スタンディングオベーション
つい先日までやっていたnote × WOWOW企画の#映画にまつわる思い出 の記憶を手繰り寄せるなか、映画館での出来事をふと思い出した。
私の住む町にもかつてはあった映画館にも、母に連れられて幾度となく行った記憶がある。
母、兄弟妹3人の4人で行くのだが、観に行く映画は母が観たいと思うもの。
だから基本洋画、字幕版。邦画は観に行った記憶がない。
唯一例外はジブリアニメ。東映アニメフェアの2本立てや「ドラえもん のび太の〇〇…」は観に行ったことがない。
そういえば「ゴジラvsメカゴジラ」は観に行った気がする。
だけどそれも父が連れていってくれたような…
あまり定かな記憶ではないが、まあそれはいい。
小さな町で唯一の映画館のスクリーンは4つ。
そのうちのひとつで通年ではないにしろ、東映アニメや特撮ヒーローもののいわゆる子ども向け。
スクリーン2で邦画。スクリーン3で人気作品の吹き替え版をやっていると、母が観たいと思うような洋画の字幕版はスクリーン4でしか上映されない。
人口も少ない町だし、当時はレンタルショップが町には2軒あってそちらのほうが全盛の時代だったのもあろう。
私たち4人が観に行く作品の客席はいつも閑古鳥。上映時期も全国封切より遅く、終映もどこより早かった。
母は「吹き替え版なんかやらんでもいいわ」などとボヤいていたが、映画館からすれば実入りの少ないほうを早く終映したいのは当然だ。
そんな閑古鳥の、洋画字幕版の作品を観に行ったときのこと。
本編が終わりエンドクレジットが流れている最中、母が突然立ち上がり拍手を始めたのだ!
突然の気配にビクッ!として母を見ると、スクリーンからの光に照らされて、おぼろけながらも立ち上がり拍手するシルエットが浮かんでいる。
普段から感情の起伏の激しい人なのは知っていたが、おいおい…まさか映画館で立ち上がって拍手なんて…
しかもたぶんちょっと泣いている。
いくら閑古鳥とはいえチラホラお客さんもいる中で…マジかよ、勘弁してくれよ…というのがその場の息子の本音である。
他人のフリをしようと母から目を逸らすのが精一杯の抵抗であった。
海外なら日常的な風景であろう。しかしここは日本だ。しかもド田舎のスクリーン4つの小さな映画館だ。
なぜかそのときの母だけはカンヌ国際映画祭の会場にいた。
その強烈な違和感が記憶として残っていたのだ。
さて、ここで問題なのはなんという映画だったか?なのだが、これがまったく思い出せないのである。
子ども心に強烈な出来事だったのにも関わらず、作品名と結びつかない。
気になり過ぎる……
ということで早速、当時同じ場にいたであろう弟にLINEできいてみる。
ダメか…だが、そういった出来事があったことは間違いなさそうだ!
このあと電話で直接話してみると、母が感動しきりだった記憶があるのは「ブレイブ・ハート」か「グラディエーター」ではないか?
というところに落ち着いた。
メルギブソン監督、主演の「ブレイブ・ハート」は1995年の作品。私は当時11歳、弟は9歳、妹は6歳。記憶に残りそうな年齢ではある。
この「ブレイブ・ハート」に関しては母としても特別な思い入れがあるはずだ…それはまた別の機会で語るとして、
「グラディエーター」はどうだろう。これも母はどハマりしていた記憶がある。
2000年。リドリースコット監督、ラッセルクロウ主演。もちろん作品自体名作だが、母はどちらかというとラッセルクロウという俳優に沼っていた。
当時の私の年齢は16歳。16歳の高校一年男子が母親と映画に行くのは考えづらい。
妹にきいてみるという手もあるが、当時の年齢では覚えていない可能性のほうが高い。
仕方ない、、これで長年の記憶の疑問が晴れるならとあまり気は進まないが本人に尋ねてみる。
母に電話。
「もしもし。
あのさ、昔おかんが映画館の〇〇座で立ち上がって拍手したことあったの覚えとる?
あのときの映画ってなんやった?」
「え〜っ、そんなことあった〜??全っ然記憶にない!」
(オイオイ…ウソだろ、、え〜っ?……はこっちだよ…)
「本当に覚えてないの?俺も〇〇(弟)もすごい印象的やったで間違いなくあった!って話してたんやけど」
「お母さんちっっともわからん!それにそんないい映画、あの映画館の〇〇座がやるとは思えんけどな(笑)」
あげくの果てに映画館のチョイスをディスり始めた。
母はこういう人である。
このあと、ダメ元で妹にも聞いてみたがやはりわからなかった。出来事の記憶もなかったので、やはり私たち兄弟妹とも小学生の頃のことなんだろう。
果たして母が今は無きド田舎のスクリーンに向かってスタンディングオベーションをした作品はなんだったのだろう…
子どもの頃の私にとっては苦い記憶だったのだろうか?それゆえ、作品自体も記憶の彼方にしまいこんでしまったのか…
とりあえずは#映画にまつわる思い出 という企画を通して記憶を辿り、こうしてまとめることができたのは良かったと思っている。
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