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異色の都市伝説ミステリ!      彩坂美月『みどり町の怪人』

《「『ボクが予備校で聞いた話をします。昔、みどり町で若い女の人とその子供が怪人に惨殺されるという事件があったそうです。発見された遺体は異常な状態で、まるで人間の仕業じゃないみたいな殺され方だったらしいです。怪人は暗闇に紛れてどこにでも現れ、どこにでも消えることができるから、警察にも絶対捕まえられないと聞きました。予備校で遅くなった帰り道や、夜寝るときに、人間の仕業じゃないみたいな殺され方ってどんなふうだったんだろうとか、色々想像しちゃって怖くなります。怪人て何者なんでしょう? 一体どこから来て、どこへ行くんでしょう……?』」》

 今回紹介するのは、異色の都市伝説ミステリ、

 彩坂美月『みどり町の怪人』です。

 いつもお世話になっております。書店員のR.S.です。

 私はホラー小説が好きですし、どうしても都市伝説と聞くと怖い物語を期待してしまいます。でも恐怖だけが都市伝説の魅力とは限らないでしょうし、こんな不思議と心が温かくなるような都市伝説ミステリを読めて、とても嬉しく思いました。作中でも、怪談や怖い話イコール都市伝説では無い、と登場人物の一人が言及しています。

 都市伝説をテーマにした、ホラーやサイコサスペンスの雰囲気を醸し出す物語が、ミステリとして意外な展開を見せる。それは、それまでの雰囲気からは考えられないほど、物語が優しげな顔を覗かせる展開です。しかし連作形式のそれぞれの物語が綺麗な大団円として終わることはすくなく、そのほとんどの話がかすかな違和感や仄暗さを残して幕が閉じるのが印象的でした。

 そして各話の登場人物がそれぞれの物語でちいさくリンクし、幕間に挟まれるラジオ番組とも共鳴していきます。そして最後のエピソードで明かされる発端となった事件の真相はあまりにも切ない。この事件の真相は〈優しい〉で片付けてはいけないものです。ただ物語を通して感じられる善悪だけでは判断できない人間関係の魅力はやはり消えません。

 幽霊の正体見たり枯れ尾花、という言葉がありますが、もしかしたら、みどり町の怪人は閉塞感を感じている人々が創り出した幻影なのかもしれないし、人の心に根ざした昏い感情こそが多くの都市伝説の正体なのかもしれません。そんなメッセージが伝わってくる本書が、私は大好きです。かすかにホラー性を残したラストも魅力的です。

 ぜひ、ご一読を!