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行動科学とデザイン、学び続けて2年半経ちました。

行動科学や行動経済学×デザインを学びはじめて約2年半ぐらい。

読んだ関連記事は150以上。見つけた事例は60、フレームワークは10個ほど、関連本は25冊以上読んでみました。

今まで学んだことをポイントに絞ってここに書きます。スライドでサクッと見たい方はこちら。


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まずはじめに人の習性や思考のクセをスキとキライで分類してみました。(学術的な分類や表現については正確ではありません…。普通に生活していてスキ・キライの感覚に「納得できるか」を基準にまとまっています)

人は、そこそこ選びやすくて満足できる選択肢がスキ

ハーバート・サイモンが生み出したサティスファイシングという考え方は、使える(思い出せる) 選択肢のなかから、必ずしも理想的とは言えないが、限りある認知リソースを使ってその場で決断を下すという観点では満足できそうなものを受け入れる過程をいう。
(中略)
まず、たいていの顧客は今やっていることを、今までよりも楽に続けたいとだけ思っている。
引用:脳の仕組みとユーザー体験

脳は常に省エネを考えています。とにかく考えたくない。なにか新しく問題に当たると考える必要が出てくるためすぐに「分かった」状態を作りたくなります。

そこで自分の経験則や知識を「いい感じ」にミックスさせて答えを出しておくことで脳自身はそれ以上考える必要がなくなります。

情報や感情に圧倒されたとき、人間は一番簡単でわかりやすい解決策を自然と選ぶ。サティスファイシングを行う場面は無数にあり、デジタルインターフェースとのやりとりもそこに含まれる。

ものすごくごちゃついたページを目にして、そのページを離れ、安心確実な好みのページへ移動する人もいるだろう。商品の選択肢、あるいは州の予備選挙の候補を無数に提示され、細かな部分を検討するのが面倒くさくなり、一番目立って見える物や人を選ぶこともあるかもしれない。

ストレスがたまっていたり、よく探す時間がなかったりして、割高な商品をパッと買ってしまうケースもある。
引用:脳の仕組みとユーザー体験

わたしたちの毎日の行動は、目的のある動因や選択ではなく、もっとも目につく選択肢によって決められている。
引用:複利で伸びる1つの習慣

サティスファイシングの考えは認知バイアスの1つ「利用可能性ヒューリスティックス」(引き出しやすい情報を優先してしまい、それに頼ってしまう思考の癖)に近い概念です。

脳の立場に立ってみると毎秒ものすごい量の情報が感覚器からやって来るので、脳は「予め答えを用意しておく」ことも身につけています。

予測符号化理論と呼ばれるもので

予測符号化とは,環境から感覚器を通してボトムアップに入力される信号と,脳が過去の経験や知識,また他の感覚からの信号をもとに,内部モデルを通してトップダウンに予測する信号の誤差を最小化するように,情報処理を行う仕組みである。
引用:東京大学 認知発達ロボティクス研究室

まず脳が独自の仮想現実を作り出し、感覚器官から来た現実の情報との誤差を調整して、人は世界を認識しているということです。誤差が少ない場合は調整すらしません。(もちろん個人差あります。職人や専門家が素人が気づかないような違いを判別できるなど、その人の内部モデルがあくまで基準です)

つまり、現実世界をいちいち認識しているのではなく、脳内で作り上げた現実との誤差を修正しながら人間は日々生きているということになります。


人は、カンタンなことがスキ

ちょっとでも難しいな、面倒だなと感じると行動を躊躇します。これは前述した「考えることを最小化する」脳の働きがあるためでしょう。

たとえばAmazonの「今すぐ買うボタン」のカンタンさです。

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Source:Amazon

支払い情報や住所、配送日などを気にせず購入できます。

最近は他のECサイトでも「ゲストとして購入」があり、会員登録の手間を省いています。会員になれば次回以降は住所や連絡先、支払情報が自動で入力され、より購買体験がカンタンになります。

