「海産物たち」

こんな夢を見た。

海へりの寒村にいる。天気ははれているのにどんよりとした陰がただよい塩気をふくむ空気が淀んで肌にへりつく。

海から漁師達があがってくる。

みな頬はこけ俯き髪は干乾びた海草のようにざくりと垂れ下がっている。沖縄の旧い巫女の着るような浴衣とも着物ともつかない布をまとっている。

いまどきこんな漁師がいるだろうか。

先頭のひときわ体格のよい男がこちらを見て指をさす。

人間だ!

網を投げ出すと私めがけて駆けだす。つづきつぎつぎと漁師達は私を襲おうとする。あわててきびすを返して走ろうとするが砂地に埋もれ思うように逃げられない。裸足の裏が水にひたしたかのように冷たい。砂は乾いてはいるがどことなく汚れた感じを受ける。ああもう肩を掴まれた。

男の顔をみると鯖のような目をしていた。

この男は人魚を食ったのだ。

水面に浮くように記憶が口をついて出る。ああ、この男達はみな人魚を食って、不老不死となったのだ。

だから永遠にこの海岸で網を曳き続けなければならない。

そうだ

たったひとつだけ救われる方法があるのだ。

「生きた人間を食わないと死ねないのだ。」

肩口に噛みつかれフカに似た牙がいきおい刺さるがたいして痛くは無い。次々と男達は私の体を蝕んでいく。

死ぬために殺すと言うのはいかにも生きた人間の考えることではないとおもった。


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