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西澤作品をできるだけ読んでみる13  『腕貫探偵』

《(前略)ひょろりと鉛筆みたいに細身の男が、折り畳み式らしき簡易机の前に座っている。ひと昔前の肺病やみの文学青年みたいに尖った風貌に、丸いフレームの銀縁メガネ。若いのか年寄りなのかよく判らない。無造作に切り揃えたとおぼしき髪には白いものもちらほら混じっているようだが、基本的には年齢不詳だ。笑うと相手に付け込まれると用心でもしているみたいにむっつりとした表情や黒っぽいネクタイが如何にもお役所的に堅い感じだが、机の上に置かれた両腕の肘まで黒い腕貫を嵌めているところなどいささかそのまんま過ぎというか、戯画的なイメージすらある》

 ちなみに初めて読んだのは単行本だったと思うのですが、単行本、ノベルスと比べて文庫版表紙の〈腕貫探偵〉には愛嬌があります。単行本の表紙絵も好きではあるのですが、その後、謎めいていた探偵自身のことも言及していくシリーズの展開の仕方を考えると、こちらの表紙のほうが合っているのかもしれません(追記2019年8/10、本当に偶然ではあるのですが、シリーズ二作目の解説の最初の部分と似通っていることに気付きました。故意ではないことを、追記の形で伝えさせて頂きます)。

 今回紹介するのは、

『腕貫探偵』(実業之日本社文庫 2011)
 ――西澤保彦の要素が凝縮された、人気シリーズ第一弾!

 単行本版は2005年、ノベルス版は2007年に刊行されました。

 ※ネタバレはしないつもりですが、未読の方はご注意を。

 シリーズ一作目では〈腕貫〉さんと依頼者の出会い方が特徴的で、最初の一篇目「腕貫探偵登場」と二篇目「恋よりほかに死するものなし」は最初の一行目がまったく同じで、ほぼ同じような形で、登場人物と〈腕貫〉さん、が出会うので、ずっとこれが続くと淡泊な印象を受けるだろうな、と思ってしまうのですが、この決まったフォーマットだと想像してしまったものがゆるやかに変形していくところに、まず面白さを感じました。そして最後の短編「明日を覗く窓」が最初のフォーマットの似通った二篇とリンクしているのが印象的です。

 安楽椅子探偵、曖昧な記憶、愛憎……連作シリーズのそれぞれの短編に、西澤保彦の要素がしっかり詰め込まれていて、全体を通してみると、西澤保彦の要素、魅力が凝縮されていることが分かります。「化かし合い、愛し合い」の愛憎相半ばする関係性や「喪失の扉」の苦い真相が腑に落ちる性格設定、「すべてひとりで死ぬ女」の事件とは無関係にしか思えない謎が魅せる意外な解決など、そんな〈らしい〉魅力、要素が詰まった作品なので、西澤保彦作品をどれから読もうか迷っている人にもおすすめしやすい作品です。

 ぜひ、ご一読を!