実際にカンタンであるかはとても大切ですが、カンタンそうに見えるor感じることも同時に大切です。

「パッと見て難しくなさそうだから、やってみようかな?」と思って行動したことが皆さんにもあると思います。

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Source:Youtube

これはIKEAが展開したキャンペーンの1つです。特製オーブンシートの上に決められた材料を置くだけで誰でもカンタンにレシピ通りに料理ができます。

料理初心者の方がこれを見たら実際の調理は手間も時間もかかりますが、少なくともカンタンそうに感じるでしょう。

カンタンさはモチベーションに勝ります。モチベーションを上げる解決策はたいてい時間とお金がかかる場合が多いです。それよりはプロセスの一部をなくす、もしくはサービス側が肩代わりする方が良いでしょう。

行動の実行は、やはりユーザーにとってとても負担がかかることだ。(中略)ユーザーの厄介な問題を、はるかに単純なものに置き換える。そのときユーザーは、プロダクトに行動を肩代わりしてもらうかどうかを決めるだけでいい
引用:行動を変えるデザイン

これはチート戦略と呼ばれています。たとえば、選択肢の1つをデフォルトにしてしまう、今すでに行っている行動に相乗りさせる(Suicaのオートチャージ機能など)こともその1つです。

では、どんな風にカンタンにすればいいのか。カンタンさの5つのポイントがあります。

・時間をかけない
・お金をかけない
・身体的努力をかけない
・精神的努力をかけない
・習慣化されていることに相乗りする

逆に望ましくない行動は難しくする(ユーザーとサービスの摩擦を増やす)ことも可能です。TikTokやTwitterではフェイクニュースの拡散を防ぐためにシェアする際に警告を出すことをしています。



人は、なんでも自分で決めるのがスキ

人は基本的に直感的な選択と行動に左右されている、しかし、自分は常に選択と行動をコントロールしていると思いこんでいる。
引用:行動を変えるデザイン

他人の行動を変えたければ、コントロール感を与えるべきだ。主体性を奪われたら、人は怒り、失望し、抵抗するだろう。社会に影響を与えることができるという感覚が、意欲や順守率を高めるのだ。
引用:事実はなぜ人の意見を変えられないのか?

「宿題やりなさい」と言われるとなんだか急に(余計に)やりたくなくなる。これは親が子供のコントロール感を奪っているからです。

子供ですら嫌がるのですから、大人はもっと嫌がりますね。心理的リアクタンスと呼ばれるもので「天の邪鬼な心」を誰しもが持っています。

人間にも「他人による説得」から自分を守るレーダー が装備されているのだ。 人間には、人の影響を受けたくない、自分の自由意志で決めたいという本能がある。

私たちはつねにこのレーダーで周囲の環境をスキャンし、自分に影響を与えようとする存在を警戒している。そしてレーダーが敵を探知すると、あらかじめ用意されている対抗策をくり出すのだ。
引用:THE CATALYST

たとえば、もしユーザー名やプロフィール画像を自由に決めれなかったらどうでしょうか?WEBサイトやアプリに「戻る」方法がなかったら?追加料金を払ってもいいのに船便しか配送方法がなかったら?

認知負荷が高くない限り、人は選択肢があることを好みます。選べること自体が快感なのです。

ここで注意したいのは、あくまでも自分で決めていると「感じること」です。AIに勝手にスマホプランを決められたり、回転寿司で流れてくるものしか食べれなかったりしたら、契約もしないしリピートはしないでしょう。(寿司屋の大将のおまかせコースですら、それを選んでいます)

最終的な判断(ギガ放題プランにする、大トロにする)は決して強制せずに「どうするかはあなたの自由です」とすると心理的リアクタンスを回避できる可能性が高まります。



人は、自分に都合がいい情報がスキ

人間の心は、従来の自分の考えに最も好都合な意見を快く採用するようになっている。(中略)

矛盾しているようだが、豊富な情報が得られるようになると、人は自分の意見にもっと固執するようになる。
引用:事実はなぜ人の意見をかえられないのか?

「自分の中にある信念と関係のある証拠を吟味するとき、人は見たいものだけを見て、出したい結論を出す傾向がある。期待通りの結果を見たとき、私たちは自分に『これを信じることはできるだろうか?』と尋ねる。

しかし、気に入らない結果を見たときは、『これを信じなければならないのか?』と尋ねるのだ。
引用:THE CATALYST

確証バイアス(自分にとって都合の良い情報や意見を取り入れ、それ以外は排除してしまう働き)が影響しており、詐欺や新興宗教などはこのバイアスを非常に上手く使っています。

なぜ、人は信じたいことを信じてしまうのか?

