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懐かしい街で、懐かしい感触

彼と出会ったとき、会話が弾んでいつの間にか2時間も経っていた。
それでも話し足りなくて、今度一緒に飲みましょう、と言って別れた。

それから1か月と少し。
その間たまにLINEをして、私は会いたい気持ちを募らせ続け、やっと会えた。

最初はどこか居酒屋でと言ってたけど、午後の中途半端な時間だったこともあり、彼の仕事用に借りている部屋に誘われた。

仕事の部屋があるのは聞いていた。そこは私が数年前まで住んでいた懐かしい街にあった。
私ははじめからそこに行きたかった。
誘ってくれてうれしかった。

いらっしゃい、おじゃまします、と入った部屋は清潔で、シンプル、おしゃれ。
フレームに入れられたアーティストのポスターがいくつも飾られていた。

テーブルを挟んで座り、音楽を聴きながら缶ビールで乾杯する。
この前の話の続きやそのほかの話。
心地よい声で、ちょうどいいテンポで、色んな話をして、私たちはたくさん笑った。

楽しいね、ギュッってしていい?
席を立つ度に彼は何度もハグしてくれた。
私もギュッてし返してみて思う、しっくり感。
なんだか不思議と懐かしさが湧いてくる。

飾られたポスターのアーティストの話になり、二人並んで眺めた。
話しながら目が合い、どちらからともなく自然と体を寄せ合って、見つめ合った。
何も言わなくても、少し微笑んでまっすぐ私を見つめる彼の表情から、思いが伝わってくる。
応えたくなった私はたまらず、彼の唇に軽くキスした。

ちょっと驚く彼。
その反応に思わず笑う私。
笑いながら彼の腕をすり抜けてテーブルに戻り、何事もなかったかのように話の続きをして、また缶ビールを飲んだ。

それからしばらくして、隣に来てと彼が誘う。
二人がけのソファに並んで座り、キャバ嬢とお客さんの設定で、また会話を楽しんだ。

その先はまだひみつ。

ただひとつだけ。
私たちはすごく楽しくて、リラックスしていた。
立場も常識も年齢も、過去も未来もそこにはなかった。
ただただ、互いに今を楽しんでいた。

そして時間は嘘みたいにあっという間に過ぎ去っていた。

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