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2022年10月の記事一覧

短編小説 いつかの暗闇

「冷めてもおいしいコーヒーってあるけど、やっぱりあったかいほうがおいしいからさ」
 彼と別れたのは銀杏並木がまだ青々とした秋の入り口で、強い日差しを掻き分けて向かった午後の喫茶店が満席で入れなかった私たちは銀杏の木の下の陰に隠れながら別れ話をした。

「出会ったばかりの頃だったら一緒に着いていってもよかったなぁ。でもいまは違うなぁ」
 2年付き合った彼は私が他県へ職場が異動になると言ったとき、そう

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