これは認知的不協和を解消するためだと考えられます。認知的不協和はアメリカの心理学者フェスティンガーが提唱した理論で、かなりわかりやすく一言でいうと「自分の認知と現実が矛盾したときに感じる不快感」です。

わかりやすい例がイソップ物語の「すっぱいブドウ」です。

この物語ではキツネが美味しそうなブドウを見つけ、食べようとしますが、ブドウは高いところにあり、届きません。何度かジャンプしますが全く届かず。

最終的にキツネは「どうせこんなブドウはすっぱくてまずいだろう!誰が食べてやるものか」と言って去っていきます。

人は、見たいものを見て、聞きたいことを聞いている。正しさよりも「信じやすさ」を優先してしまいます。

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ここからは人が嫌いなことをまとめていきます



人は、不確実なことが嫌い

結果がわからない状態は、マイナスの結果が起こると決まっている状態よりもさらに忌避される。ミーティングに遅刻するのが確実な状況は、たしかに気分がいいものではない。しかし、遅刻するかどうかわからない状況のほうが、それよりさらにネガティブなものとして捉える。

(中略)

本当の障害はお金ではなく、不確実性だからだ。 私はその靴を気に入るだろうか? サイズは合うだろうか? 商品の値段を 10 ドル安くすれば、顧客にとってお金の節約にはつながるが、不確実性を取り除いてはくれない。たしかに商品は安くなったが、それを気に入るか、サイズが合うかという不安は解消してくれない
引用:THE CATALYST

少しでも不確実なこと、不安なことがあると人は行動を止めます。僕の推論ですが大昔、人がまだ狩猟を生活の中心においていたころ、数メートル先で草むらが揺れたとしたら、一旦は動かず様子を見ていたと思います。(逆に我々の祖先が積極的に草むらへ向かったら、今人類は存在していないかもしれません)

こんな小話があります。

イギリスの鉄道では列車がダイヤ通り運行せず乗客からの苦情が殺到していました。そこで列車があと何分で来るか電光掲示板に表示したところ劇的に苦情が減ったそう。

ちなみに本当かどうか分かりませんが、この提案をした人物は役員へのプレゼンにわざと遅刻し、役員がカンカンに怒っているタイミングでゆったり入室。「これが皆さんの鉄道運行です」と伝えたそうです…。度胸ありすぎだろ。

もう少し現代的な例だと最近ではUberのみならず他のタクシーアプリにもある機能。あと何分で迎えに来るのかおよその時間がわかるものです。Uber Eatsにもありますね。

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Source:Uber

人は分からないものや不確実なものを嫌う傾向があります。車がいつ来るのか?今どこにいるのか?どんな車なのか?など待ち時間以外にも情報を教えてくれます。

Amazonのチェックアウト画面を思い出してください。支払い方法や合計料金、届け先、配送方法と日時、ギフトカードやポイント使用の有無など詳細な情報が表示されていませんか?。さらにその情報を変更することもできます。

購入に関わる不安や不確実性をなくすためにたとえ情報量が多くなったとしても、きちんとユーザーに伝えようとしていることが分かります。

さらに、Kindleストアでは本の試し読みが可能です。無料で一部公開されている部分を読むことが出来ます。

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Source:Amazon

本屋の立ち読みと一緒ですが、試せることで「買うまで内容が分からない」不確実性を低減できます。

不確実=ネガティブと捉えると、ネガティビティバイアスも関与して来ます。これはポジティブなものより、ネガティブなものにより注意を向け、関心を抱き、記憶に残る認知バイアスです。

