商売っ気のない塩唐揚げ 小笠原ひとり旅4日目 #8
スマホでぱしゃぱしゃと音を立てて撮っているひとが多い夕日スポットよりも、地元の方がなんとなく眺めて夕日が沈んでいく場所の方が好きだ。
そんな私にとって、夜はすこし寂しいけれど、扇浦地区はぴったりだった。
シーカヤックでくたくたになり、冷房の効いた部屋で休んでいた。
17時10分、窓から見えるグレーの軽バンのフロントガラスの反射に、夕日の気配を感じた。
4日目の夕日も、同じ場所でみる。2航海分の12日間の余裕がなければこんなスケジュールでまわれなかっただろう。
すだっちにも「できたら絶対2航海のほうがいいよ。1航海だとばたばたいそがしいからねえ。今回の海は島の人も働きたくないくらい最高のコンディションな海だしね。」と言われた。
ここでは、夕日が特別なものではなく、朝歯磨きをする習慣のような、夕方におとずれる生活のリズムだった。
18時頃になると、約束をするわけでもなく、住民やわたしを含めた観光客が数人、ポツリポツリと集まり出す。
お酒を飲むでもなく、夕日が海のむこうへ沈むまで、たのしそうに談笑している。世代はバラバラだ。
もし人があつまる口実にお酒があるのであれば、みんなで夕日を見る場所があるだけで、お酒は必要ないのかもしれなかった。
18時30分頃になると、バラバラとなんとなくお互いのお家へ解散していった。
夕日を満喫してから、二見へ繰り出す。18時38分発のバスは早い終電で、街へでかける背徳感がすこしあった。二見には送迎してくれる居酒屋もあるらしいので、現地で探してお願いしてみようという魂胆だ。
みかける飲食店に、送迎ついてますか、と聞いてまわる。
「うちはやってないね!」
「あ〜ごめん、もういっぱいなんだよね」
このどちらかの返答をもらうことが多かった。送迎をやっていないか、やっているところは予約や人でいっぱいなのだ。勢いで街に繰り出したツケがまわってくる。
なかなか良いところに巡り会えず、奥の方まで歩いていくと、立派な外観の居酒屋?に出会った。あまり人が入っていないようだけど、この際送迎つきで飲めたらそれでいいので、なりふり構わず店内へ。
引き戸を開けて、何度も断られてきたことばを口にする。
「すみません・・・送迎できますか?」
「あ、送迎、大丈夫ですよ。」
あぁよかった。街まで出ておいて、何もできずさまようところだった。誰かと話せるかもしれないので、カウンターに座って、瓶ビールと島もののキハダマグロの刺身を注文する。
ひとりで、ゆっくり食事をたのしんでいると、奥から陽気なおじさんが出てきた。聞いてみると、いま泊まっているロックウェルズ元オーナーで、いまはまんたのオーナーしているようだった。
宿泊業は休みがなくて、客単価が低いのに部屋数も少ないから大変だったよと、生々しいお話をきく。内地に戻ろうかとしているときに、今のまんたの物件を紹介してもらって、元々高級料亭だった場所を居酒屋にして、なんとか切り盛りしているそうだ。
話はひろがって、ご家族のお話へ。娘さんは「内地にいく」と宣言して、高校に行くために島から出て行ったそうだ。外に行くのはその学年で、20人中3人だけだったらしく、周りの人は、なんで出ていくんだとと言った。「だけど親離れは早い方がいいし、ふらふらしてた俺もとやかく言えた口じゃないからね」と、にこやかに話すオーナーがかっこいい。
島のもので作りたかったという塩ダレの唐揚げは、朝からじっくりと仕込んで皮にもこだわっているとお伺いした。好きな食べ物は?と聞かれて唐揚げと即答できるほど唐揚げに目がないのだけど、この日食べた魚料理をすべて忘れるくらい、最高の一品だった。
あまりにも美味しくて思わずオーナーさんへ「なんでメニュー表にオススメって書かないんですか?」と聞いた。
「なんとなくおすすめって書いてあるから頼むひとでなくて、唐揚げをすきな人が頼んで本当のおいしいが聞きたいからだよ」
「ほんとうに、オーナーさんは商売っ気がないですね」
「本当においしいと思ってくれた人はまたきてくれるからさ、そういうのがこの仕事やってて嬉しいよね。」
とオーナーは笑っていた。
商売っ気がないけど、きちんとまずは美味しいものを届けようとしている姿勢に感銘を受ける。何事もまずは売りたい、儲けたいことが目的じゃなくて、いいものを作ってお客様に喜んでもらうことからだよなあ。
食べ終わって、宿まで送迎までしてくださり、ありがとうございました。
明日はとうとう念願の日本で一番遠い島「母島」へ移動します。
↓ 次回へ続く
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