インド人の骨
学生のころ、形質人類学の授業をとっていた。人骨を組み立てる実習があり、ふるびた枯れ枝のような茶色い骨を、足甲の細かいところまできちんと組み合わせてゆく。全て時間という浄水できれいに洗われて、血管跡のひとつも残らない様だから怖がったり気にしたりする学生もいなかった。私は只、出来上がった人骨の予想外の「小ささ」に胸が縮まる感じがした。自分もこんな姿になってしまうのだろうか。授業はつつがなく終了した。
すっかり忘れてサークルの練習にいそしんだあと、飯を食いに行った。行き付けの蕎麦屋で鳥唐を載せた冷蕎麦を注文する。程なく届いた器を前にごくと喉が鳴り、仲間を待たず箸先に蕎麦をつまんで持ち上げた。ふと、うわっ、と、異様な匂い・・・クレゾールのような強い香り・・・。次いで、肩越しに、何者かの「顔」が覗き込む気がしたのである。
「気がした」ではない。「ビジョンが浮かんだ」のだ。
浅黒い顔。細面で眉毛が濃く、鼻が大きい。黒い髭。
インド人、という直感が働いた。「食いたがっている」。
だがこいつよりもっと腹が減っている自信があった。練習はそれなりにきつかった。当時霊感もそれなりに力をもっていたと思う。「影」を拭い去るように勢い良く掻き込むと、すっと消えた。
翌日。
友人と前日の実習について話していて、ふと、骨が誰なのか、という話題になった。
あ、あそこの骨はね
聞いた話しだが、と前打ったうえで一人が言うには、こうだった。
輸入らしいよ。戦前とか、昔のことらしいけど、
何でも、インドなんだって・・・
・・・
クレゾールの匂いが・・・ふと鼻をかすめた。
2000
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