心理学者のバーバラ・L・フレドリクソン氏が提唱する3:1の法則では、ネガティブな感情を上回るには3つのポジティブな感情が必要だと言われています。

つまり、メリットやベネフィットをどれだけ伝えてもたった1つの不確実性が原因で人は動いてくれないことがあります。

「どうしたら人はその行動をしてくれるか?」を考える前に「どうして人はその行動をしていないのか?」を考える方が良いのかもしれません。



人は、失うことが嫌い

損失回避(失う痛み)
人は得ることよりも、失うことを回避することを好む

およそ2倍、失うことのほうが効用があります。「5000円お得です!」よりも「5000円損します!」のほうが避けたいですよね。明日失効するポイントが1500ポイントあります」と言われると使わなきゃ!と思ってしまいます。

たとえば、Spotifyは退会時のフローで「失う痛み」を強調して退会をとどまるように訴えています。

・同じメールアドレスで再登録ができなくなること
・同じユーザー名を使うことができなくなること
・自作のプレイリスト・履歴・フォロワーなどが復元できなくなること

退会ではなく無料プランへのダウングレードすれば、プレイリストやフォロワーとの繋がりをキープできることを伝えています。

損失回避のウラには保有効果(IKEA効果)も背景にあります。

保有効果(IKEA効果)
保有しているor保有していると感じているものを高く評価してしまうこと

上場間近のD2C企業Warby Pakerは5つまでメガネを自宅に届け、試着できることで有名です。

試着しているだけなので、自分のモノではありません。しかし、家に置いてあり身につけるメガネであれば所有している感覚が生まれます。

返品することは失う痛みに感じてしまうでしょう。



人は、変化が嫌い

現状維持バイアス
提示された選択肢にメリットもデメリットもある場合、リスクを恐れ合理的な判断ができず、現状維持を好んでしまうこと。

わかりやすく言えば「前例踏襲」。明らかに格安SIMにしたほうがおトクなのに高額なスマホ料金を払っている人がいるなどが身近な例です。

特に変化が大きくなると不確実性が高まるのも伴って、行動を促すことが難しくなります。

現状が最高ではないが最低でもないとき、凡庸ではあるが悲惨ではないときは、たいていわざわざ変えるまでもないと思ってしまう。今の状態でもそこまで悪くはないからだ。
引用:THE CATALYST

今までの生活を今まで通りに続けたい。そんな気持ちが無意識下にあるのかもしれません。変化が起これば少なからず問題が起こり、それを解決するために脳はエネルギーを使う必要があります。

省エネマニアの脳にとっては避けて通りたいことです。新しいサービスに登録する、引っ越しする、転職や運動など普段していないことをするにはハードルがあるのです。

では、どうすれば変化を拒まずに行動をしてくれるのか?いくつか方法があります。

1つは「行動を起こさないことのリスク」を強調することです。イギリスのEU離脱を促進したブレグジット・バスが好例です。

そこでカミングスは、ヴォウト・リーヴ専用の大きな赤いバスを購入した。離脱派の政治家がそのバスに乗り、全国を回って有権者に訴える。バスの車体には、白い大きな文字で次のように書かれていた。 「イギリスからEUに払うお金は1週間に3億5000万ポンド。そのお金をNHS(国民保険サービス)に使おう」

やがて「ブレグジット・バス」と呼ばれるようになったこのバスは、ただ人々の注目を集めただけではない。行動しないことのコストを明らかにしたのだ。

イギリス人は、EUに残ったほうが安心で、お金もかからないと思っているかもしれない。しかし、バスのメッセージはその逆のことを伝えている。EUに加盟しているということは、莫大な額の会費を毎週納めなければならないということだ。

そのお金を、たとえば国の医療サービスを充実させることに使ったほうがいいのではないだろうかと。
引用:THE CATALYST

もう1つは、変化を小さくすることです。朝から活発に活動したいから10kmランニングするのではなく、玄関にランニングシューズを置く、ランニングウェアを枕元に置く、もしくはカラダを起こすために水を一杯寝起きに飲むでもいいかもしれません。

