Ep.001: 老婆とユニオンスクエア-ニューヨークの追憶
よく私は人から「喜怒哀楽」のうち怒りと哀しみが欠落しているといわれる。最後に怒ったのはいつか?と訊かれても、あまり記憶にない。
同様にあまり泣いたこともない。幼少期はピィピィと頻繁に泣いていた記憶があるが、最近はそういうことがメッキリ減った。しかしそんな私が不覚にも道端で涙したことがある。
そのキッカケは、小柄な老婆との出会いであった。
少し肌寒かった春の夕刻、後1時間もすれば日も沈むだろうといったところで、街全体はオレンジと紫のフィルターを通したような色合いだった。
私は休日の日課である友人とのトレーニングをクイーンズのアストリアで終え、ユニオンスクエア辺りで下車し、激しいトレーニング後の独特な身体と頭の火照りを感じながら、意気揚々と街をぶらついていた。知り合いの店にでも寄って彼らを冷やかそうか。
するとかなり高齢の中国人の小さな老婆に腕をトントンと叩かれた。彼女は紙切れ一枚を手に持ち、そこにはグーグルマップの地図が印刷されていて、漢字で◯◯眼科と書かれていた。どうやら彼女はそこに行きたいらしいが、道順が分からないようだった。
私が住所をスマホで調べると、眼科はユニオンスクエアから徒歩5分くらいのところにあり、私が指で示し、彼女がその方向に進めばそのうちに辿り着ける簡単な道順であった。
しかし道行く人たちの肩にも届かないくらい小柄で、肩は落ちこみ、息子か孫かに地図の紙切れ一枚を渡され「自分一人で眼科に行ってこい」と言われたかもしれないシワくちゃの老婆のしぼんだ目を見ると、放ってはいけなくなった。
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