夜明け前のラーメンと朝日。
「午前3時から9時まで空いているラーメン屋、いかね?」
いつもどおり前置きのないLINEが、お店のインスタアカウントURLとともに乱暴に届いた。
すぐに明日の東京の天気を調べて晴れだったから「いこう」と粗雑に返した。
そんなわけでいま、夜明け前からラーメン屋のためだけに朝5時前に起きて、まだまだ夜の街のなかをとおりすぎ、世田谷へ出向いている。バカだなあ。
乗ったことのないローカル線がなかなかこない。妙に郊外に小旅行をしているようで、朝の味わいが深まっていく。
駅で手を挙げて迎えいれる友人。暗闇でポツンと灯りの漏れるお店が本当にあった。異世界に迷い込んだ気分だ。
おそるおそる扉をあけてカウンター席に座る。「いらっしゃい」淡々とにこやかにラーメンを作る店主。機嫌が良いラーメン店主って珍しいなあ。自分のペースでやってるからかな。
旨み成分がぎっしり詰まった醤油ラーメンで美味かったなあ。スープと麺がよく馴染んでいて、ガスバーナーで炙られたチャーシューが香ばしさをもまとっていた。
お店を出ると美しい朝日が少しずつ姿を現していて、真っ暗だった空が薄く色づいていた。PERFECT DAYSの平山が出勤時に空を見上げるときのシーンが脳裏をよぎる。
せっかくだから三軒茶屋まで歩かない?と誘う。いいねと二つ返事でOKしてくれた。そうこなくちゃ。
すこし歩くと、名前には聞いていた豪徳寺を見つけて、落ち葉拾いのおじさまを横目に散策した。
鳥たちのさえずりに心を奪われていると、寺院や木々の頭を、朝日がゆっくりと暖色のオレンジ色に染めていった。その様がとにかく美しかった。
夕日はビジネスになる、という言葉を聞いたことがある。ビジネスにならないかもしれないけど、僕は夜明けから朝にかけてが好きだ、とあらためて思う。
「東京にいるのにさ、地方に旅行に来たみたいだね」と友人は言った。
朝早く起きるだけでこんなにも非日常を味わえる。だから早起きはやめられない。
コンビニでホットコーヒーを買って朝日に照らされる住宅街をゆく。焼きたてのパンが全種類並ぶパン屋さんで塩バターパンを片手に、朝日であったまりながら2回目の朝食だ。
今年もいい年になりそうだね、と言葉を交わしてお別れした。実に2時間の出来事だったけれど、1日中一緒にいたくらいの充実感があった。
うん、今年もいい年になりそうだね。
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