その人が変化を許容してもいいラインを探るために変化を小さくしてみましょう。

小さい変化を受け入れられれば、次は中くらいの変化に対しても抵抗感が減ります。少なからず変化を受け入れた自分の行動が以前の自分の認識を変えているからです。

簡単に言えば、変化を起こすには、「 大事な一歩の台本を書く」ことが必要なのだ。
引用:スイッチ

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デザイン上でよく使える心理効果

ここからはより深く人を理解するために、企業の事例をベースに心理効果を見ていきます。

ピークエンドの法則
体験は「感情のピーク(最高なのか最低なのか)」と「体験終了時の印象」で評価する傾向のこと

ディズニーランドは「体験終了時の印象」のために最後にパレードや花火を用意しています。混雑していた、暑い、寒いなどネガティブなことがあっても最後の最後で体験の底上げすることで、またディズニーランドに行きたいと思わせてくれます。事実、来場者の70%近くがリピーターなんだとか。

カーディーラーも同様に最後まで見送ってくれるのはこの法則を知っているからです。

「終わりよければ全てよし」って言いますもんね。体験全体の総和では判断されないというのがポイントです。

ちなみにこの法則を発見したのは行動経済学で有名なダニエル・カーネマンさんです。


希少性
商品やサービスが限定的になると、より欲しくなる傾向のこと

THE セールです。Amazonはタイムセールを行いユーザーに購入を促します。カウントダウンがあったりもするのでより限定され欲しくなるような仕掛けです。

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あくまでも希少であることが前提でこの効果は発揮されます。たまにやっているタイムセールだから買いたくなるのであって、毎日タイムセールしてるお店の商品に対して希少性は感じません。

仮説ですが背景には心理的リアクタンス(宿題やれ!掃除しろ!と言われると無性にやりたくなくなる)があり、限定される=自由を奪われるため、その反発なのかなと思います。

この機会を逃してしまったら、、、という失う痛みもあるのかもしれませんね。


権威性の法則
権威のある人の意見や発言、考えに影響を受けてしまうこと

最近になって導入された?機能です。Amazonにはたくさんの商品があり、選びきれないほど。そしてレビューも値段もだいたい同じである場合、どっちにしようかな、、、と認知的な負荷がさらに高まります。


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Source:Amazon

Amazon's ChoiceはAmazon独自におすすめする「すぐに発送ができて、評価が高く、お求めやすい価格の商品」のこと。

膨大な商品の中から「Amazonが勧めている」ことが購入のひと押しになります。

医師や学者自分が尊敬する有名人などの考えに影響されるなどはこの権威性の法則があります。お墨付きを与えることになるので、安心感を与えることができる効果もあります。本の帯などが身近な例ですね。


デフォルト
人はデフォルト(初期設定)に強く影響される

定期購入できる商品はデフォルトがこの「定期おトク便」に設定されています。

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Source:Amazon

とにかく人は考えることが嫌いなので、初期設定があるとそれに従う傾向があります。むしろ、その選択肢が良いものだと思う傾向もあるそう。

ちょっと工夫でとても使いやすくなるのに、PCの設定をほとんど変えていない。プリインストールされていたブラウザを使っているなどがより身近な例でしょう。


社会的証明
周囲の判断や評価に影響されること。特に適切な判断ができない曖昧な状況(初めて家を買うなど)はより強く影響される

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Source:Uber

社会的証明は諸刃の剣でもあります。あくまでも皆の意見や行動に影響されるため、赤信号、みんなで渡れば怖くない状態になることも。

外出自粛が呼びかけられている中、TVでたくさんの人出を見ると「みんなが外出しているなら、私だって外出していい」と考えてしまうかもしれません。

人間は環境や文化、つまり自分の属するコミュニティの規範や期待に驚くほど敏感である。
引用:スイッチ

Airbnbの共同創業者ジョー・ゲビア氏のTEDトーク「信頼のデザイン」が非常に参考になります。(↑日本語あり)


ゲーミフィケーション
ゲームで使われている要素(クエスト、アイテム、競争心、リワードなど)を他分野に応用すること

Uberのドライバーにはクエストのように一定の条件を満たすことで獲得できるバッジがあります。クリアするとドライバーに付与され、乗客からも見えるようになります。

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Source:Uber

バッチがあるとお墨付きなわけですから、乗客からのキャンセル率を下げることができるでしょう。それがドライバーのインセンティブになっています。

頑張って獲得したバッチには保有効果が働いています。報酬と可視化が非常にうまく機能しています。

ちなみにバッチはnoteにもありますね。地味に貯まるとうれしい。

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ユニット効果
与えられたタスクやモノをその量や大きさにかかわらず、とにかく終わらせようとすること

