縄ではいかない個性が強い印象を残します。

 文庫版あとがきで作者本人が、《この作品が一番「西澤保彦らしい」のかもしれない》(1999年当時)と書いていますが、西澤保彦という作家の作品を一冊も読んだことの無い人に最初に薦める本として本作は不向きだとは思いますが、何冊か読んでいて西澤作品に対して好きという印象が根付いている人にはぜひ読んで欲しい作品です。初期の作品で、徐々に作者の〈らしさ〉が形作られていくその過程を見る楽しさも(現在においては)あるような気がします。

 ぜひ、ご一読を!