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ドアと鍵の物語〜第二章 1

フェズに到着した時、電車に6時間乗り、その前にバスで3時間移動した後だった。エッサウィラからの大移動。電車に乗る前にマラケシュでランチを食べ、マクドナルドのハンバーガーをSNSに投稿した記憶がある。そこからめちゃくちゃチンタラ走る電車に乗り移動した。行きは、つまりカサブランカに到着した朝の電車では、初めて見るオレンジ色の景色に大はしゃぎしていたのに帰り、つまりマラケシュからカサブランカ方面の電車ではもう見慣れた景色になっていた。ペットボトルの蓋がきちんと閉まっておらず、機密性の高いシルバーのトートバッグはバケツと化した。中のびしょびしょのガイドブックを誰もいなかった車内に干して、荷物を乾かした。6人がけのコンパートメントの車両は乗客同士がおしゃべりできるようになっており、親子連れとかカップル、一人旅の人などありとあらゆる人が入れ替わり立ち替わり乗車してきた。5歳くらいの少女におやつをもらったりしている間にやっとフェズに着いた。すでに夜の遅い時間だった。夜の9時ごろだったかな?とにかく駅からタクシーで旧市街まで行き、ホテルのスタッフに迎えに来てもらった。ここまではよかった。ホテルにチェックインして鍵をもらう。その鍵が壊れていた。鍵がかかることはかかるが、押しながら回転しないと開かないタイプのヨーロッパ独特の古いタイプで、しかもちょっとかかりにくくなっていた。日本の感覚だと完全に壊れている鍵で、こんな鍵お客さんには渡さない。そもそも日本のホテルではほとんど全てのホテルがオートロックでカードキーだからこの物理的な鍵は旧時代の遺物のようなものだ。書いてるだけで嫌になるが、部屋に閉じ込められた話を書かないと先へ進めない。やれやれ。

ホテルの部屋から出て何か食べ物を買いに行くためにホテルのスタッフに聞いた。一緒に近くの売店へ連れて行ってもらう。ヨーグルトと飲み物を買ってホテルの部屋へ戻った。疲れてそのまま寝てしまった。夜中に起きてトイレに行こうとして、ドアを挟んだ向かい側のバスルームに行くために、自分の部屋から出られなかった。部屋の鍵が開かなかった。朝まで出られない。ホテルのスタッフは夜はホテルにいない。いまこの瞬間に火災や地震が起こったら閉じ込められたまま逃げられないなと思うとちょっと恐怖に襲われた。そんなことが起こる確率はかなり少ないが、監獄に閉じ込められた気分だった。しかもトイレがない。部屋の中の荷物をすべて調べて部屋の中に鍵が無いことがわかった。この時部屋の外に、つまりドアに外から鍵がささった状態だったことが後からわかる。鍵の意味がまるで無い。通常なら扉は内側から開くのだけど、壊れていて開かなかった。結局朝の6時ごろに電話してホテルのスタッフに鍵を開けに来てもらった。

このホテル、朝ごはんはまあ普通に美味しかったしキッチンのコックさんの女性はタジン鍋作るところを見せてくれたりしていい人だった。問題は鍵だけだった。移動の疲れと鍵のトラブルで嫌になり、次の日は1日部屋で休むことにした。鍵は開けたままにして、少しドアを開けておいた。出れなくなるより誰か入ってくる方がいい。ほんとうか?

長期旅行では必ず設定するオフの日を作り、フェズの観光はほどほどにしてゆっくり過ごすことにした。この頃から熱っぽくて咳が出るようになった。多分電車で移動中にウイルスに感染したのだと思う。でも体温計も持っていなかったし、風邪かな?ぐらいにしか思っていなかった。

このホテルに2〜3泊してシャウエンへ行き、最後の滞在地であるタンジェへ移動した。ここで旅が思いがけず延長することになる。まるでその地に来るためにモロッコ旅行があったかのようだった。

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