語学学習アプリのDuolingoは前述したゲーミフィケーションを非常に有効活用しています。

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ユーザーに毎日達成できる具体的で小さいゴールを設定できるようになっており、サクサク進めることができます。チャンクに細かく分かれていることもポイントです。

人は「やり遂げること」に快感を感じます。人はどんなに小さいことでも達成する体験に満足を感じるようにできているのです。お皿のサイズを変えるだけで食べきったと満足しダイエットを無理なく続けられるなどが身近な例です。

Duolingoの場合、毎日の目標を達成したあとにすぐ報酬としてアプリ内で使えるアイテムがもらえます。これも達成感を後押ししています。


エンダウト・プログレス効果
ゴールに対して前進や進んでいる感覚を感じたときに、人はよりゴールに向かうモチベーションを上げようと努力する効果。

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Duolingoに限らず多くのサービスでプログレスバーが採用されています。

例えばアプリのオンボーディング画面では登録内容が最小限になっています。登録段階で必要な要素が多い場合、ページを遷移させることで「登録が進んでいる」達成感を与えることができますね。

よくお店でもらうスタンプカード。あるガソリンスタンドでは洗車カードにあらかじめ2〜3つほどスタンプされているカードを顧客に渡したところ、来店頻度が上がったそうです。ゴールに近づけば近づくほど達成させたい欲がでます。

クラウドファンディングなどでも応用されている効果です。


認知的負荷
選択肢が多くなると最適な選択が出来ないのではないか?という不安が発生し、決断自体をしなくなる傾向。引っ越し、転職などが身近な例。

スーパーで行われたジャムの実験が有名です。「選択の科学」の著者でコロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授が行ったもので24種類のジャムを試食・販売した場合と6種類のジャムの場合では6種類のジャムの売上が高くなりました。

脳にも一度に処理できる情報の上限があります。選択肢が多い、どこに注意すればいいか分からない、コントラストが少なく、見つけづらいなど認知的な負荷をかけてしまうと決断を先延ばししたり、そもそも決断しないこともあります。

意思決定の力は有限です。朝、満タンになっていても日々の生活でたくさんの判断を行い、夜には疲れ果てあまり良い判断が出来ないとされています。(個人差があり、意志の力が回復する結果が出た研究もあるので一概には言えません)


コミットメント効果
自分の行動や言動に一貫性を持ちたいため、一度何かに対して宣言があるとそれを達成しようとする傾向のこと。

習慣支援系のサービスではユーザーに「いつやるか、どこでやるか、何をどれくらいやるか」を事前に決めさせることでこの効果を使っています。

居酒屋や美容室、クリニックなどの予約の際に「キャンセルされる際は、ご連絡いただけますか?」と聞くだけでも(連絡しませんと答える人はいない前提ですが…)効果があるそう。

明日からダイエットする!とSNSに投稿するorしている人は無意識的にコミットメント効果を使っています。


アナログな事例から学べること

デジタルだけでなくアナログな事例からも学べることがあります。

シートベルト着用率を上げるタクシーWiFi

こちらはFIATが展開したキャンペーンです。仕組みはシンプルでタクシーのシートベルトを締めるとWiFiが使えるようになります。タクシー側は安全にお客さんを運びたい。そしてお客さんはWiFiを使いたい。

そこでシートベルトをキッカケにしてどちらの目的も達成しています。

仕掛け学でも提唱されている「目的の二重性」が使われています。大切なのは考える順番です。

「シートベルトを装着してもらうにはどうするか?」ではなく、
「乗客はタクシー内で何をしたいのか?」から考えるとよいでしょう。

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Source: Ad Agency Le Burnett

タクシー広告見たらWiFi使えるとかでもいいかもしれませんね。実際のキャンペーンの様子はこちら。



ピンクの壁で事故を防ぐ

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Source: cowryconsulting

行動科学コンサルティングファームのCowry Consultingのプロジェクト事例です。

工事現場での事故や怪我が多発していた状況を変えるため、作業員の行動観察をしたところ高所作業や資材移動の時に彼らは使用機器の車輪をロックしないなどの最大7つの不必要な危険を冒していたことが分かったそう。

