一人だけど、独りじゃない
ある御経には「生まれる時も独り、死ぬ時も独りである」と説かれています。確かに、自分が生まれる時も死ぬ時も、誰かと一緒ではありません。ただ、それは「一人」なのであって、必ずしも「独り」とは限りません。
うちには今年の6月で6歳になる息子がいます。家内の妊娠がわかった時から一体どれだけの人から、どれだけの期待が注がれてきたことでしょう。私も家内も毎日、途切れることなく我が子のことを想い続けていました。本人は母体の中で一人きりですが、決して独りではなかったのです。それは今でも何一つ変わっていません。
そんな我が子との出会いの前に、私は父との別れを経験しました。どんなに心配だとしても、ずっと一緒にいる訳にはいきません。どうしても父を一人にしてしまう時間ができてしまいます。でも、父は決して独りではありませんでした。お寺では皆が父のために祈り続け、全国各地でも多くの方々が祈ってくださっていたからです。
もちろん、臨終の時も独りではありません。病室には家族が集まり、父の最期を見届けました。その後も家族は父のことを想い続けて今に至っています。今年の6月で丸8年になりますが、これまで父を独りにしたことは一度もありません。
人は自分の人生を歩みます。それは唯一無二の道であって、誰かと一緒に同じ道を歩んだり、途中で道が交わり一つになったりすることはりません。つまり、そもそも人生というのは一人旅なのであり、それぞれに違う道を歩むもの。しかし、だからと言って必ずしも「独り」ではないのです。
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