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定点観測「雪の茅舎・山廃本醸造」3日目

雪の茅舎、定点観測3日目です。こんなに安心して毎日続けようかなと思えるのは、酒の力あってこそ。

斎彌酒造さん、さすがです。(公式ページのリンクです。)

せっかくなので、この定点観測を通じて日本酒の知識についても載せていこうと思います。

今日はこのお酒のラベルにもある、「山廃」という日本酒の製法について。
簡単に言うと、日本酒はイレギュラーなものを除けば大きく二段階の手順を踏んで製造されています。

①酒母造り
②もろみ造り

①酒母造りというのはその名の通りお酒の母的なものを造る工程です。この段階で発酵を司る菌、酵母をできるだけ理想的な形で培養して②もろみ造りへ向かいます。

「山廃」というのは①の酒母造りに関連する言葉です。

現代日本酒の酒母造りには超大まかに言って二種類あります。
一つに、工業的に生成された乳酸を使う方法。
二つに、乳酸を自然に存在する菌の淘汰プロセスによって生成する方法。

ちょっとだけ分かりづらいので目を凝らしてください。

酒母はお酒の発酵を司る酵母を理想的な形で培養するためのものだと述べました。で、理想的に培養するためには、酵母以外の菌が繁殖するのをブロックする必要があります。そのブロックのために必要なのが乳酸です。

で、現代ではその乳酸を用意する手法として上記の二つがあるということです。

一つにすでに生成されたものを添加する方法。
二つにそれを菌の力でひねり出す方法。

山廃は後者です。菌の力でお酒のもととなる「酒母」を守る乳酸をひねり出す製法ということです。


ここまで読んでから、以下のコレを読むとちょっと理解が深まるかも。
東京大塚の「地酒屋こだま」さんの店主さんの解説です。以下引用。長いとか言わない。一見長く見えますが非常によくまとまっている解説です。面白いやつですぞ。

刮目せよ。

【生酛・山廃酛・速醸酛】
酒造りは「酛(もと/同義語:酒母)」という小さな仕込みからスタートします。
この酛造りの目的は「発酵に必要な『酵母』を健全かつ大量に培養すること」であり、それを達成するための大切な要素が「他雑菌を殺菌し酵母を守る『乳酸』を発生させること」であり、要するにこの「生酛・山廃酛・速醸酛」というのはその「乳酸を発生させるための手法」を表わしていて、その手法の違いでその呼び名が変わってきます。
それぞれの派生等もありますが、まずはこの3つを基本として覚えておくと理解しやすくなります。

酒造りの基本は生酛。
きもと、と読みます。蒸した米を冷やした後に小さな桶に入れて棒や足(蔵によります)でひたすらすり潰していきます。
山卸し(やまおろし)とか酛すりなんて呼ばれる作業です。
手間も時間もかかるし力も要るしで結構な重労働です。
この作業をすることで蔵に存在する自然乳酸菌を効率よく取り込み、乳酸を発生させます。

そしてその生酛の作業を一部簡略化したのが山廃酛。
やまはいもと、と読みます。
蔵に存在する自然乳酸菌を取り込むという点では生酛と同じですが、先程の山卸し(または酛すり)と呼ばれる重労働を省略し、タンクの中で米と水を混ぜて撹拌することで蔵に存在する自然乳酸菌を取り込み乳酸を発生させます。
生酛で必須な「山卸し」を「廃止」したので「山廃酛」と呼ばれるようになりました。

そして最後に速醸酛、そくじょうもと、と読みます。
専用に作られた醸造用乳酸を添加します。これは「酒造りのスタートには乳酸が必要だ」と気付いた先人が「じゃあ乳酸を培養してそれを入れちゃえば簡単じゃん」ということで開発した魔法のような手法なのです。
特に昔は生酛も山廃酛も安定性がなく、ともすれば失敗し腐造に繋がりかねないという状況の中で、乳酸のアンプルをポンと投入するだけで「速い・確実・安心」に酛が出来るという革新的なこの手法は瞬く間に全国に広まり、現在では(僕の実感では)9割以上が速醸酛での酒造りとなっています。
ですので、特に「○○酛」と記載のないお酒のほとんどはこの速醸酛と思っていいと思います。

<補足でちょっとマニアックな話>一応「山廃酛は生酛を簡略化したもの」ということに間違いはありませんが、最近は山廃酛の定義がいまひとつ曖昧になっています。
というのは、
★醸造用乳酸(後に述べる速醸酛で使う手法)を使わない
★山卸し(酛すり)をしないこの2点を押さえていれば、どんなものでも山廃と呼んでしまう風潮があります。もちろん理屈は間違ってはいないのですが、ちょっと違和感を感じるものもある現状です。また、生酛と山廃酛は「酸が強め」で同じようなお酒になると思われる傾向があります。もちろん「自然乳酸の力強い酸」がウリゆえ、共通性があることは間違いないのですが、その本質を突き詰めると生酛と山廃酛では手法が違い、出来る酒にも明確な違いがあると思います。それはちょっと高度な話になるのでここでは大雑把に申し上げると、生酛は「透明感やクリアさ」、山廃酛は「濃さや重さ」という点にその真骨頂があると僕は思うのです。

地酒やこだまさんのサイト、「お酒の用語解説(地酒やこだま流)」の【生酛・山廃酛・速醸酛】の項目から引用

はい、3回読みましたか?読んでみて。酒が面白くなるから。


「山廃酛」というのは酒を守るために必要な乳酸を、自然に存在する菌の力で生み出す酒製造の手法で、同じく自然の菌の力で乳酸をひねり出す「生酛」と比べて「濃さや重さ」が特徴な製法なのでした。


ではオッケー、今日の定点観測に参ります。


今日はぶどうではなくいちごの香りが勝りますね。
口に含むと乳酸の香りと膨らみを感じる。ふくよかだ。

今日はこれまでと違い完全な空腹でやってないからか(すみません空腹でやるつもりだったけど揚げたての明日葉天を我慢できませんでした笑)、甘みをマイルドに感じる。空腹時に近いほうが、甘みを感じやすいようです。

甘すぎない。アルコールのぎらつきも少ない。酒単体で見ると前日までよりボリュームが無くなったようにも感じる。

ただ、余韻は長い。舌の上に残る散りつつある桜の花弁を愛でるようなひとときが味わえます。

美しさには、変わりがないですね。

このお酒が「山廃酛」だけれど味の印象がそれほど(引用で解説されていたように)重くないのにはもう一つのキーワードが関係しています。

それは「本醸造」。これは明日以降にしましょうか。

ではでは乾杯!皆さん良い酒生活を!

酒と2人のこども達に関心があります。酒文化に貢献するため、もしくはよりよい子育てのために使わせて頂きます。