さらに作業員はリスクを冒す傾向が高く、それは他の労働者も同じことをしている事実によって補強され、彼らは何度も危険な行為をしていることが判明します。

対策として、若い作業員のテストステロン(男性ホルモン)を下げるため休憩室の壁をピンクに塗り直しました。その上
・毎週の懸賞チャンスを用意し、危険行為をした作業員は当選権を失う。
・複数名の作業員に安全管理役員になってもらい、他の作業員にアドバイス
をしてもらう
などを行った結果、80~90%の危険な行為が減ったそうです。

壁の色だけでなく、懸賞チャンスの用意、アドバイザーという肩書を作業員に与えるなどの複数の施策を合わせて行った効果があったのでしょう。

人はそれぞれ違うモチベーションや考え方、趣味趣向を持っています。
「大砲一発に願いを込めて、渾身の一撃を打つ戦略」よりも「ピストルをパンパンたくさん打つ戦略」の方が優れていることを表しています。


石鹸付きバスチケット

スリランカの病院Asiri Hospitalsが感染防止のために企画しました。チケットに石鹸が塗り込まれていて、水があればどこでも手洗いができます。

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Source:Nadeera Warawita

実際のキャンペーンの動画はこちら。

もはや行動を変えないという視点が新しいですね。人は現状維持が大好きなので、行動を変えずにこちらの目的を達成できるなら、最も抵抗のない解決策になるはずです。

他にもこちらでまとめています。


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番外編:良いユーザーを増やすための「自己決定理論」

自己決定理論は、内発的動機づけの概念をさらに発展させた理論です。

かんたんに言うと「全然やる気なし…」から「好きで好きでたまらない」状態までを統合した理論です。3つの欲求と2つの動機づけが深く関与しています。

3つの欲求とは有能性、自律性、関係性のこと。

2つの動機づけは外発的か内発的かの違いがあります。

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有能性(自分はできる!能力があると感じたい)
自律性(自分のことは自分で決めたい!)
関係性(周囲とよい関係でいたい、集団に属していたい)

この3つを満たすることで人は初めて自発的な行動を継続して取ることができます。

たとえば

職場で自分のスキルを発揮できていて、(有能性)ある程度の裁量で仕事を進められるし、(自律性)職場の人間関係が最高なんよ(関係性)。

だと自発的に高いモチベーションで仕事をし続けるでしょう。

モチベーションには「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」があります。

外発的な動機づけは報酬や罰、義務感を使ってモチベーションを高めようとします。内発的動機づけは楽しいから、興味があるから、自分の価値観と合っているからなど外的な要素はありません。

内発的動機づけのほうが持続し、効果的なのは理解できます。が、いきなり内発的動機づけを促すのは難しい。

そこで最初に外発的動機づけを行い、段階を経て内発的動機づけに移行させていくことが必要です。

たとえば

最初は3ヶ月無料クーポンがあったから始めた英会話スクール。2ヶ月もすると徐々に先生と話せるようになってきた。

すると将来目指していた海外就職が現実的になってきた。そのおかげで勉強自体が楽しくなり、英語で話している自分が好きになった。


内発的動機づけに移行するためには先に説明した3つの欲求

有能性(自分はできる!能力があると感じたい)
自律性(自分のことは自分で決めたい!)
関係性(周囲とよい関係でいたい、集団に属していたい)

を満たしている必要があります。

逆に内発的動機づけがある状態で外発的動機づけを与えるとアンダーマイニング効果が働き、やる気を失ってしまうことがあります。

英語を話しているだけで楽しいのに、突然英会話スクールから報奨金をもらい始めたとしたら「なんかちがう、、、よな」と感じてしまいます。

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次回は行動デザインのフレームワークを複数紹介しつつ、具体的なプロセスを考察していきます。

見る専でもOKな無料のSlackコミュニティあります。


行動経済学や行動科学×デザインの情報共有をしています🙌 毎週注目の記事や事例などをゆるく流しています。

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参考書籍:

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