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西澤作品をできるだけ読んでみる14  『腕貫探偵、残業中』

 今回紹介するのは、

『腕貫探偵、残業中』(実業之日本社文庫 2012)
 ――謎めいた神出鬼没の安楽椅子探偵が、事件の当事者に!?

 親本は2008年に実業之日本社から刊行されました。

 ※ネタバレはしないつもりですが、未読の方はご注意を!

 本書は〈腕貫探偵〉シリーズの第二短篇集です。

 ちなみに一作目は、こちら。

 シリーズ前作ではあくまでも部外者として事件に関わっていた〈腕貫〉さんが、一作目の「体験の後」から事件の当事者となって本書は幕を開けます。本書では探偵役を務めながらも、どちらかと言えば地味で影の薄い印象のあった、〈腕貫〉さんの印象や魅力を強めるように、探偵のパーソナルな部分にも触れています。〈腕貫探偵〉シリーズの人気を決定付けたのは前作ではなく本書だと思うのですが、それはミステリとしても本書のほうが前作よりも優れている、と個人的には思うだけではなく、前作から登場している氷見刑事や本書から登場(前作で登場しているのを見逃していたら、すみません……。)し、謎多き探偵に興味を持つ女子大生の住吉ユリエさんなど、探偵の周囲がしっかりと固まることによって探偵の存在自体も際立ち、魅力的に思えるようになってきます。

 カフェレストランを襲う強盗たち。そんな強盗事件が意外な方向へと向かっていく「体験の後」、撮った覚えのない恋心を抱いていた女性との写真。喪われた大切な想い出が苦い真実を浮かび上がらせる「夢の通い路」など印象に残る作品が多いです。西澤作品を読んでいる時、それが好きな作品であっても「強引だな」と思うことは決してすくなくありません。あまり良い印象を抱けなかった時は、「強引だな」で終わってしまうのですが、好きな作品だと「強引だけど、腑に落ちる」「強引だけど、この真相は嫌いになれない」と「強引だな」の後に続くものがあるような気がします。前作よりも、本書に収録されている作品のほうが、納得感が強いものが多いように思いました。

 幕の閉じ方が印象に残ったのは、「青い空が落ちる」で詳しくは書きませんが、登場人物の想いの描き方が特に〈らしい〉作品だなと思いました。ちなみに年の離れた異性への思慕というのは西澤作品の他の作品でも出てきていて、そういう意味でも〈らしい〉作品に思いました。

 探偵とユリエさんとの関係も注目の、シリーズ第二弾、

 ぜひ、ご一読を!