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井出さんのお絵描き教室 2

昔の家のドアの次に書いたのはピンク色がかったオレンジ色のドアで少し大きめなもの。キャンバスからは少しはみ出している。扉の部分を描いてみると、それは開きかけていてドアの枠からはわずかに前に出ている。引いて開けるタイプのドアだ。中からは光ではなく、闇のような濃い茶色い影が見える。中に光はないのだろう。その闇がドアを開けると広がろうとしている。今はまだ少し開けてみただけなのだけど、箱のドアから暗い何かが顔を出している。ここでやめておけばそのまま何もなかったことにできる。今はそっと覗き込めるだけだし、何かが出てきてはいない。このままにして、開けずにそのままにしよう。描き終えるとそんな印象を与えるドアだった。

そのほかにもいくつかドアを描き、右上に大きな茶色いドアに人が出入りするような中サイズのドアがある扉を描いた。なぜこのドアを描いたのだろうか。無意識の選択だった。ドアの表面を描いているうちにモロッコのフェズで泊まったホテルのドアだったことに気がついた。奥に押し込むタイプのドア。部屋の鍵に不具合があって夜中に部屋から出られなくなったホテルだ。このホテルにチェックインした時は夜だった。中から黄色い優しい光が漏れている。ドアには昼の顔もあった。記憶の中ではピンクの壁だった。ちょうどこのドアの下の紙面に四角く囲ったエリアを下書きして、扉のないドアを描いた。ドアのないドア。それはもうドアではなく入り口だ。ドアはどこかへ続く道の入り口だから希望というか、そのドアの向こうの世界を描きたかったのだ。もうそこに扉はなかった。

夜の道は地面が見えて遠くまで広がっていて進んでいけそう。でも実際には何があるかわからない。それでもそこに広がる道を描いていたらなんだか枠の中に描くのがかいやになり、その境界を飛び出して夜と闇が外の世界へ広がっていった。その夜が上に描いて到達した先がフェズのホテルのドアだった。ここに繋がっているのかぁ。思いもしなかった記憶のつながり。少しだけ開いたドアは内向きに開くタイプで中の灯りが少しだけ見えている。希望としての光に見えた。部屋から出られなくなるような体験をしたホテルだったけだ、タジン鍋の作り方を見せてくれた調理スタッフかいたりと、いいところはあった。夜に到着した私が駅から電話で問い合わせるとタクシーの泊まる場所までスタッフが迎えにきてくれた。行き先と料金を交渉してタクシーに乗るのに慣れた頃だったのでホテル滞在自体にトラブルが起こるとは思いもよらなかった。フェズの街、モロッコの古都であるこの街は世界遺産にもなっている。また行きたいかと言われるともう2度と行きたくない。でもまた行くことになるだろう。マラケシュとフェズは日本から行くなら立ち寄りたくなるだろうから友人を案内したり、なんだかんだで多分行く。街でたまたま出会った中国人の団体さんたちと一緒に観光した楽しい旅、人にたくさん出会った場所でもある。

そして可能性としてのドア。続く。

写真は翌日行った富岡製糸場の扉。大きい木の扉はモロッコで見たたくさんのドアに似ていた。

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