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夢色のパレット

-home-

朝からナンシーは不安だった。
いつも通りお父さんとお母さんと一緒に朝食を食べていても、デザートが大好きなイチゴヨーグルトでも、週末に買ってもらったお気に入りの黄色いパーカーを着ても、どうしようもなく不安だった。

当然、お父さんもお母さんも様子が変なことに気づき心配するが、熱もないし、食欲もある。
なにより、ナンシー本人が
「大丈夫」
と言うので、お父さんがいつも通り、幼稚園に送って行った。
2人が家を出る直前、お母さんはお弁当袋にナンシーが好きなゼリーをこっそり入れた。

-kindergarten-

「ナンシー、どうしたの?元気ないじゃん」
幼馴染で同じ幼稚園、ヤンチャだけどどこか頼りになるシドが話かけてきた。

「別になんでもないよ」
「いや、なんかおかしいよ」
「・・・。実は、昨日、怖い夢をみたの」
「へぇ〜。どんな夢?」
「覚えてない。でもすごく怖かったの」

お父さんやお母さんには怖い夢をみたから不安だなんて言えない。言ったらどうせ子供扱いされて終わるんだから。

「夢かー。寝ている時にみる夢とは違う夢ってあるの知ってる?」
「あー、”アイドルになりたい!”とか”ユーチューバーになりたい!”とか、そういうのでしょ?」
「そう。大人がよく聞いてくるヤツ」
「よく聞いてくるよねぇ。わからないって答えてるけど、本当にわからない」
「わからないんだ。じゃー、これ使ってみよう」

そう言うとシドはお道具箱から絵の具とパレットを出した。

「ナンシーの夢色のパレットを作ろう」
「夢色のパレット?」
「好きなものを言ってみて。食べ物とか」
「イチゴ、あとオレンジとシュークリーム」

赤、オレンジ、ベージュ。シドはパレットに絵の具を出していく。

「食べ物以外でもいいんだよ」
「じゃー、四葉のクローバー。海も好き。あと、このパーカーとデニムも」

緑、青、黄色、藍色をパレットに出すシド。

「結構カラフルになったね。とりあえず、これがナンシーの夢色のパレット。今度は画用紙に線を描いてみよう」

好きなものの色が画用紙の上で虹色になっていく。

「うわー、綺麗。虹色のパレード。で、これがなんなの?」
「こうやって好きなものを想像しながら画用紙に描いていくと楽しいでしょ?怖がらないで好きなものをどんどん増やすと夢ができるんだって。大人が言ってたよ」
「夢ができたらどうすれば良いの?」
「もっと大きくなったらわかるってさ」
「大人っていつもそう言うよね」

しばらくシドと一緒に夢色のパレットから画用紙に線やマル、好きなモノの絵を描いた。
いつの間にか怖い夢のことなんて忘れていた。

-lunch time-

お弁当の時間。今日は大好きなサンドウィッチだ。しかも、ブルーベリーのゼリー付き。
夢色のパレットにハムのピンク色とブルーベリーの紫を足した。

好きなものを沢山見つけよう。
その先の夢の話は、もっと大きくなった自分に任せてみよう。

ナンシーはそう思った。

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